ゲームサウンドとアニソンでマーチング♪

@mikamikamika

第1話

 季節は春。数ヶ月前に出席した卒業式で、別れを惜しんで号泣していたのも、もはや昔のこと。その時に感じた寂しさも綺麗さっぱり忘れ、今はわくわく気分でいっぱいだ。


 本日、中学校の入学式を迎える。


 私がこれから通う学園は、入学倍率が非常に高いことで有名だ。毎年全国各地から、この学園に入学したいという学生が殺到するのだ。


 本来ならば私も厳しい入学試験を受けて合格しなければ、学園の敷地に足を踏み入れることは叶わない。しかし、私は一切そのような試験などを受けていない。


 ご当地特典とでもいおう。地域おこしに学園側が積極的に取り組んでいるおかげで、近隣の小学校に通っていただけで、入学の願書を学校側に送るだけで、入学手続きを済ませれた。


 一体、どのような学校だろう。想像するだけで胸が高鳴った。


 私が、キッチンで朝食のレタスサンドを頬張っていた時、玄関のチャイムが鳴った。


「はーい」


 家には両親はいない。姉と2人で暮らしている。


 その姉も、すでに仕事に行っており、今は家に私しかいない。玄関にパタパタと向かい、ドアを開けた。そこにはよく知った顔があった。幼馴染の陽子と涼だ。


「あっ。陽ちゃん。涼くん。どうしたの?」


 陽子が、いった。


「どうしたもこうしたもないのだ。今日はうーたんの入学記念日なのだ。だから私たちが先輩として、迎えに来てあげたのだ」


「わー嬉しいな。ウサミ、一人で学校に向うの、不安だったんだ。陽ちゃん、ありがとう」


 陽子の隣にいる涼も、笑いながらいった。


「最初は緊張するもんね。それに、うさは昔から方向音痴だったから。校舎の場所を覚えているかどうかも怪しいと思ったんだよ」


「涼くん、うさみのことを馬鹿にしているなー。ひどい、ひどい! 校舎の場所ぐらい覚えていますよーだ」


 私は、唇を突き出していった。


 二週間前、一度だけ下見に行った。極度に方向音痴の私は、到着するのに3時間もかかった。だから、より念入りに、道のりを頭に叩き込んだ。


「学校までのショーットカットの近道もあるから、うさに教えてあげるよ。立ち話もなんだし、中に入ってもいい?」


「うん。いいよ。ウサミも、まだ食事中だったし、陽ちゃん、涼くん。中で待ってて」


「「ではお言葉に甘えて」」


 2人は玄関にあがると、そのまま居間に向かった。座布団を押し入れから持ってくると、どっしりと座り、勝手にテレビを点けた。勝手知ったる他人の家だ。


 彼らは幼稚園の頃から私を本当の妹のように可愛がってくれていた。家にも頻繁に遊びにきていた。


 2人の名前は立花陽子と立花涼という。どちらも『立花』で姉弟の関係だが、2人共も私より1つ年上だ。ただし双子ではではない。誕生日はどちらも違っている。つまり、半分だけ血の繋がっている姉弟らしい。


 その理由は両親側の事情としか、彼らから聞かされていない。


 私は、食べかけのサンドイッチを居間に持ってきて、頬張った。


 朝食を終え、しばらく一緒にテレビを視聴していると、陽子が部屋の掛け時計を見つめていった。


「そろそろ行くのだー。いい時間になったのだ」


 涼も、時計に目を向けて、頷いた。


「そうだね。今から行けば、丁度到着するってところかな」


 私は、笑顔で立ち上がった。


「じゃあ、部屋から鞄をもってくるね。わーい。学園って一体、どんなところだろう。ウサミもこれで中学生なんだ」


「そんなに嬉しいの? 中学生になるの、そんなに嬉しいの?」


 陽子が、不思議そうに顔を傾げた。


 どういう意味だろう。


「うん……嬉しいけど。陽ちゃん、なんで、そんなことを訊いてくるの?」


「中学生よりも私は、小学生の時のほうがよかったのだ。楽しかったのだ」


「どうして? どうして?」


「だってさー、中学生にもなったら、勉強がすごく難しくなるのだ。悪い点数をとったら、親にも先生にも怒られるのだ。小学校のほうがノビノビと過ごせていたのだ」


 私は、絶句した。


 中学校は、そんなに勉強が難しくなるのか。小学校のテストでは、高得点をキープしていたが、中学校では、他の同級生に学力でついていけるか不安になった。地元組の私は、他の生徒たちと違って、入試試験を受けずに入学したのだから。


