第23話
結果として、私は全ての班を回り終えた。どの班も興味を惹かれた。美味しそうなのだ。
姉の声が響いた。
「調理終了でーす! さーて、こちらにある皿を持ってくださーい。スプーンを持ってくださーい。そして、集まってくださーい」
私は、トロンボーン班に戻った。陽子が丁度、ガスコンロの火を消したところだった。
「陽ちゃん、できたの?」
「ああ。ものすーごいものが完成したのだ。これで私たちの勝利が決まったようなものなのだ。さあ、行こう。皿とスプーンを取りに」
集合場所にくると、ふみちゃんが、私に皿とスプーンを渡してくれた。
「はい、これ、宇佐美ちゃんのぉ」
涼は、楽しそうにしている。
「なんだかワクワクしてきたね。みんな一体、どんなカレーを作ったのだろう」
しばらくして姉は、全員が集まったのを確認して、いった。
「みなさん、先生にご注目ー! ではルールを説明しまーす。これからこちらの電子ジャーからご飯をよそって、お好きなように各班のカレーを食べてくださーい。そして、食べ終わったら、洗い場に投票用紙とポストがあるので、投票用紙に美味しかった班の名前と自分の名前の2つを記入して、ポストに投函! ただし、自分の班は投票できませんのでご注意を! 丁度、ホカホカのご飯も炊けたところでーす。では、審査タイム、始めっ!」
姉は、一足先にご飯をよそって、一人でダッシュし、カレールーの元に走った。
「ずるーい。私たちも負けていられないよー」
電子ジャーは5個あった。それぞれに、すぐに行列ができた。200人分を炊いたということで、大盛りオッケーらしい。運が良ければ、おかわりもできるそうだ。
私は、大盛りにしてよそった。そして4人でまわることにした。まずはサックス班のサッチャンのいる、沖縄風カレーを食べに向った。
何人かが既に並んでいた。そこそこの反響のようだ。
私たちも列に並んだ。後ろの涼にいった。
「沖縄のカレーはピーマンが入っているんだって」
「ピーマン? なんで?」
なんでと訊かれても、さあ、としか言いようがない。
「ピーマンがよく取れるからじゃないのかなあ?」
さらに後ろにいるふみちゃんが、いった。
「沖縄って元々、日本の長寿ナンバーワンだったそうですねぇ」
「うんうん。今は陥落しているらしいけれどね」
「なんででしょうねぇ?」
「ファーストフードが盛んになったらしいね。夜中でもステーキハウス屋が満員なんだって。つまり、食習慣が変化したからじゃないのかな」
私も、会話に入る。
「でも、金さん銀さんとか肉が好きだとかっていってなかったかな。ウサミは、長寿の人は肉を食べているって印象を持っているよ」
「魚も肉、どちらを食べるのもいいと思うけど、一汁三菜の伝統的な日本食に、肉料理を一品追加するというのが理想らしいね」
一番後ろにいる陽子が、いった。
「うーたん。そろそろ、ルーをよそえるのだ。私たちのもよそってほしいのだ」
「うん、できるだけ全部の班を回りたいから、ルーは、ちょっとだけにするね」
鍋の前にくると、私はお玉でカレーをよそって、4人のライスの上にちょびっとずつかけた。列から抜けて、さっそく、食べてみる。
パク。
パク。
パク。
パク。
「ウサミ、これはこれは……何だか懐かしい味がするよ」
「そうだね。昔、食べたことがあるわけじゃないんだけど、僕も懐かしく感じるよ!」
私たちは、沖縄カレーを堪能した。
「さあって、次に行こうか。どこに行く? うーたん」
「そういえば、具にたっぷりのバナナを使っている班があったよ。ドラム班のベジータ先輩のところのカレー」
それを聞いたふみちゃんが、露骨に顔をしかめた。
「バナナ? 宇佐美ちゃん、カレーにバナナって正気なのぉ? ベジータ先輩の頭、正常ぉ?」
「ふみちゃん、ウサミに詰め寄られても困っちゃうよ。ベジータ先輩によると、バナナを入れることで美味しくなるんだって」
「ベジータか! あいつも中々分かってるのだ。わくわく。気になるのだ。よし、みんなでバナナ入りのカレーを食べに行ってみるのだ」
ドラム班のところにやってくると、ここも行列となっていた。
私は、ふと思った。
「そういえば、バナナの皮って食べられるのかな?」
ふみちゃんが、首を傾げた?
