第百六十話 立ち上がり良好な件

 守は投球練習を終え、皇帝のバッターと対峙した。


 打順は九番。ここで皇帝は代打を投入。パンチ力のありそうな右打者がバッターボックスに入ってきた。


「ピッチャー球威ねーぞ!! 初球から狙っていけよ!!」


「このサウスポー、コントロールだけだぞ! バッピだバッピ!!」


 皇帝ベンチからの口撃が守に襲いかかるが、守は目の前の光景のみに集中していた。


 守は駄覇のサインを確認した。


 ――サインはストレート。高めのボール球、釣り球だった。


 本来一球目に投げるボールではないが、躊躇なく駄覇が出したサイン。守は彼を信じて受け入れた。



 ――ズパァァァ……!!


「ストライク!!!」


 バッターは体制が崩れるくらいフルスイングしたが、空振りに終わった。



「オッケー!! ナイススイング!!」


「打てると思ったらガンガン振れよ!!」


 皇帝ベンチから代打の選手に、引き続き声援が送られる。


 守はボールを受け取り、サインを覗き込んだ。駄覇はまた躊躇なくサインを決定していた。


 ――外のボールからストライクになるスライダーだ。


 守はボールの軌道をイメージして腕を振った。投げられたボールは正にイメージ通りに打者は向かっていた。



 ――スパァァン!!


「ストライク、ツー!!」


 今度はバッターはボールを見逃した。



「今のボールは仕方ない!! こっから見極めろ!!」


「ボールに合わせるなよ! ベストスイング!!」


 皇帝ベンチからの声援は続く。



 ――マスク越しに、駄覇が一瞬笑ったのを守は見逃さなかった。


 そして即座にサインが送られた。


 ――またしても、ストレート。高めのボール球の要求だった。



 駄覇には何が見えているのか――。

 守は彼を信じて三球目も投じた。



 ――スパァァァァァァ!!



「ストライク!! バッターアウト!!」



 またしても空振りを奪い、守は三球三振の立ち上がりとなった。



「え……マジ?」


 この展開を誰よりも、当の本人である守自身が驚いていた。


 

 六回表 ワンナウトランナーなし


 皇帝 ゼロ対二 明来

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