第百九十九話 ヘタクソな件
二回の表、明来の攻撃。六番不破が打ち取られた後、打席には七番の風見が立っている。なんとかフルカウントまで粘って、次が八球目だ。
「ストライク、バッターアウト!!」
風見は三振に倒れた。高めの釣り球に手を出してしまい、バットは回ってしまった。
「ごめん!!」
「ナイス粘り!! いい攻撃!!」
風見が走ってベンチに戻り、打ち取られたことを謝るが、明来の面々は彼の粘りを褒め称えていた。
「さぁ! 頼むよ真斗!」
「おけまる! 頑張るわ!」
一塁コーチャー守の声掛けに、青山は笑顔でOKサインを送った。
「八番、ファースト、青山君」
青山は一礼して打席に入った。青山の真剣な顔とは対照に、麻布はニヤニヤと彼の顔を見つめていた。
「クク……相変わらず、その鼻マジで笑えるわ」
麻布の挑発に対し、青山は彼に目も合わさず、足場を鳴らしていた。
「痩せ我慢すんなよ。怖えんだろ? ま、この前のお詫びっつーことでよ、一球目どこ投げるか教えてやるよ」
麻布はヘラヘラした口調で続けた。
「インコースのまっすぐで胸元抉ってやる。ビビらずに振り切れよ?」
麻布はそう言いながら、あからさまに青山の立つ左打席の真後ろに体を寄せ、ミットを構えた。
ただ、麻布は非常に残酷なことを考えていた。それはこの後彼が送るサインに如実に現れている。
彼が出したサインは、インコースのストレートだが、内側のボールになるように指示していた。
『クク……これで打ちに行ったらど根っこ、最悪バットを握っている指先がボールにぶつかるぜ』
麻布の意図を理解したようで、赤坂もニヤリと即座にそのサインを了承し、投球動作に移った。
「オラァァァ!!!」
赤坂の殺意溢れるボールは、青山の身体付近目掛けて投げ込まれた。
「ッ!!!!」
――ドッ!!!
ボールは青山の――右肘レガースにぶつかり、力なく地面を転がっている。
「デッドボール!!!」
審判が青山へ進塁権を与えた。
「チッ……避けてないですよコイツ!」
麻布が即座に審判へ抗議した。
「いや、彼はスイングをしようとして一瞬回避が遅れたが、身体は逃していたよ。故意とはみなさない」
「……わかりました」
麻布は渋々判定を受け入れ、青山を睨みつけた。
「そう簡単にヒットなんて打てないから、マジでノーコン助かるわ」
青山が鼻で笑いながら一塁へ歩いていった。
「……ッ!!!」
麻布は審判がいる手前言葉を抑えたが、眼光を見開いて青山を睨みつけている。
「んだと、やっぱりワザとぶつかってんじゃねーか」
赤坂は青山の言葉に反論した。
「ワザとじゃねーよ。俺が反応が遅いヘタクソなだけだ。んで、お前もストライク入れられないヘタクソってだけだよ」
青山は、守からアイススプレーでぶつかった箇所を冷やしてもらいながら言い返していた。
「とりあえず、どんな結果であれ相手にボールぶつけたら帽子を取るのが礼儀だよな?」
青山が更に赤坂を攻め立てる。
観戦している高校野球ファンからも、赤坂に帽子を取るようにブーイングのような声が鳴り響いている。
「……赤坂!!!」
麻布が眉間に皺を寄せながらヘルメットを取り一礼し、赤坂に帽子を取るように指示をした。
「……クソが!!!」
赤坂も帽子を取り、頷きに近い一礼を青山へ送った。
「へへ……ざまぁみやがれ」
青山はそれを見て、痛みを堪えながら笑っていた。
「無茶するなぁ……本当に大丈夫かよ」
「問題ねーって千河っち。むしろこれでチャンスだろ。もし松本っちがアウトになっても三回は兵藤っちからの打順だ」
青山は、自身の出塁により、以降の打順が良くなることを喜んでいた。
――その後、松本は残念ながら凡打に終わってしまったが、青山のナイスガッツにより三回表は一番兵藤からの好打順でスタートできることとなった。
二回表 終了
明来 一対ゼロ 蛭逗
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