第百四十五話 バーサーカースイッチ起動の件
「六番、キャッチャー、不破君」
不破は右打席に立ち、状況を整理した。
ケースは初回ツーアウト一、二塁。相手ピッチャーは長身の一年生。球の勢い、角度は要注意だが、まだ制球が定まっていない。高校野球初実戦なのか、動揺もしている様に見える。
次に不破は、今までのリードを振り返った。基本打たれているのはストレート。カーブは山神の時に一度だけ投げただけだった。
目線を上げることが出来る、素晴らしいカーブだが、まだ狙ったコースに投げられないのだろうか。ランナーが出てから、まだ一度も投げられていない。
そして直近の対駄覇との対戦を回想する。元チームメイトで相当駄覇を恐れていたのか、明らかに勝負を避けていた様に見える。首を何度も振った中にはカーブも入っていただろうが、結果ストレートの連投だった。
『追い込まれるまではストレートだけ狙う』
不破の狙いは決まった。
――だが、マウンド上の中谷を見た瞬間、不破は即座に中谷の異変に気がついた。
先ほどまで不安げに丸まっていた背中がビシッと決まっており、胸を張っている。口元も先ほどまでは不安そうに半開きだったのに、今は無愛想な位に口元を閉ざしている。
『初球は見ていく、どんなに甘くとも』
不破はこの変化を踏まえて考えを変えた。
――ザッ!!
中谷は大きく足を上げた。そしてテイクバック。左足が着地してもまだパワーが後ろに溜まっている良いフォームだった。
――シュゴオォォォォ!!!!
――ズパァァァァァァ!!
「ス……ストライク!!!」
不破はベンチに視線を移した。ベンチからは球速百三十八キロと伝えられた。
『は……速い』
不破は球速以上に球の勢いを感じた。
『ストレートは綺麗な縦回転。リリースポイントは長い腕をフルに活用し、打者寄りの高い位置からの投球。球持ち、ノビ、角度、全て申し分ないストレート……!!!』
――ズパァァァ!!!
不破は二球目のストレートに空振りした。ボールよりかなり下を振っていた。
『まだボールの方が高いか……!!』
不破は中谷の方を凝視した。サインに何度も首を振っている。恐らくストレート要求なのだろう。
ようやくサインが決まった中谷は、セットポジションから投球に移った。
――シュゴオォォォォ!!!
――ズパァァァァァァ!!!
「ストライク、バッターアウトォォォ!!」
不破は三球目のストレートにも空振りし、三振に倒れてしまった。中谷の圧倒的な投球の前に手も足も出なかった。
「おいおい三球三振って……そんなに打ちにくかったかよ」
東雲がベンチに戻った不破に話しかけた。
「ああ……全く打てる気がしなかった」
「何だよ、その白旗宣言。情けねぇ」
「東雲……この試合は投手戦になるぞ。引き締めて行けよ」
不破は東雲の胸を軽く小突いた。
「ハッ! 俺様に言うセリフかよ。オメーは俺の投げた球にビビらず、後ろに逸らさないことだけ意識しな」
東雲は自信満々に胸を張った。
一回裏 終了
皇帝 ゼロ対一 明来
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