「えー、ウサミちゃん。突然どうしたの?」
「アンチエイジングの秘訣を紹介する番組で、こないだ、果物は皮ごと食べなさいって紹介されていたんだよ」
「なるほどねぇ。たしか、果物の皮には紫外線から身を守るための酵素が豊富に含まれているらしいねぇ。果物だけじゃなくて野菜の皮とか根っ子とか、普段は食べないような部分に豊富に含まれているんだってねぇ。そういうのをわざわざお湯で煮出してスープなんかに使って、『若返り』の薬として飲んだりするとも聞くねぇ」
ふみちゃん、詳しい。
「ウワミはね、オレンジとかキウイとかリンゴとかレモンとかもろもろを皮のままミキサーにかけてスムージーにすれば、そういうの摂取できると、メモしたのを覚えているの。ただね、バナナの皮って……あれは、いいのかな? 食べられるのかな?」
ふみちゃんは、再び顔を傾げた。
「どうだろぉ……バナナの皮……毒はないだろうけどぉ」
陽子が、いった。
「たしか子供の頃に、誰でも一度は、バナナの皮をガブリって食べるのだ。でも、ペッペペってしてしまうのだ。あれは、食えたもんじゃないのだ」
涼も、話に加わった。
「今はどうか知らないけれど、海外から船でバナナを運ぶ際、様々な薬品の中にドップリとバナナを漬けこむっていう話を僕は聞いたことがあるな。ということは、バナナの皮を食べることは、そういう薬品を摂取することにもなるだろうから、体に悪かったりするんじゃないのかな」
うーん。どうなんだろう。
「どうだろう。まあ、ウサミは今回のカレーにはバナナの皮は入っていないと思うよ」
バナナの皮が食べれるか食べれないかと議論していたところ、ようやく鍋が見えてきた。私たちがよそう番だ
すると……。
涼が、鍋を指さしていった。
「うさ、見てみるんだあの鍋の表面を、プカプカと黄色いものが浮いていないか?」
「あっー。バナナの皮、入ってたっ!」
しかし、バナナは国産。なのでセーフ。
私は、お玉で人数分のルーをちょっとずつよそった。
列から離れて、みんなで食べてみた。
あーん。
もぐもぐ。
陽子が、目を大きく開いていった。
「おおお! 美味しいのだ。バナナのカレー、中々あなどれないのだ」
「うん。このまろやかな舌触りぃ、中々やるぅ!」
私たちは、バナナカレーを堪能した。
「うーたん、今度はどこに行くのだ?」
陽子が、訊いてきた。
「そういえば、フルート班のタナベッチのところでは、グリーンカレーっていう、緑色をした不思議なカレーを作っていたよ」
「な、なんだって! グリーンカレーを作っている班があるのだな。それを早くいってほしかったのだ! 私、グリーンカレーが大好物なのだ」
「えっ? 陽ちゃんはグリーンカレーを知っているの?」
「昔、タイ料理のお店に行ったことがあるのだけれど、そこで食べたグリーンカレーに衝撃を受けたのだ。また食べたいと思っていたのだ」
ふみちゃんが、陽子にいった。
「陽子先輩はグリーンカレーが好きなんですねぇ。実は私もなんですぅ」
私は、驚いた。
「ええー。ってことは、ふみちゃんも、知っているの?」
「常識だよ、宇佐美ちゃん」
「そ、そうなんだ。ウサミだけ、全く知らなかった。陽ちゃんが食べたことがあるってことは、涼くんも食べたことがあるってことだよね?」
涼は、頷いた。
なんだか仲間外れにされた気分になった。
「ガーン」
「うーたん、行くのだ! フルート班に行くのだ!」
私がショックを受けて疎外感を味わっていた時、陽子たちがフルート班へ向かって走り出した。
「待ってよぉー」
私は、追いかけた。
フルート班のところにも行列が出来ていた。列に並びながら、私は疑問を口にした。
「グリーンカレーって、どうしてグリーン色になるのかな?」
それに対して、涼が答えた。
「グリーンカレーのペースト自体が緑色だからじゃないのかな? 基本的に野菜は茄子・パプリカ・しめじ・たけのこが一般的だね。他に必要になってくるココナッツミルクやナンプラーでも緑色は出せない。だから、緑色の正体はペーストだね」
「ふむふむ。でも一体、グリーンカレ―ペーストってどんなものなのだろう」
ふみちゃんが、私の肩を叩いた。
「宇佐美ちゃん、あれじゃないの? あのボール、グリーンカレーのペーストが作られた後のような気がする。調べてこようか? 材料を?」
「え? できるの? どうやって」
ふみちゃんは、一人で列を離れて、ボールのグリーン色のものを指でペロリとしてから戻ってきた。
「分かったよー」
「「「うっそー」」」
「龍崎さん、本当に分かったの?」
ふみちゃんは、人差し指を立てていった。
「グリーン色は『青とうがらし』なんだと思います。青とうがらし・玉ねぎ・にんにく・コリアンダー・クミン・塩・黒こしょうが材料で、これらをフードプロセッサーに入れて、グリーンカレーのペーストを完成させたのでしょう」
「おお。ふみちゃん、すごーい!」
私は、ぱちぱちと手を叩いた。陽子が、神妙な顔でふみちゃんを見つめていた。
「絶対音感ならぬ、絶対味覚の持ち主もこの世にいると聞いていたのだが。まさかふーみんがその人だったとは……」
鍋の元までくると、私はこれまでと同じようにお玉でカレーをよそい、みんなのライスの上にかけた。
列から離れると、さっそくパクリと食べた。
もぐもぐ!
