第十七話 脱出への戦い(Ⅰ)

 あれから姉妹での話し合いはヒートアップした。

 長い間姉妹で話していなかったらしく、その期間を埋めるかのように笑い合う。

 俺たちも頬を緩めるしかない。

 翌朝、改めて協力を申し出て承諾されたため、一緒の馬車で門へと向かう。


「ここからは気を引き締めねばな。いつ敵が来るか分からん」

「そうですね。不意打ちは最も避けるべき事態です」


 ダイマスがべネック団長とともに御者席へと向かい、辺りを警戒し始めた。

 俺とアリアも横や後ろをチェックする。

 武器を手入れしていたイリナが立ち上がり、御者席のべネック団長に近づいた。


「磨いておきました。切れ味が良くなっているはずですよ」

「予備用の剣がこんなに綺麗になるのか。普段から手入れをしているのか?」

「ええ。いざという時には命に関わりますから」


 敵を斬ったのにも関わらず軽傷であれば、返り討ちに遭う可能性も出てくる。

 ゆえに武器の手入れは大切。

 ギルドでも散々聞かされてきた内容だったため、特に驚きはなかった。


「主武器も磨いてくれないか? イリナが磨いた剣は切れ味が良すぎるからな」

「わっ……硬いはずの木が簡単に真っ二つに……」


 アリアが瞠目する。

 視線を辿ってみると、木の枝らしきものが真っ二つに切断されていた。

 しかも刃こぼれをしている様子もない。

 感心していると、後方を警戒していたアリアと前方を警戒していたダイマスが同時に声を上げた。


「「敵襲です!」」

「挟み撃ちか。アリア、敵はどこの組織の者か分かるか? 前方の敵は恐らく騎士団だろう」


 べネック団長が緊迫した声で尋ねた。

 先ほどから一言も喋っていないデールさんも、顔が強張っているように思える。


「多分ギルド所属の冒険者です。みんなペンダントを持っていますし」

「間違いないですね。先頭で馬に乗っている男がギルドマスターです!」


 胸元で虹色に光るペンダント。

 色によってランクが分かるようになっており、Sランクだった俺は金色だった。

 虹色はSSランクのギルドマスターしかつけられないため、本人で間違いない。


「前を突破した方が早いか。デールは絶対に馬車を止めるなっ!」

「分かっています。敵の殲滅は任せました」


 デールさんの返事を聞くが早いか、べネック団長がスタッフを取り出した。

 隣ではダイマスが剣を構えている。


「デールの指示で攻撃するぞ。闇の精霊よ、我に力を。【ダーク・スラッシュ・ツイン】」

「はい。氷の精霊よ、僕に力を貸して。【アイス・ソード】」


 べネック団長は闇の精霊の力を借りて、漆黒の刃を二つ作っている。

 一方のダイマスは氷で剣を作成した。


「そろそろ準備しておいてくださいよ。――今です!」

「「斬撃、発射!」」


 指示の声で二人が一気に攻撃の技を発射すると、敵が次々と薙ぎ倒されていく。

 混乱する敵兵の中を颯爽と馬車が駆け抜けた。

 後ろを確認してみれば、ギルドマスターたちがなぜか攻撃を受けている。

 兵士と間違えられているのか?


 あれは……騎士団の連中だから追っ手同士が戦っているんだな。

 しばらく時間は稼げそうだ。


「後方でギルドマスターたちが不測の事態により停止。今のうちに距離を!」

「分かった。馬には無茶をさせることになるが……行こう!」


 距離を稼ぎたい気持ちはみんな同じだな。

 馬車のスピードがさらに上昇し、周りの景色が物凄いスピードで流れていく。


「このままのペースで進めば、あと五分程度で門に着きます!」

「武器が磨き終わりました。受け取って下さい!」


 危険な状態を抜け出すにはベネック団長の力が必要だと考えたのだろう。

 ベネック団長も受け取って白銀の刀身を晒した。


「ここから裏道を進みましょう。この国でも知っている人は少ない道です!」

「何でそんな道を知っているのかは聞かないでおこうかな」


 無表情で馬車を動かすデールさんをジト目で見つめるダイマス。

 馬車は右方向に旋回し、乱立する木々の間を抜けて草原の中を疾走していく。


「周りから丸見えではないか。弓や魔法で攻撃を受けたら危ないんじゃないか?」

「今のところ怪しい気配はないですね。気配を消していれば別ですが」

「そんなことが出来るのか?」

「マルティーク=ラーズという副ギルドマスターがその能力持ちです」


【気配消去】といい、俺の能力である【気配察知】と対をなす能力だ。

 名前の通りに、自分の気配を消して行動でき、暗殺向けの能力と言われている。

 俺の察知能力では気配を消したマルティークを見つけることは出来ない。


「副ギルドマスターということは、今回の冤罪騒動に一枚噛んでいるな」

「そうですね。厄介な相手です」


 べネック団長が顔を歪めたその時、後方から飛来した矢がアリアの足元に。

 アリアは小さく悲鳴を上げて蹲った。


「キャア!」

「矢じりの紋章はギルドのものです。恐らくはマルティークがどこかにいる!」


 みんなに危険を知らせつつ周囲を確認した。

 すると、脇にある森林の中から疾走するような音が響いてくることに気づく。

 でも……尋常な速さじゃないのだが。


「右手にある森林から音が聞こえてきます。ただ……速さが尋常ではありません」

「馬車よりも早いということは魔道具ですかね?」


 先端が妙な色をしている矢を怯えたような目で見つめながら、アリアが呟いた。

 毒でも塗ってあるのだろうか。

 首を傾げた時、御者席で警戒していたダイマスが悲鳴に近い声を上げる。


「前方に敵五百。先頭は――ギルドマスターだっ!」

「何だと!?  裏ルートを通って来たというのに……察知されたというのか!?」


 べネック団長も驚きを隠しきれていない。

 俺はゆっくりと御者席に移動すると、剣を構えてギルドマスターに向かい合う。

 彼の胸元で光る虹色のペンダントが今は憎らしい。


「久しぶりですね。ギルドマスター」

「ああ、信じていたお前と剣を交わらせなきゃいけないことを残念に思うよ」


 ギルドマスターはそう言って肩を竦めた。

 俺たちが隣国に入るまで……あと二時間。

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