第六十五話 強者の円陣

 皇帝学院ベンチ前にて、円陣が組まれている。皇帝では基本的に選手主導で試合中のミーティングが行われる。


「今大会で初めてだな。俺たちの失点は」


 宮西が静かに話し出した。


「だが俺たちはバッティングのチームだ、初回からガンガン振っていこうぜ!」


 宮西の声に全員が大きな声で返事をした。そして宮西を真ん中に囲うように、メンバー全員が肩を組み、大きな縁を作り出した。


「絶対勝つぞ!」


「「「おぉ!!!」」」


 皇帝学院のかけ声が鳴り響き、それを称賛する様に観客席から大きな拍手が送られた。


「オメーが情けねぇから失点されたじゃねーか」


 バッターボックスに向かう前の峰が、ボソッと神崎に口撃した。


「一年で試合出てるからって調子に乗んなよ。足引っ張ったらタダじゃ許さねぇぞ」


 三年生に気がつかれないよう、通り過ぎざまに峰は神崎の右肩にぶつかってきた。その光景を見かねた太刀川が割って入る。


「峰、むしろお前の油断で先制されたんだろ」


「はいはい、すみませんね。プロ注の太刀川クン。テメーには話しかけてねーんだよ」


 注意に入った太刀川に対し、峰は目線を合わさず、汚い言葉を吐き捨てた。


「峰ぇー、お前二番だろー! 早くネクスト行けよー!」


「あ、すみません先輩! 直ぐ行きます!」


 峰は先ほどまでの低い声色をガラッと変え、笑顔で走り去っていった。


「……ありがとうございます」


「峰のことは気にするな。俺も奴とは極力関わりたくねぇ」


 太刀川は神崎の左肩に軽く触れ、話をしていた。


 ――スパァァン!


「良い音するようになったな。明来のキャッチャー、腕を上げたな」


「ピッチャーの千河も、以前とは比べ物にならないくらいボールが良くなってますよ」


 太刀川と神崎は、投球練習をしている明来バッテリーの姿を見て、呟いていた。


「そうだな。球種も増えて、緩急も使えるようになってたな。信じられないが、東雲のバカの仕業かもな」


「そうかもしれませんね。東雲も、今度は上手くチームに馴染んでくれてると良いのですが」


「お前ら仲良かったようには見えないけど、お前は妙に東雲を気にしてるよな」


「ええ。奴は……性格は悪いですけど、東雲の持つ野球脳やセンス、そして影の努力には尊敬していました」


「そうか。じゃあ東雲式のピッチングを伝授された千河との勝負は見ものだな」


「打ちますよ、俺は」


 神崎は爽やかに笑いながら右肩を回している。


「ボールバック!」


 練習球を回収させ、締めのラスト一球を千河は投げ込んだ。不破は素早く捕球し、ショート山神のミットを目がけ、素早く送球した。


「キャッチャーの肩も強くなったな」


「千河のクイックも流石の速さです」


「楽しい試合になりそうだな、神崎」


 太刀川の問いに、神崎は静かに頷いた。

 

 一回裏 途中


 明来 一対ゼロ 皇帝学院

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