第16話

 空が暗くなってきた頃、とあるくじ引き屋を見つけた。


 店の店主が、威勢のよい声をあげている。


「よう当たるでー。どんどん当たりをだして、ゲームを持っていってええで」


 私たちは、そのお店の中を覗いてみた。中には最新のゲームハード機を始めとして、様々なソフトが飾られていた。


 ほ、ほしい。


「うわあ。あのゲーム機、最新のゲーム機のハードだ。すごーい、すごーい」


 私が、目を輝かせて見ていると、姉が腕まくりをした。


「よーし、お姉ちゃんが、うさちゃんのために、ゲットしてきてあげるよー」


 姉が、くじ引きに挑戦。


 一回300円で、二回で500円という値段設定だ。


 姉は、迷わずに『二回』を選んだ。当たるだろうか。期待が胸を横切った。


 陽子は、姉の後ろ姿を見ながらいった。


「このハード、欧州などで日本よりも最初に発売されたのだよな。発売日は、ダッシュでの奪い合いがあったそうなのだ」


 部長が、それに続いた。


「知ってるであります。山積みになっていたハードの箱に全員でツッコんでいって、山が崩れたらしいでありますね」


「そういえば、昔、ドラクエというファミコンソフトが発売された時に、何日も前から行列に並んでいた人がいた人がいたそうだね。寝袋とかを完備して」


 それは、すごい時代だ。今では予約というシステムがあるので、そういう光景は見かけない。


 ふみちゃんが、いった。


「ドラゴンクエストって有名ですよねぇ。そういったシンンプルなプレイスタイルのゲームはまだまだニーズがあるはずです。今のロールプレイングはどうなってしまったのでしょぅ」


「もうロールプレイングじゃなくて、ほとんどが、アクションゲームになってるのだ。昔のFFのような本格ロールプレイングがしたいのだ」


 私は、訊いた。


「今は、もうないの? そういうロールプレイングゲームって」


「残念ながら……もうほとんど昔ながらのRPGは絶滅したのだよ」


 そうなのか。陽子から借りているRPGは妙に古いものばかりだったので、不思議に思っていたが、現在は開発すらされていないのか。


「どうして、昔ながらのRPGがなくなっちゃったの?」


「たぶん、あれなのだ。昔は、失敗しても次に成功すればいいという考え方だったけど、段々とハードが進化したのだ。その進化に伴って、ソフトの製作費もあがっていったのだ。チャチなグラフィックのソフトを作っても、目の肥えたユーザーにはもう売れないし、高品質なグラフィックのソフトを作ったとしても、販売に失敗した場合、一発で会社が倒産レベルの危機になる。だから、どの会社も怖くて、昔ながらのRPGの製作に手を出さなくなったのだ」


 ふみちゃんは、眉間にしわを寄せた。


「あぁ……気軽にどの会社もゲームを製作していた時代に戻ってほしいですねぇ。あのクジ引き屋にもある新型ハードは、開発側がゲームを開発するのが快適になったことをウリに宣伝していますが、どうなるのでしょうねぇ」


