第二百二十四話 山神の気づきな件
――某ファミレス
明来野球部は今日の祝勝会を開催していた。
「カンパーイ!!!」
各々、ドリンクバーで自分が飲みたいものをグラスに入れて乾杯した。
「いやー、最高の試合だったよなぁオメーら!!」
東雲はいつも以上に上機嫌だった。投げては六回二失点、ここぞでの奪三振が特に目立った。
そしてバッティングでは勝ち越しのソロホームラン。正に東雲の為の試合といったものであった。
「いや、あんた途中までまんまと相手バッテリーにやられてたじゃん。何? 二打席目のサイン無視」
「アァ!? 千河、試合出てなかったくせに何いってやがる」
「おいおい、こんな時くらい仲良く出来ないのか……」
氷室が落ち着かせながらも頭を悩ませていた。
「いやいや東雲サンさ、サイン無視した後の千河サンの演技が無ければ修正出来なかったっしょ?」
駄覇がメロンソーダをストローで吸いながら、ドヤ顔で喋っていた。なんとも絵にならない光景である。
「んだとこのガキ……」
「何スか? 一応俺は三回完全ピッチ、バッティングは猛打賞ですが?」
駄覇は九回表にもヒットを放ち、三安打を記録していた。しかも打点は先制点を含む二打点だ。駄覇はこの試合が高校初の公式戦であったが、全中制覇の立役者らしいデビューを放った。
「オメーはこっすいヒットだろうが、俺はホームランなの。わかるか? この違い」
「打点は一点だけでしょ。別に俺は今日の成績を何とも思ってないけど、よくそこまで粋がれますね?」
「落ち着こ落ち着こ! 二人ともマジすげーって!!」
「そうそう、今日勝てたのは二人のおかげだって」
青山と風間は手慣れた様子で二人の機嫌をとっていた。
そんな中、一名元気のない者がいた。
「兵藤殿。隣、宜しいか?」
「山神か……いいぜ。珍しいなお前から来るなんて」
「感謝致す。ではご無礼……」
山神は兵藤の隣へ腰掛けた。
「兵藤殿はポーカーフェイス故、中々気が付きにくいでござるが、何となく元気が無さそうにお見受けするが?」
山神の言葉を聞いて、兵藤は思わず笑みをこぼした。
「高校生すら欺けないなんて、余程今の俺は重症だな……」
「いやお主も高校生でござろう。面白いことを仰る」
「お前のいう通りだよ。今日俺は本当に何もできなかった。最後まで相手に搾取され続けたからな」
「兵藤殿は本当に言葉の言い回しが独特で趣深い」
「それお前が言う?」
兵藤は思わず笑ってしまった。
「ま、気にするなよ。俺がヘタクソだから対左サイドピッチャーに手も足も出なかった。ただ、それだけ」
そう言い残し、兵藤はスマホを見ながら離席した。そして数分後、彼は真剣な表情で戻ってきた。
「悪い、俺はこれで抜ける。グッドゲーム、今日はお疲れさん」
「えっ……ちょっと兵藤……」
守が声をかけたが、兵藤はすぐにお店を出てしまった。
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