第四十四話 どっちの味方?
「うわー、せっかくのチャンスだったのに!」
観客席の清水は悔しそうに戦況を見つめている。灼熱の中必死に応援している事もあり、身体中汗だくになっている。
「ちっ……南場の奴ら、下位打線のことを舐めくさってやがるな」
そう言いながら東雲はタオルで汗を拭いている。
「なんであんな遅い球が打てないの? 千河君やアンタの球の方がずっと打つのが難しそうだけど」
「南場のピッチャーが投げてるナックルってのは、どう落ちるか投げてる本人も分かんねーんだよ。捕るのも一苦労だ」
東雲は手を揺らすジェスチャーをして説明している。
「違うよ、下位打線のみんなに投げまくってるストレートのことだよ。みんな練習だともっとバットに当ててるじゃない」
「練習と試合だと緊張感が違うからな。いくら俺様のスピードボールで練習をしてても、特に素人メンバーだと本番になると、あんなヘナチョコ球でも苦労するんだろ」
「そういうもんなんだ。野球って難しいのね」
意外と良いところに目をつけてるなと思いながら、東雲は解説役に回っている。
「ほら、オメェらのお気に入りがピンチだぜ?」
東雲の言葉を聞いて清水はグラウンドに視線を戻した。
ツーアウトながら、ランナーが二塁の状況になっている。
「ツーアウトからまた四番にツーベースを打たれやがった。千河のショボイ球じゃあの手のバッターは苦労するんだろうな」
清水はその発言を聞いてムッとした。
「アンタどっちの味方よ! 千河君が可哀想」
「はぁ? 南場実業は敵だからって千河の味方にはならねーぞ! 俺あいつ嫌いだし」
「その割にいつも一瞬に練習してる癖に」
「ムカツクんだよ! ショボイボールしか投げれねぇ癖にチョコマカと際どいコースばっか投げる、セッコいピッチングしててよ!」
「むしろ知的でクレバーでカッコいいと思うけど」
「知的ぃ? 赤点ギリギリのバカだぞあいつ! ってあーっ! 動揺してフォアボールなんか出してんじゃねーよヘタクソが! ツーアウトだぞ気合い入れやがれ!」
東雲はハラハラした様子で戦況を見つめている。清水は内心、これ一種のツンデレかなとか思っていた。
――キィン!
六番バッターの打球は左中間方向へ飛んでいる。観客席のボルテージが一気に上がる。
「うわー! 捕ってー!!」
「打たれんなバカ! 兵藤、ぜってー捕りやがれ!」
見事に清水と東雲の声が被った。
兵藤がダッシュで打球に向かう。目一杯手を伸ばし、グラブのギリギリ先っぽで捕球した。
彼は勢い余って前方に転がってしまったが、ボールはしっかりキャッチしたままだった。
「うわー! 惜しかったー!」
「す……すげぇぞあのセンター!」
観客席から再び歓声が上がる。
南場実業目当てで来ているファンも、この激戦を心から楽しんでいるようだ。
「はぁー、心臓に悪い。兵藤君ナイスプレー!」
清水とチアガール一同はファインプレー帰りの兵藤を暖かく向かい入れた。
東雲は誰にも気が付かれない様、小さく息を吐き、手元のドリンクを口にした。
四回裏 終了
明来 ゼロ対ゼロ 南場実業
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