第百四十八話 バッテリーが衝突している件

「東雲、ナイスピッチ!!」


「東雲君、絶好調だね」



 ベンチに戻ってきた東雲を、守と瑞穂はベンチ前で精一杯労った。


 だが東雲本人は結果に全く満足していないのか、二人を無視してベンチの奥の方へ向かった。



 ――バシッ!!!



 東雲は自分のグラブをベンチに叩きつけた。



「クソ!! 神崎の野郎……!!」



 東雲が投げ捨てたグラブを拾い、その腕をもう一度高く上げた。


 見かねた不破がその腕を掴んだ声をあげた。


「いい加減にしろ東雲! 道具に当たるな! 三者凡退で何が不満なんだよ!!!」


「テメー、奴の目の前にいて何も思わなかったのかよ!! 打たれたんだよ、俺の球!!!」


 東雲は対神崎のことを言っているようだ。


「打たれてないだろ!! 神崎相手に甘いコースでもホームランにさせなかったお前の球威、そして予め打球方向を読んで守っていた兵藤のシフト。お前は神崎を抑えたんだよ!!」


「あんなの抑えた内に入らねェだろ! キャッチャーの癖に考えが甘ぇんだよ!!!」


「じゃあ聞くが、あの時お前は神崎の表情を見たか? 態度には出していなかったが、これ以上なく悔しそうだったぞ! 球種が分かっていて打てなかったんだ。当然悔しいに決まっているだろ!!」



 普段冷静な不破が、珍しく東雲相手に一歩も引かずに立ち向かっている。その光景にベンチ一同は動揺していた。



「そんなにボールを捉えられて悔しいんなら変化球も交えて投げろよ! お前のチェンジアップが使えれば、あの神崎だって苦戦する筈だ」



「舐めんな!! 当然次も全球ストレートだ!! このまま引き下がれるかよ!!」



 やはり東雲は配球を変えるつもりは無いようだ。監督の言うように、完全に打たれないことには東雲はずっとこの調子なのだろう。



「あのぉ……すみません」


 殺伐とした雰囲気の中、風見が申し訳無さそうに口を開いた。



「どうしたの、風見」



 守が声をかけた。



「皆が話してる間に三振しちゃって……」



「拙者もでござる」



「てか誰も見てねーとやる気出ねーし!」



 ベンチ内騒動の間に青山、風見、松本は打ち取られてしまったようだ。



「ご……ごめん」


 

 守は申し訳なさそうに頭を下げた。



 二回裏 終了


 皇帝 ゼロ対一 明来

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