第十四話 甲子園へ導く力

 二回表、明来の攻撃。

 東雲の快投は続いた。守はピッチャーフライ、青山は見逃し三振、風見は空振り三振、あっさり三者凡退となってしまった。


「ごめん……」


 風見がうつむきながらベンチに戻ってきた。前の練習試合でも全部三振だったからか、目に涙を浮かべていた。


「ドンマイ! 風見君ナイストライだよ!」


 瑞穂が風見のヘルメットを預かり、ドリンクを差し出した。


「そうそう、俺なんてビビってバット振れなかったし! 風見っちスゲーよ!」


 青山は笑いながら、風見に帽子とグラブを渡してあげた。

 風見は涙を拭き、ドリンクを口にし、道具を受け取った。


 そんな明来ベンチのやり取りを、東雲はマウンドから降りながら羨ましそうに眺めていた。


「明来の奴らいいなぁ。瑞穂ってチームメイトにはヘタクソでも優しく接してんだな。俺マジで明来に転校しようかな」


「東雲! なに意味わからんことを抜かしてるんだ! 監督と太刀川さんに報k……」


「テメェは一々独り言に入ってくんな!」


 東雲は神崎を避ける様にダッシュでベンチに戻っていった。


 そんな二人のやり取りを、入れ替わりでマウンドに向かっていた守は溜息混じりに聞いていた。彼らは仲がいいのか、悪いのか疑問だった。


 一方、明来ベンチでは上杉と瑞穂が会話をしていた。


「あの東雲君を抑えられたのは大きいですね。ヒカル、他のバッターはしっかり抑えてるし」


「ふふ……白川さんは東雲君が一番の難関だと思ってますか?」


「まだ他の選手を詳しく観てはいませんが、正直、東雲君ほどの一年生が何人もいる様には思えません」


「確かに東雲君は、皇帝一年生の中でも特に優れています。今の段階で皇帝のベンチにも入れるでしょう。……ただ」


「ただ?」


 瑞穂は首を傾げた。


「あちらの彼は、皇帝を甲子園へ導く力を持っています」


 瑞穂が、彼とは誰なのか聞こうとした瞬間だった。透き通る様なバットの音が聞こえた。瑞穂は慌ててグラウンドに目を向けると、ダイヤモンドを歩いている神崎の姿が目に映った。

 

「彼は神崎君。昨年のシニア全国優勝の立役者、中学MVPです」


 ――神崎は完璧な手応えを噛み締めながら、ダイヤモンドを回っていた。二塁ベース付近に彼の懐かしい知人がそこに立っていた。


「龍也、まさかこんな所で会えるとはな。野球は続けていたんだな」


「神崎氏……今は試合中でござる」


 山神は神崎を背に向けて、屈伸運動を行なった。これ以上話すことはないと言わんばかりの態度だった。


 二回裏 途中

 明来 ゼロ対一 皇帝

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