「龍崎さん。僕はまたゲーム業界が息を吹き返してくれることを信じているよ」


 涼の発言に、部長が頷いた。


「そうでありますね。それにしても、長いであります……先生。もうくじ引き、何回しているでありますか?」


 姉は、最初のクジで連続してハズレを引いてから、さらに現金を注ぎ込んでいた。


 私は、姉の隣に来ていった。


「ねえ、お姉ちゃん。そろそろ、止めたら。幾ら使ったの?」


「4千円だよ。ここまで使ったんだから、お姉ちゃんは、もう後には引けない!」


「えええー」


 とりあえず、私たちは、姉がくじ引きを終えるのを待った。


 10分が経過し、30分が経過し……40分が経過した。


 姉と露店のおじちゃんの間に微妙な空気が流れて始めてきた。姉は、顔を真っ赤にしながら次々に、お金を注ぎ込んでいる。クジは外れてばかりだ。


 私たちはその間に、何度も姉を止めたが、姉はかぶりを振るだけだった。ゲームハードをあてるまで止めないといっている。なんて頑固なんだ。


 ちなみに、すでにそのゲームハード本体を購入できる料金以上は使っていた。


 私は、スマホをポケットから出して、ピコ・ピコ・ピコっと操作した。


「もしもし……」


 それから5分後、2人組の警察官がやってきた。


 私が110番通報して呼んだのだ。近くの電柱の表札に書かれた住所を伝えて。


「お巡りさん、こっちです」


 私は、お巡りさんを見つけると手を振って合図した。そしてお巡りさんをくじ引き屋に連れていった。そして、こういった。


「この人、詐欺しています。露店くじ引き詐欺の実行犯です」


 姉と露店のおじちゃんは、ぽかーんと私を見つめた。


 まさに姉は今、はずれを引いたばかり。私は、警察にいった。


「何度引いても引いても、あたりません。このくじ引き屋は詐欺です」


 露店のおじちゃんは、私にすごんできた。


「な、なにお嬢ちゃん、わけわからんこといってるんや! 営業妨害もええかげんにせんかい」


「だったら、くじの中身見せてくださーい。当たりくじが入っているのか見せてくださーい。ゲーム機のハードもろもろの豪華賞品はダミーだ! おまえの悪巧みは、すべておテントウさまがみてるんだ! お姉ちゃんのお金を返せっ!」


 私は、指を空に向けながらいった。


 周囲から拍手があった。警察がやってきたから、なんだろうと周囲の人々が私たちを見ていたのだ。


 警察は、露店のおじちゃんにいった。


「とりあえず、箱の中身を見せてもらえますか? ちゃんとあたりがあるかどうかを確認するだけですから」


 露店のおじちゃんは、急にオドオドし始めた。


「い、いやや! なんでなんや。国家権力ども! 横暴なことを口にすんなや!」


 警察が、姉に訊いた。


「ちなみにお姉さん、いくら使ったの?」


「8万……ほど、です」


「ゲームの賞品はどれだけゲットした?」


「一つも……」


 警察は、露店のおじちゃんに詰め寄った。


「それは本当ですか?」


「さあなあ。それくらいは、つこうたかもしれんなあ……」


「確率的に有り得ないですね。偽装工作をしているかどうかだけ、調べさせてもらいたい」


 結果、露店のおじちゃんは警察に逮捕されて、連れていかれた。なんと、ゲーム賞品の当たりくじが一本も入っていなかったのだ。姉が、投資した約8万円は戻ってきた。


 姉は、騙された、と憤慨している。姉はどうやら世間知らずらしい。


 部長が、姉に訊いた。


「先生、競馬とかパチンコとか……するでありますか?」


「いいえ、しませんよ。どうしてですかー? 神宮さん?」


「いえ……先生は、絶対にしない方がいいでありますね。手を出したらとんでもないことになるでありますよ」


 ただの時間の無駄だった。しかし、せっかくの祭りだ。楽しまなくては損だ。私たちは再び露店めぐりをした。


「それにしても活気があるなぁ」


「あ、また綿菓子屋さんがあった。焼きそばもある。くーださい」


 私は、買いまくった。抱えるほどに食べ物を購入しているのを見て、涼が不思議そうにいってきた。


「おいおい、うさ。そんなに買って大丈夫なの? 食べられるの?」


「涼くん、なんで? ウサミ、これくらいなら全部、すぐにペロリと食べちゃうよ」


 もぐもぐ。私は、痩せの大食いだ。


 それにしても、こういうところでは、普段は絶対に買わないような食べ物まで買ってしまうから不思議だ。


 焼きそばなんて、定食屋などでも滅多に注文しない。でも、こういう場所だと、妙に購買意欲が刺激されてしまう。これぞ祭マジックなのだろう。


 部長も、お好み焼き屋の匂いに引きつられて、ふらふらといった。


「私も、何か食べ物を買うでありますよー」


 みんな、それぞれの食べ物を買って、近くの路上の段差に座って食べた。


「ふー。ウサミ、お腹いっぱいだよ」


「そりゃあ、ずっと食べてばかりいたでありますからなあ」


「うさちゃん、いつも、5人前は夕飯食べるもんね」


 姉が余計なことを喋った。皆に注目された。


 ふみちゃんが、空を見ながらいった。


「それにしても、待ち合わせた時はまだ明るかったのに気づけば真っ暗ですねぇ。明るい空から暗くなる空の移り変わりも、情緒がありますねぇ」


 陽子も、感慨深げに夜空を眺めた。


「うん。なんか日本人で良かったって気がするのだ」


「陽ちゃん、一応いっておくけど、太陽があって昼と夜があるのは、別に日本だけじゃないよー」


 一応、ツッコんでおいた。

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