第20話
草の繁った草原のような坂道を上っていった。たくさんの見たこともない花が咲いていた。意外だったのが、途中で先の伊座神社とは別の神社があったことだ。
私が意外そうに見つめていたら、後ろから姉の声がした。
「うさちゃん、ここはうさちゃんが生まれるまで、さっきの神社の本殿だったらしいのよー」
「そうなんだ。かなりでっかい建物だね」
ちょうど私が生まれた頃、謎の病気が蔓延するという災害があった。当時の医学では治療することができず、神頼みとばかりにきっと、色々な人々が、ここにお参りにきたことだろう。
私たちは、さらに先へと進んだ。時計を見ると、すでに2時を過ぎている。道中、ふみちゃんが「わひゃあぁ」と驚いた声をあげた。
「ど、どうしたの、ふみちゃん? 突然、声をあげて」
「ウサミちゃん、ごめんねビックリさせちゃってぇ。真っ黒な人がいたと思ってぇ」
ふみちゃんは、手をぷるぷるさせながら、大きな石を指さした。ヘッドライトで照らしたところ、そこには、まるで人間のような黒い影があった。
涼が、説明した。
「これ、地元では有名な影模様だよ。まるで、人の様でしょう?」
確かに人のような模様だ。
「うちのばーちゃんの話によると、ある日、突然現れたらしいんだよね。専門家によると、すごい力を感じる模様だそうで、隠れたパワースポットと語り継がれているらしい」
「ふーん。そうなんだ」
私は、手を合わせて拝んだ。
「宇佐美ちゃん、なんだか怖いょ。早く、先に進もうょ。置いてかれちゃぅ」
ふみちゃんは、なぜか影を見ながらとても怯えているようだった。
私たちは更に歩いて、早朝4時頃には、山頂に到着した。今の時期では、ご来光は4時半には拝めるそうで、余裕を持って山頂できたことになる。東の空が赤とオレンジのグラデーションとなって、綺麗だ。そして、山頂から見下ろす景色は、絶景だった。
姉も、ゼーハーゼーハーいいながらようやく山頂に辿り着いた。楽器を持っていないのに、大汗をかいて、死にそうな顔をしている。
陽ちゃんが、私に訊いてきた。
「うーたん、どうだったのだ? 山登りしてみた感想は?」
「どうしてか分からないけど、ウサミ、すごく力をもらった気がするよ」
涼が、笑いながら頷いている。
「この山は全体がパワースポットだからね。僕たちの学園は、ここのパワーの恩恵も受けているのかもしれないね」
4時25分。まもなくご来光へのカウントダウンが始まろうとしていた時、部長が号令をかけた。
私たちは、東を向いて楽器を準備し、隊列を組んだ。
そして、部長の指揮に合わせて『君をのせて』を演奏した。
『君をのせて』。
この曲は、天空の城ラピュタのテーマ曲だ。この日、この瞬間のためだけに練習をしてきた課題曲である。全体で合わせたのは今回が初めてだが、不思議なくらいに私たちは一つになっていた。
演奏の最中に、ご来光を拝むことができた。その瞬間、なぜだかは分からない。崩壊して空高く飛んでいくラピュタが、遥かかなたに見えた。……そんな気がした。
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