 涼が、かぶりを振りながらいった。


「うさ、まともに聞いちゃ駄目だぞ。それは、陽子が単に勉強をサボっているからだよ。ちゃんと予習復習をしていれば、勉学面では全く問題ないし、中学生生活は楽しいから」


「えー、私はサボってないのだ。勉強はちゃんとしているのだ。テストの前日だけ」


 涼は、顔をしかめた。


「うさ、陽子のように不良になっちゃ、だめだぞー」


「こらー。悪口、本人の前なのだぞー! 聞こえているのだー。悪口、禁止! 私は別に不良じゃないのだ」


「あははは。ウサミ、ちゃんと予習と復習をして、学業は頑張るね。じゃあ、ちょっと待っていて」


 私は、食器をキッチンに持っていき、シンクに入れた。部屋から鞄を取ってくると、3人で玄関を出た。


 空が、青かった。天気のよい日だ。ラッキーだ。気持ちのよい入学初日を迎えられそうだ。


 ふと、路上を歩きながら、2人が荷物を持っていないことに気がついた。


「あれれ? 2人とも、手ぶらなの?」


 私の質問に、涼が答えた。


「今日はね、本当は僕たちは学校休みなんだよ」


「ええ。そうだったの? じゃあ、ウサミを案内するためだけに家に来てくれたの?」


 隣で陽子が、いった。


「まったく予定がないわけじゃないのだ。うちの学校の伝統行事があるのだ。新入生の入学式当日、熱烈な部勧誘をやることが伝統になっているのだ」


「ふーん。そうなんだ」


 部勧誘か。


 中学校からは、部活動というものが始まる。小学校でもバレーボールクラブなどのクラブは幾つかあったが、本格的に何かに取り組むというのは、中学生からだ。


 歩きながら、何部に入ろうかと、妄想した。学生時代の青春は、どこに入部するかで8割は、その良し悪しが決まるとも聞く。


 そんな時、突然陽子が私に抱きついてきた。


 な、なんだー!


「ということで、うーたんを、私たちのマーチング部にお持ち帰りしますのだー」


「え? ウサミが? マーチング部?」


 突然いわれ、頭が軽く混乱した。。


「うささへよければ、僕たちと一緒にマーチング部で頑張ってみない?」


 涼も誘ってきた。


「どうしようかなあ。マーチングって、たしか歩きながら楽器を弾くんでしょ? ウサミはドジだから、楽器をちゃんと弾けるか不安だよ。転んじゃうかもしれない。入部するとしても、吹奏楽部がいいかなあ」


「大丈夫だよ、うさ。できるさ。入部は気が向いたらでも構わないけどさ……」


 涼がそういうと、私に抱きついている陽子が、涼を睨みながらいった。


「こら、涼! そんなへっぴり腰な勧誘で、どうするのだ。昨日、涼だってうーたんを絶対に私たちの班に入れたい、って意気込んでいたのだぞ」


「そうだけど、無理矢理入れても仕方がないしさ」


 陽子は、一旦私から離れ、両肩を掴んできた。力強く、じっと私の目を見つめてくる。


 眼力に、少しだけ圧倒される。


「とにかく、うーたんはマーチング部に入るのだ。うちの学園、吹奏楽部なんてないのだ。マーチング部が吹奏楽部も兼業してるのだ。演奏中に歩くと歩かないの違いしかないのだ! うーたんはね、うちのマーチング部に入部するのは、もう確定事項なのだ」


「えー、ウサミ、まだやるとは決めてはいないよー」


「だめだめ。だめなのだ。もう決まっちゃったのだ。私は、入ってくれるというまで、うーたんのこの腕を離さないのだっ!」


 陽子は、ギュッと私の腕を掴んできた。その後、本当に陽子に腕を離されないまま、学園に到着した。


 学園は、中高一貫校であり、敷地内に中等学校と高等学校の両方の校舎がある。そして、それらの校舎は一般的の学校の校舎と比べて随分と珍しい外観をしていた。なぜか、江戸時代などの日本の城が、モチーフとなっていた。


 また、学園の校門に向かうには、急こう配な長い坂道をのぼる必要もあった。二週間前にも見たのだが、やはり急だ。そして、目立つ。


 私が、その道を見つめて面食らっているのに気づいたからか、引っ付いている陽子がいった。


「ここは、うちの名物坂なのだ」


「陽ちゃん……すっごく、大変そうな坂道だね」


「すぐに大変じゃなくなるのだ。とあることをしたらね。特別にうーたんに、その秘策を教えてあげるのだ」


 秘策? なんだろうか。


「うん。陽ちゃん、教えて。あと、腕もそろそろ離してね」


 苦笑しながらいうも、離してくれない。


「うーたんが、入部するって宣言まで私は腕を絶対に離さないっ! そしてこの坂道を苦もなく登れるようになる秘策とは、マーチング部に入ることなのだ。マーチング部って、そこそこ体力を使うのだ。だから運動もするのだ。体力がつけば坂道なんて、苦じゃなくなるのだ!」


 陽子、しつこい。


 私は、瞼を半開きにしながらいった。


「なんだか……2人ともウサミのこと、かなりしつこく勧誘してくるね。もしかして、何かノルマとかあるの?」


 2人ともかぶりを振った。


「馬鹿野郎ぉぉぉ。他の誰でもない、うーたんだからに決まっているのだ。私たちは、うーたんと一緒に青春を謳歌したいのだ。だろ? 涼?」


 暴走気味な陽子だ。そんな陽子をたしなめてくれると思い、涼を見るも、何度も頷いているだけだ。


「うさには、やっぱり入ってほしいな。ノルマだなんて、そんなのないよ。うさは、マーチング部に入るの、そんなに嫌かな?」


 別に嫌というわけではなく、そもそもがマーチング部について、行進しながら楽器を演奏するというイメージしかないのだ。


「ウサミ、ちょっと真剣に考えてみようかな。一度、部活を見学に行ってみるよ。だから、陽ちゃん本当にそろそろ離して」


「おっー本当? 前向きに考えてくれるの? だったら、さっそく今日、見学に来るのだ。音楽室の位置は玄関前に地図があるから、その隣の音楽準備室前で待ち合わせするのだ!」


 陽子は、ようやく私から離れてくれた。教室までついて来られなくて、よかったよかった。


 他の新入生たちと共に、学園の名物という坂道をのぼり、校門前に到着した。校門には、指紋認証によるIDチェックの設備があった。どうやら、セキュリティーに力を入れている学校のようだ。好印象を持った。


 その後、私は入学式に出席した。

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