お、おおおおおおお! これはああ!
「お、おいち―」
「さすがはグリーンカレーなのだ。この班は強敵なのだ」
その後も、私たちは色々な班のカレーを食べた。
どれもこれも美味しかった。
「そういえば、陽ちゃん、うちの班のカレーはどんな味なの?」
「ふふふ。めっちゃ美味しいのだ。みよ。あの行列を!」
「おおー。長い行列になっている」
「食べてみる? 自分たちが作ったカレーを食べるために行列に並ぶのも、なかなか体験できるものじゃないと思うのだ。オツなものなのだ」
「確かにそうだね。じゃあ、ウサミたちも並んでみようか」
意外に好評だった。リピートしている人もいるようだ。
「まだかな、まだかなー」
わくわくする。
そして、鍋をよそうところまで来た時、新事実が発覚。
ちょうど……空っ!
私は、がっくりと肩を落とした。
「え、ええー! 空になってるよ! そんなー、そんなー。ウサミたちの班のカレーが一番最初に無くなるだなんて、なんで? なんで? 玉ねぎとニンニクを炒めただけでしょ?」
涼は、鍋の中を覗いて、ニコリと笑った。
「せっかく並んだのにまさか自分たちで作ったカレーを食べられないだなんて、嬉しいやら悲しいやら。不思議な感じだなあ」
「うーたん、ただ炒めただけじゃないのだ。炒めた上、昆布や唐辛子をぶち込んで煮込み、さらに水を入れて温度を冷やしてからミキサーにかけて、醤油・オイスターソース・ハチミツの隠し味を投入したのだ」
「そうなの……ね? 材料とレシピを連呼されても、よく分からなかったけど、すごそう……だね」
ふみちゃんが、ニコリと笑った。
「宇佐美ちゃん。さらにぃ、これはこっそりとだけど、秘密の薬もいれたんだょ」
「な、なにそれっ?」
「それはね、大量の味のも……」
ふみちゃんがその名称をいおうとした時、陽子がふみちゃんの口を閉じた。
もごもごもご。
ふみちゃん、苦しそうだ。
「いやいや。ここは秘密にしておいたほうがいいのだ」
「えー。気になるよー」
一体、秘密の薬とは、何だろう。
空になっているので、仕方なく私たちは他の班カレーを食べに行こうとした。そんな時、部長が現われた。
「あらあら。カレーが無くなるだなんて残念でありますね」
「あっ、部長じゃないですか」
「私もカレーを作ったので、食べにくるであります」
「律子も作ったのだな。それじゃあ是非いただいてみたいのだ。どこなのだ?」
「あそこで、あります?」
「あそこ?」
列が並んでいない。
「誰も……いないのだ……」
「とにかく食べにくるであります」
私は、部長の横に並んで、いった。
「部長。ウサミは……約束を守るので、試食はご遠慮してもいいですか?」
後ろから涼が、訊いた?
「うん? 約束ってなに?」
部長は、突然慌てだした。
「な、な、な……何を突然いっているのでありますか? 妹さん。ちょっと来るであります」
部長は、私の手を引っ張った。耳元で囁く。
「それは内緒でありますよ?」
「は、はい分かりました……」
ふみちゃんが、目を細めてじっと見つめてくる。
「なに2人でコソコソやってるんですかぁー。怪しぃ」
「何でもないのであります。みんな、いらっしゃい。匂いがきついのか、誰も食べにこないであります。ここは、みなさんにはたっぷりと食べてもらい、美味しいことを宣伝してもらうであります」
3人は、律子についていった。私は立ち止まった。
「あれ? うーたんは、こないの? みんなで食べに行くのだよ?」
「うん。ウサミはいいや。みんな……食べて来てね」
「うさも、食べにこいよ? ねえ? 神宮さんも、うさに食べてほしいよね?」
「そ、そうであります。妹さんも食べに来るのでありますよ? これは強制であります」
「えええ……部長空気よめない! ウサミも食べなくちゃいけないのー」
流れ的に、豚の目ん玉カレーを食べさせられた。
うっぷ……。
生臭い匂いが食欲を削り取ってきた。
しかし、カレーは激ウマだった。豚の頭とは、あなどれない食材らしい。
その後、ご飯をおかわりできないか、炊飯ジャーのところに戻ったところ、ちょっとだけ残っていたので、おかわりした。そして、残りの班のカレーも堪能した。
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