その接続先で死んでるよ

imstiparo

第1話 最後のSQQN飲み

「確かにな、最後に俺らがあったのは焼肉だったな」

「明日からまた外出て良いんだね」

 外出したころを思い出しながら、大学2年の10人ほどのゆるい集まりのサークルはずっとSQQNでリモート飲み会を楽しんでいた。


 ずっと長いこと話していて、彼らは恐らくこれまでの1年にも満たない共通の思い出を全て語り尽くしてしまっていた。それでも何一つ娯楽がないこの期間において、過去の感傷に浸れる時間は貴重だった。


今日は明日から大学が再開するからか集まりが悪く、5人のみだった。 この5人は同じ専攻なのもあって、このサークルの中では仲がよい方だった。


「マキがめっちゃホルモンばかり食ってて笑った」

「結局しかも残すって言う笑」

サヤがある日のマキの偏食ぶりかつ大食いをいじった。


 マキは女性にしては大食いどころかこの大学で知り合って仲良くなった大学2年の5人組の中で最も大食らいだったくらいだ。 欲には素直というかマイペースな生き方をしているせいかストレス感じそうにもない。

 年上キャラのサヤは明るく、このメンツでは盛り上げるのに長けている。 彼女らは高校から一緒らしくずっと姉妹のように仲が良い。少なくとも外からはそう伺える睦まじさだった。


「あれ、アキラ、部屋片付けた?」

今度は、サヤがアキラに話題を振った。

アキラはスポーツに長けており他の運動サークルとこのゆるい集まりのサークルの両方に参加してた。生活面は比較的ルーズな方で、今日もこのMtgに1時間以上遅れてから合流している。 1年目はなんとか留年を凌いだが、今年は欠席する授業が純増し既に怪しいことは他のメンバはなんとなく把握していた。この巣篭もり期間においても彼は授業にでることはなかった。結局彼は家から授業を受けられようが大学で授業があろうが、受けない。

「あぁ、明日に備えてな」


「ユキチはどうなん?」

「何も変わらんわ笑」

 ユキチはいつも変わらない適当な返事を繰り返してた。解像度の悪いWebカメラ越しに見える汚れた部屋はぐちゃぐちゃな本だらけで足の踏み場もなさそうだった。本人はいつも気怠そうに見えるが、それは風貌がそう見せているだけで、実際リモート飲み会は嫌でもないらしい。授業やサークルには参加しない日もあったが、この自粛期間のリモート飲み会だけは毎回のように参加していた。


――


「そろそろ解散にするかー」

「そうね。じゃ、明日大学でねー」

「バイバーイ」


 歯切れの悪い解散を経て、タイチはタイミングを見てリモート飲み会のMtgを切断した。時計はすでに深夜の2時を指している。このサークルではいつもだらだらと終わるタイミングを逃して深夜になってしまう。そう言う意味で居酒屋にL.O.があったり電車に終電があるのはありがたいものだとタイチは感じていた。寝る準備をした後、まるで明日からの大学生活に備えるかのようにすぐにぐっすり眠ることができた。


 明日、久々に取り出した大学用の鞄に、ノートパソコンと大学で借りたままになっていた課題用の図書を放り込み、Mapアプリで乗る電車を検索する。一瞬大学の最寄駅が出てこなかったが、そうそうと思い出せた。 久々でなんとも指の動きがタイチにとってもぎこちない。何かいつもと違う感じがしたが、恐らく長い外出自粛期間のせいだろうと納得することとしていた。


 長く日に当たるのは久しく、直近見慣れない日差しが眩しく、頭もぼんやりする。それでも今日から久々の再開にタイチは胸が高鳴っており、気持ちよく闊歩している。大学が近くになるにつれ他の学生達も電車に集まっているが、まだ見渡しても知り合いは見当たらない。


「おぃ、タイチ、久しぶり~」

 同じ写真サークルのタケヒトが後ろから驚かすように手を当てながら声をかけてきた。


「おー、よぉ タケヒト。元気してたか?」

「いやぁ、退屈だったわ。本当、くそみたいな時間。久々に授業出たくなったぐらいだわ」

 非常に楽しそうに日々の不満を彼は訴える。


「お前にしては、珍しいじゃん笑」

 タイチは久々にリアルで人と話すのにてこずり、タイチ自身も恥ずかしいぐらいの口下手な返ししかできなかった。


「そういう、お前はどうだったんだよ笑」

「俺? 俺はー、何もないかな笑」

「なんだそれ笑」


 そんな会話を交わした後、間も無くタケヒトは英語の授業に向かった。


 タイチも初めの授業の教室へと向かった。タイチはただ呆然とその日受けなくてはならなくなった授業を惰性で受けて回っていた。


――


 そろそろ集合時間だと思い、最後の授業後すぐに教室を出た。今日の久々のサークルは特別何かあるわけでもないが、タイチは非常にワクワクしていた。毎日のようにSQQNで会っていたというのにそれでもリアルで会えるのと会えないのは何かが違って思えていた。


 自粛前からタイチ達はいつも食堂の入り口から最も離れたところに17:00に集まる決まりとなっていた。その時間には、というよりもっと前から、そこには特に意味もなく大学生活を送る学生で賑わっていた。もちろんこのゆるふわサークルもほとんどそれらと変わらない。タイチは自粛期間前からの変わらぬ雰囲気に安心すら覚える。 タイチは日常が帰ってきたのを実感していた。少し新鮮だった気持ちもタイチからは少し減退していたところだった。


