第百四十六話 全球ストレート宣言な件

 二回表、皇帝の攻撃は四番に入っている神崎からのクリーンナップである。


「四番、ファースト、神崎君」


 神崎は真剣な表情で打席に入った。東雲も先ほどまでのデカい態度では無く、睨みを効かせてマウンド上に立っていた。


 不破がサインを送る前に東雲は大きく振りかぶった。


 

 ――ギュィィィィン!!!


 

 ――パシィィィ!!!



 神崎のフルスイングは空を切り、ボールは乱暴に、不破のミットに叩きつけられた。



「タイム!!」


 不破は思わずタイムを取って東雲の元へ向かった。



「早く帰れ!」


 東雲はマウンドへ向かおうとする不破を制止した。


「お前……神崎相手にサインくらい見……」


「全球真っ直ぐだ。俺のアドレナリンが出てる内にさっさと戻れ」


「……!!!」


 不破は困り果てて自軍ベンチを見た。上杉監督は笑顔で戻る様にジェスチャーをしていた。


「……しらねぇぞ俺は……」


 不破は諦めて定位置へ戻った。その際皇帝ベンチの方を見たら、案の定彼らは荒れていた。



「神崎相手に全球ストレートだと!? 舐めるのも大概にしろよ東雲!!!」


「あの天狗の鼻をへし折れ!!!」


「クソ……打て!! マジで打ってくれ神崎!!」


「神崎さん!! お願いします!!!」



 不破は大きく溜息をして、ホームベース後ろで腰を落とした。


「すまない……ベンチの野次は後で注意しておく」


 神崎が小さな声で語りかけた。


「いや……原因はあのバカだから。本当に申し訳ない」


 不破も小さな声で謝罪した。


 そんな社交的な二人を置き去りに、東雲はさっさとワインドアップを取った。



 ――シュゴオォォォォ!!!!



 ――ギィン!!!


 神崎の打球は三塁線をわずかに切れていった。



「ファウル!」


 

 危なかった……と不破は思った。今の打球が後数センチで長打コースだったからだ。やはり神崎はバッティング能力も超高校級だと改めて実感した。



 今の打球を見たからこそ、サインを見てくれるか……と僅かな可能性を不破は期待したが、秒で裏切られた。東雲はボールを受け取った瞬間投球フォームに入っていた。



『バカヤロウ!!!』


 不破は諦めてミットを構えた。



 ――シュゴオォォォォ!!!!


 東雲の三球目は、先程の二球よりもさらに球威のあるストレートだった。球速もまた百五十キロを計測していた。



 ――キィィィン!!!



 打球はセンター方向にグングンと伸びている。



「兵藤!!!」


 不破は言わんこっちゃない……と思いながら兵藤の守備範囲に全てを託していた。



 その願いが叶ったのか、打球は予め深めに守っていた兵藤のグラブに収まった。



「チッ!!」


 東雲はその場で地面を蹴っていた。アウトにはしたが、自慢のストレートを捉えられた自覚はある様だ。



「タイム!!!」


 不破はタイムを取って、ベンチに戻っていった。



 二回表 途中 一死ランナーなし


 皇帝 ゼロ対一 明来

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