第二百一話 初めての行為な件

 東雲は不破のサインを確認し、投球フォームへ移った。


「うらあぁぁぁっ!!!」


 東雲の指先が上手く縫い目にかかった。非常に力強いバックスピンのかかったストレートが投げ込まれた……ど真ん中に。


『!!!!!』


 不破は祈りながらミットを構えていた。



 ――ブィィン!!!


 ――バチィィィン!!!


「ストライク!!!」


 不破は大きく息を吐いて、確かめるようにミットの中を覗き込んだ。ボールはしっかり手中に収まっていた。


「は……速っえぇ……」


 豊洲は目をキラキラ輝かせていた。


「今のボールすっげぇな……ど真ん中だと思ったら手元でグングン伸びてきて、浮き上がる様な軌道になって……はぁぁ、堪らないね!!!」


 不破は豊洲の言葉に内心同意していた。同じくど真ん中と思われたボールが、尋常じゃない伸びの良さで、本来想定される重力による下限される軌道よりも落ちなかった。

 そのため、まるで浮いているかのように見えるボールとなったのである。想定以上のボールだったため、不破もミットの芯で捕球することができなかった。


「今のが百五十キロか……これよりももっと速い球が残ってるんだろ? 東雲君、俺、それを打つのが楽しみで仕方ないや!」


「ケッ! 空振りしたくせに何打つ気でいるんだよ」


 東雲はロジンパックを触りながら返事をした。ただ彼は非常に冷静に現状を分析していた。


『初球から迷いのないフルスイング……アイツらと違って初っ端から全力投球で良かったぜ』


 東雲は麻布と赤坂の時以上に初球からフルパワーで投球をしていたのであった。


『コイツを完全に封じ込めて、奴らに一切の隙は与えねぇ。仕方ねぇから出せるもん全部出してやんよ』


 そう考えた東雲はサインに首を振った。チェンジアップのサインが出たところで東雲は頷いた。


 不破は内心驚いていた。彼がストレートのサインに首を振るのは初めての行為だったからである。


「っらぁぁぁぁ!!!」


 ――ブォンッッ!!!!


「ストライク、ツー!!!!」


「うわぁー!! チェンジアップかぁ!! 首振ったから絶対ストレートだと思ったよ、やられたなぁ」


 豊洲は相変わらず楽しそうに野球をプレイしている。


「もうツーストライクだぜ? お前の無三振記録とやらもここまでみてーだな?」


 東雲はドヤ顔でボールを受け取った。


「ここからだ」


「あ?」


「俺は絶対に三振しない。東雲君のボールは今の二球で記憶した。もう俺は空振らないよ」


 豊洲の雰囲気が少し変わったのを東雲は感じていた。豊洲は追い込まれてから集中力が増すタイプなのかもしれないと思わざるを得なかった。


 不破と東雲の思惑は一致した。次の球は全力投球のストレートだ。チェンジアップの緩急が効いている今が1番の投げごろだ。


「ッラァァァァァァァ!!!!」


 ――シュゴオオオオオオオオ!!!!!


 初球のストレートよりも、より勢いの増したボールが投げ込まれた。


「フッ!!!」


 ――パキィィィィィン!!!!


 豊洲の打球はセカンド駄覇の頭上を超え、右中間へ転がった。兵藤が最短距離で捕球したが、豊洲を二塁で止めるのが精一杯だった。


「よっしゃぁッ!!!!」


 豊洲は二塁ベース上でガッツポーズをしていた。尚、スピードガンは百五十三キロを計測していた。


 二回裏 途中 ノーアウトランナー二塁


 明来 一対ゼロ 蛭逗

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