 タイチがいつものテーブルの定位置に近くと、既にマキとサヤが盛り上がっていた。

「でさー、結局その空白、実は全角で笑」

「あるわー笑」

 どうもプログラミングの課題で盛り上がっていると察して、タイチも話題に乗る。

「何々? Whitespaceの話?」

「ちゃいますー。Cの話ですー」

 サヤがちゃんと丁寧に白々しいボケに返す。


「本当久しぶりだけど、久しぶりじゃない感じ!」

サヤは元気そうにそう言う。

「それな。毎日会ってたけど、会ってないような感覚。自分がいるようでいないようなそんな感じ」

「ごめん、後半何言っているの?笑」

サヤはいつもストレートでこの感じも懐かしい。


 しばらく課題のプログラミングについて話ていたら、アキラが遅れてやってきた。

「すまんすまん、遅くなって」

 この男全く悪びれずにやってきた。

「どうも電車が遅れてさ」

「嘘つけ笑何時に起きたんだよ笑」 タイチは間髪挟まず突っ込んだ。

 息をするように無意味な嘘をつくアキラに皆つきあってあげていた。どうも憎めないキャラだからだろうか、本当に責めるやつはいない。


「そういや、まだユキチはおらんの?」 アキラが気づく。

「今日は来ないんじゃない?」

 マキが思ったことをそのまま声にした。


「君たち」

 突然、離れたところから二人の男性が声をかけてきた。焦っているのだろうかそんな遠くから話さなくてもよいのにと思うような距離だった。

 おかげで食堂にいた大勢の学生のような何かがこちらに注視している。


「君たち、ヤマカワユキチ君を知っている?」

 痩せたメガネをかけているスーツの男性がそう言っている。タイチはすぐタイチ達の専攻の大学事務だったなと思い当たる。


「知ってますけど、どうかしたんですか?」

 サヤは見知らぬ人に全く怖気つかずに聞き返した。


「ちょっとまずいことになってそうでね……

 時間あったら君たち少し来てくれるか?」


 男性が向かっていくとやはり5人組の所属する大学事務室に向かった。

 そこには、若手と年配の組み合わせの二人組の警官が長い間待機していたようだった。


「彼らですか?」

警官の若手は妙に落ち着いて聞いた。


「はい、ヤマカワさんと親しい友人方です」


「こんにちわ」

 警官の若手が丁寧に挨拶をしてきた。続けて質問をする。

「いきなりですが、今日ヤマカワユキチさんにお会いしましたか?」


「いえ、まだですけど?」

 アキラが誰よりも早く返答した。


「何があったんですか?」

 明らかに何かあった様子の雰囲気から、マキは声を出さずにはいられなかったし、その声はいつも聞く声よりかなり力強い。

 少し間を置き、警官の二人が目を合わせてから若い警官が口を開いた。


「実は、本日ヤマカワユキチさんが亡くなっていることがわかりました」


 それだけ言うと警官二人は5人の方を見たまま様子を伺うように何も言わなかった。


「どうして……?」

 昨日まで毎日のようにリモートで会ってた人が急に遠くなってしまった感じがじわじわときていた。喉奥が少し熱くなるのをそこのメンバーが感じていた。

 タイチにはこの突然の事実は受け入れ難く、何か心の中がざわつく。


「なんで……?本当に……?あんなに元気だったのに?」

 サヤが元気なさそうにつぶやく声が、他サークルメンバに事態の深刻さを再認識させる。


「亡くなった理由はなんだったんですか?」

 タイチは誰よりも理由が気になっていた。

 なぜか非常に今日は朝からソワソワしていたからだ。これまでの数ヶ月の間になぜか感じていた違和感がもしかしたら今それを感じているのかもしれないと思ったからだ。


「原因はまだわかっていないですし、あんまり言って良いものかわかりませんが、

 おそらく他殺ですね」


 再び5人組の空気が冷え込んだ。他殺? 病死や事故ではなく? そんな疑問が心の中でぐるぐると回っている。想定していない死因がタイチ達に更なる混乱をまねていた。大学生にとって死は遠く感じているものであったのに、それが一気に近くなってしまった。それだけで異常事態であるのに、さらに殺人事件となったら尚更整理がつかない。

 サヤは完全に当惑していていつもの明ぬけた感じはどこにもなく、何一つ声を出せていない。アキラは呆然としているし、マキも俯いている。


「どういうことですか……? 原因は明らかですよね?

 死因がわからないってことなんてないでしょう。

 昨日まであんなに元気だったんですから」

タイチはつい勢いづいた。


「!! 君、それはどういうことだ?」

 黙っていた年配の警官がいきなり声を荒げたのでタイチは怯んだ。


「いや、別に批判したわけじゃないですよ。ディスるつもりはありません」

「そうじゃない。君は昨日会ったと言ったね」

 先の荒げた声とは全く異なり、冷静さを警官は取り戻していた。


「はい。会ったと言ってもリモートですけど」

 タイチは何か喉が通らない。何も悪いことはしていないが、責められているような物言いだからか何か罪悪感がある。

 そこで無口な警官はまた黙り込み、もう一人の若手の警官も腕を組んで考え始めた。


「何かダメなんですか?」

 タイチはもどかしさを感じて急かすようにまた問いかけた。


 もう一人の若手の警官が慎重に五人組を疑うような顔をして、いまや四人組の人たちに告げた。


「だとしたら君は1ヶ月ほど死体と話していたんですかね。


―― だって、1んだからね


 」



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