第九十話 全国大会とは
守と瑞穂はスポーツバーに入店した。大きなスクリーン画面にら甲子園大会の映像が映し出されていた。試合前のアップ中のようだ。
緩やかなジャズが流れる、落ち着いた雰囲気のお店だ。
彼女たちくらいの歳のお客さんは流石にいなかったが、幅広い年齢層のお客さんが飲み物片手に休日の試合観戦を楽しんでいた。
「いらっしゃい、この店は初めて?」
綺麗な女性店員が二人に声をかけた。二人は笑顔で頷いた。
「それなら、あそこの席はどう? 映像が見やすい特等席だよ」
示された先の席は、まさにこのお店のど真ん中、一番試合が見やすいと思われるテーブルだった。
「ありがとうございます、でもいいんですか?」
瑞穂が申し訳なさそうに尋ねた。
「いいのいいの。それにあの席は外からも目立つのよ。君たちみたいな可愛い娘がいれば男性客もさらに入るかもだし」
店員は笑いながら答え、二人を席へ案内した。
そして二人は店員からオススメしてもらったランチセットを頼み、映像に目を向けた。
「……あれ、お兄さん三番になってるね」
守はスターティングメンバーを指さした。そこには三番キャッチャー白川 二年生、そして四番ライト紫電 一年生と書いてあった。
「本当だ、四番の人は……紫電? 名前の読み方がわからない。それに一年で西京の四番だなんて……」
「瑞穂でも知らない選手が西京の四番……」
「兄さんは、たとえ妹の私相手でもチームの情報については話さないから」
二人の頭上にハテナマークが浮かんでいた。そして流石は今時のjk、即座にスマホで紫電の検索を始めた。
――そして。
「名前は
二人は信じられないものを見ているような顔をした
「大阪府大会で、打率四割超えのホームラン五本!?」
大阪府予選は、各地予選の中でも一、二位を争う激戦区だ。特にベスト四に入るチームはどこが甲子園に出ても全国制覇する可能性があるとまで言われている。
そんな強豪との連戦で、紫電という一年生は滅多打ちをしていると言う事だ。
「さぁ、こちらは西京ベンチの映像です」
アナウンサーのハキハキした声がバー全体に流れる。
「ボールを受けているのは、今大注目の白川君です。特に女性ファンから物凄い人気です」
アナウンサーの言う通り、スタンドから送られる黄色い声援が見事に場内マイクが拾っている。
映像にはブルペンでボールを受けている白川渚の姿が映し出されていた。
白髪がとても似合う、アイドルそのものの顔立ちだ。中学生の時はモデルをしていたのも頷ける。
だが首から下は見事な仕上がりだ。その鍛えられた身体を見たら、どんなピッチャーでも安心してボールを投げることができるだろう。
「そして、ベンチ前でバットを振っているのは一年生にして初の四番を務める紫電君です!」
二人はまたしても映像を観て驚いた。
背番号十八を付けた紫電は身長百八十半ばはある恵まれた体型をしていた。ただそれ以上に紫と金髪で染め上がったソフトモヒカンヘアーに鋭い目が特徴的だ。紫電の外見は不良以外の何者でもなかった。
「アレ……いいの?」
「た、多分。西京は今時珍しい、髪型と色が自由なチームだからね。兄さんも白髪だし……」
「で、でもアレは流石にスポーツマンの風貌じゃないよ……ピアスの跡みたいなのもあるし」
守が動揺するのも無理はない、それだけ紫電の醸し出す雰囲気は独特だったのだ。
だが映像に映る紫電は、殺意を持ったような鋭い眼をしながら、黙々とバットを振り続けていた。
一方、皇帝ナインも黙々と準備をしているようだ。
こちらも注目の一年生、神崎は五番ライトで出場するようだ。
「神崎、ピッチャーできるのかな?」
「監督が言ってたけど、神崎君、肩に違和感があるみたいなんだよね」
二人が話しているのちに整列の時間になったようで、両軍がグラウンド中央へ走り出した。
「っしゃあす!!!!」
両チーム気合十分な挨拶で、試合は始まった。
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