第百五十八話 呪われたくない件

 皇帝は二番手ピッチャーに代わっていた。こちらも一年生のようで、左ピッチャーである。


「東雲君、素晴らしいピッチングでした……!! 次の回からセカンドに入って下さい!」


 上杉監督は東雲の両手を握って激励した。


「ハァ? 交代だと!? 話がちげーだろ!!」


「いえ? 東雲君は五回までって言ったはずですが?」


「内容によってはそれ以上も以下もあるって言っただろ! なんで被安打一本で交代なんだよ!!」


 東雲が怒りをあらわにしている。


「その通りですよ。余りパッとしない内容だったり、ノーヒッターの記録がかかってる様な場合は続投予定でしたが、この出来なら適切な評価がつけられましたので交代です!」


 上杉監督は笑顔で拍手をしていた。その姿が頭にきた東雲は舌打ちをした。



「それに……貴方も薄々気が付いてはいるでしょう? 夏は一人のピッチャーだけでは勝てません」


「……チッ。わーったよ。代わってやるよ」


 東雲はため息混じりに応えた。


「ただし!! 俺様の守ったリードを一点でも縮められたら殺すってアイツに忠告しとけ!!」


「……殺すは言えませんが、千河君にもしっかり抑えてもらいましょう。次の回からセカンドでお願いしますね」


 上杉監督はそう言い残し、笑顔でブルペンへ向かった。


 

 ブルペンでは、守が風見相手にピッチング練習をしていた。


「次、右バッターのアウトローに構えて!」


「うん、わかった」


 守はしっかり体全体を使ったフォームで投げ込んだ。


 ――スパァァン!!


 放ったボールは風見の構えたグラブに寸分の狂いなく収まった。


「相変わらず素晴らしいコントロールですね」


「監督!」


 上杉監督が守に声をかけた。


「お待たせしました。六回表から出番ですよ、千河君」


「わかりました! よし、東雲も無失点で切り抜けたしボクも……」


 守は気合を入れたのか、大きく息を吐いた。


「あぁ、その事で東雲君から言付けです。失点したら藁人形に五寸釘を打ち付けるって言ってました」


「えっ、怖」


「マジですよ。彼、最近そういうのにハマってるらしいです」


 上杉監督は真剣な表情で守を見つめていた。


「わかりました。呪われたくないので無失点でいきます」


「それが良いですね。それに……夏大の背番号発表も近い……」


「ウッ……!!!」


「期待していますよ。エースに相応しいピッチングを」


 そう言い残し、上杉監督は立ち去っていった。



「千河君、きっと大丈夫。頑張ってね!」


 風見が守の前に掌を突き出していた。


「ありがとう、任せて!」


 守と風見はハイタッチを交わした。


 

 明来の攻撃はランナーを出すも無失点で終わっていた。



 五回裏 終了


 皇帝 ゼロ対二 明来

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