どうしちゃったの?
亀子
第1話
先日、電車に乗っていたときのことだ。私の向かいに座っていた60 代後半くらいの男性の様子がおかしい。やたら隣に座っている若い女性を気にしているのだ。わざとらしい咳払いや舌打ちを何度もし、彼女を睨みつけている。そのうちに彼は物凄い勢いで怒鳴り始めた。
「おい、お前!!さっきから何度も俺に肘鉄食らわせやがって!!何考えてんだ!!ああ?!」
私はたまたまその時なにもせず、ボーッと正面を見ていた。そのため、女性が彼に肘鉄などしていないことは知っている。それどころか彼女、スマホを触る指先以外はほとんど動いていなかった。強いて言うなら、指先の動きと連動して腕の辺りも多少、動いていたかもしれない。その程度である。それを「肘鉄」とは。
ここ数年、「キレる老人」が増えているという。彼はその典型だろう。若者が大人しい代わりに、こんな厄介者が台頭(?)してくるとは、全く困った時代になったものだ。
しかし彼らにも同情する点はあるらしい。心理学者によると、必要以上に世間体を気にする日本人はいつも自分を抑え、やり場のない怒りを抱えてしまうんだそうだ。その結果、日常で起こるなんでもないことで怒りのスイッチが入ってしまうらしい。きっかけはなんでもいい。とにかく、自分より弱そうなものをみつけると、加齢による脳の感情抑制機能の低下もあって、無闇やたらに他人を攻撃するようになるんだとか。
電車の中でキレた彼は60代なかば。今よりも世間体を重んずる時代の中で教育を受けてきたはずだ。彼もいろいろなものから抑圧され、踏みにじられて生きてきたのだろう。
が、だからといって他人をサンドバッグにしていいはずがない。
人間は本来、衣食住が整っていれば幸せであると聞いた。それがきちんと揃っているのに毎日が不満でいっぱいだというときは、世の中よりも自分の心に問題がないか考えた方がいい。もちろん衣食住満ち足りていても、
どんなに恵まれた生活を送っている人でも、ある程度の不満はあるだろう。しかしそれが度を越していて何もかもが不満、というときは、自分を見つめ直した方がいい。その努力もせず、人に当たり散らして欲求不満を解消しようなど、言語道断だ。
ところでつい昨日、私はまたまた理解不能な行動をとる老人に出会った。長く急な田舎の坂道を下っている時のこと。後ろから「どいてどいて〜!」という声が聞こえてくる。振り返ると70代くらいの自転車に乗った女性が、凄まじい勢いで坂道を下ってくるではないか。私は焦った。どいてといわれても、私はすでに道の端にいる。これ以上、道を空けようもない。どう考えても自転車1台が充分通り抜けられるスペースはある。なぜ彼女が叫び続けるのかわからず困惑した。
結局、このご婦人は「どいてどいて〜!」と叫びながら私の横を通り抜けると急停止し、こちらを振り返って「どけって言っただろうが!」と悪態をついた。そうして再び走り始めると彼女はまた「どいてどいて〜!」と叫び始めたのだ。私と彼女以外、人どころか猫の子1匹いない道なのに、である。
「なんなんだよ!?」
思わず声に出して呟いてしまった。電車のキレジジィに比べれば可愛いものだが、彼女が何をしたかったのかさっぱりわからない。
私は今、アラフォーといわれる年齢である。決して若者ではないが、老人でもない。しかしあと30年足らずで「老人」と言われるときが来る。そのときには弱者に当たり散らしたり、不思議な行動で他人を困惑させたくないものだ。
そんな私は感情や行動の抑制機能を衰えさせぬよう、今から脳トレに励んでいる。寝たきり予防の筋トレも欠かせないし、中年とはやることの多い世代なのだなと、溜息をつかずにはいられない日々である。
どうしちゃったの? 亀子 @kame0303
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
diary 最新/YOUTHCAKE
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 106話
ローカルニュース・雑記最新/晁衡
★62 エッセイ・ノンフィクション 連載中 134話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます