第七十六話 ルーティン

 皇帝学院はワンナウト一、二塁。一打同点のチャンスで四番太刀川へバトンを渡した。


 四回裏、試合も中盤に入り、明来はこの試合のターニングポイントに直面している。


 マウンドから見える太刀川の姿――先程までとは、まるで別人。守は殺気を感じざるを得なかった。


 それもそのはず。太刀川のバッターとしての特徴は、チャンスに滅法強いところにある。僅差なら尚更だ。


 先程はショート山神のファインプレーがあり、何とか抑えることができた。だが今の太刀川に一打席目に垣間見れた笑顔は一切ない。雑念を排除し、打席に集中している様子だ。


 守はロジンパックを手に取り、手に息を吹きかけた。一瞬、目の前が白い霧に包まれるように覆われる。


 守はこのルーティンが大好きだ。目に映る景色同様、頭がリセットされ、再度集中することができる。


 不破のサインに頷き、守は一球目を投じた。


 ――パキィィン!


 一球目、アウトローのストレートは一塁側スタンドに飛び込むファウルだった。観客へファウルボールの危険を知らせるアナウンスが流れている。


 二球目、インコース低めを攻めたクロスファイヤーはわずかに外れてボール。ここまでは先程と同じだ。


 三球目、ボールからストライクになる、外のフロントドアスライダー。これも太刀川が一塁方向へファウルを打った。


 ここまでは外、内、外。恐らく無難なリードとしては次に内を見せ、最後に外で打ち取る、ゾーンを広く見せる配球だ。


 ただ当然、二年生にしてプロ注目キャッチャーと言われている太刀川に、そのままのリードだけでは通用しない。

 ただ、今日の不破は滅法リードが冴えている。守は不破の配球を信じることにした。


 不破のリードを確認し、セットポジションに入る。二塁ランナーは俊足の南崎さん。ただ、守自身根拠はなかったが、恐らく走ってこない気がした。四番に託すといったところだろうか。


 ――パキィィン!


 快音が鳴り響いた。


 ――だが、フェンス手前、予め後退していた兵藤のグラブに打球は収まった。


 それを見た南崎は三塁へタッチアップ。ツーアウト一、三塁となった。


 四回裏、ツーアウト一、三塁


 明来 一対ゼロ 皇帝学院

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