百十三話 後輩が傲慢な件

 ――轟大学野球部グラウンド。


 あっという間に練習試合の日は訪れた。相手は明らかに格上。こんな経験は滅多にできないと、明来ナインはやる気に満ち溢れていた。


「千河くーん!」


 轟大学の若井監督が爽やかに登場した。


「若井監督。改めて試合のセッティング、ありがとうございます」


 守は丁寧にお辞儀をした。


「えっ、これ監督!? どーみても部員にしか見えねぇ」


「東雲君、失礼だから。それと指差さない」


 瑞穂は東雲の頭を叩いた。


「ははは、慣れてるから大丈夫だよ。さぁ、ベンチまで案内するよ」


 そう言って若井監督は笑顔で誘導していった。


 入り口を抜け、グラウンドに足を踏み入れた瞬間、物凄い洗礼された空気が流れてきたような感覚を覚えた。


「ひ……広い」


「すげぇ……土がフッカフカ。砂利が全然無いからプレーしやすそう」


「外野も一面キレイな人芝じゃん」


「こんな環境で練習してやがんのか……駄覇の野郎」


 普段様々なグラウンドでプレーしている明来ナイン。その中には粗悪な環境も当然ある。それだけに轟大学のグラウンドは彼ら、彼女らにとって衝撃的だった。

 守と瑞穂は窓越しにはこのグラウンドを見ていたものの、一度足を踏み入れると感激せざるを得なかった。


「さ、ベンチはこちらだよ。一応スポドリと冷水のジャグは用意してあるから自由に使ってね」


「ありがとうございます、何から何まで」


 改めて明来ナインは若井監督に頭を下げた。



 ――その一方、轟大学側のベンチ。


「うわぁー、みんな顔が若いね。さっすが十代の若者だわ」


「お前だって二年前まで高校生だったろ」


「ま、そこそこは野球できるみたいだし、お兄さんとして優しく野球を教えてやろうぜー」


 ベンチでは高校生には勝って当然と言わんばかりに、笑い声が響き渡っている。


「てか義経、お前一応あっち側の選手だろ? 明来側で出なくていいの?」


 大学生側の選手が駄覇に話しかけた。


「よく分かんないんですけど、若井監督から轟側で出ろって言われてて。面倒くさいですけど……」


「ははは! お前を出せないんじゃ益々高校生君たちが可哀想だわ」


「はぁ……さすがに俺一人で先輩方に勝つのは結構疲れそうなんで、このままでいいです」


 駄覇の傲慢発言に数名イラッとしたが、試合前なのでグッと堪えた。駄覇の性格は褒められたものではないが、味方としては頼りになる後輩なのだ。



 ――そして各チームのアップが終わり、試合開始となった。


「宜しくお願いします!!!」


 一礼し、明来ナインは守備に散った。


 

 明来高校 スタメン


 一番センター 兵藤

 二番キャッチャー 不破

 三番ショート 山神

 四番セカンド 東雲

 五番サード 氷室

 六番ピッチャー 千河

 七番ファースト 青山

 八番ライト 風見

 九番レフト 松本



 一回表 試合開始


 

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