成り上がれ、最強の魔剣士〜失墜した冒険者は騎士としてリスタートします〜

@yamakoki

第一章 帝国脱出

第一話 英雄になったSランク冒険者

「ティッセ、そっちに向かったぞ! 得意の魔法剣をぶちかませ!」

「分かりました! 火の精霊よ、我の求めに応じて剣に宿れ。喰らえ【炎獄剣】!」


 燃え盛る炎の力で緋色に波打つ剣を、こちらに向かって突進してくるドラゴンに一閃した。


 ――ドラゴンは水色だから、火魔法の剣は効くだろ。


 俺の予想を肯定するようにドラゴンの体が跳ねて、苦しそうな呻き声を上げた。

 水色に光る鱗が数個剥がれ落ちる。


「GYAAAAAAAAA!」


 やがて山中に響きわたるような断末魔を上げながら、巨大なドラゴンが地面に横たわる。ここにリーデン帝国冒険者ギルドの大勝利が決定した。


「勝ったぞー!」

「よっしゃ……これでやっと眠れる……」

「今夜はギルドで祝杯だな。やっぱり仮眠室を兼ね備えたギルド本部は最高だよな!」


 冒険者たちが口々に歓喜の声を上げる中、俺はギルドマスターのところへと向かった。ああ……勝ったのに足取りが重い。


 この国のギルドは、俺を潰す気なんじゃないかと邪推してしまうほど扱いが雑なんだよな。数ヶ月前は、洞窟を三日間の徹夜で踏破した直後にモンスターと戦闘させられたし、今は四日間ほどもまともに寝てないし。柔らかい布団が恋しいぜ。


「素材を剥ぎ取ったら他の部分は燃やすぞ。ティッセはグズグズしないで火魔法を使え!」


 ゆっくりと歩いていると、ギルドマスターであるハンルさんの声が聞こえた。ハンルさんはこの国で一番強い戦士と呼び声高い、筋骨隆々とした大男である。


 荒々しく逆立った金髪に、見た者を震え上がらせる緑金色の瞳を持つSS級冒険者。ドラゴンを一人で倒せるほどの実力者で、俺の直属の上司でもある。


「分かっています。火の精霊よ。我の求めに応じて全てを燃やしつくせ。【焔】!」


 俺は急いで駆け寄り、打ち捨てられたドラゴンの残骸を燃やした。辺りに肉が焼ける匂いが漂う。


 全く……火魔法を使えるのが俺だけってどういうことよ。おかげで、いちいち俺が出向いてあげなきゃいけないじゃないか。


「いやー、本当に便利だよな。魔剣士になれるとか羨ましいぜ」

「そう見えるのか? 戦いという戦いにいちいち参加させられるし……いいもんじゃないぜ」


 話しかけてきた冒険者仲間にそう答えた。


 俺はSランクの魔剣士として冒険者ギルドに所属している。普通、冒険者はパーティーを組んで行動するものだが、俺にパーティーメンバーはいない。代わりにハンルさんとともに行動しているのだが、これには理由があるのだ。


 まず、魔法を使うには精霊の力を借りる必要があるが、精霊はそれぞれ性格が違う。例えば、土の精霊はハンルさんみたいに剛腕な人物を好んで力を貸す一方で、水の精霊は柔軟な人を好む傾向にあるため、ハンルさんには力を貸さない。


 するとハンルさんは土魔法は得意だが、水魔法は全く使えないということになる。そして、剣とその魔法を合体させて戦う職業が、俺の職業でもある魔剣士だ。


 精霊を剣に宿らせるという非常に精密な作業が必要になるため、魔剣士は各国に一人いればいいくらい貴重な存在である。だからこそ、フリーの魔剣士を見つけた国は高待遇を提示して囲い込みにかかるのだ。


 俺の場合は、いきなりAランクからのスタートだったっけ。一般の冒険者はEランクから始まり、Aランクに昇格するまで四年ほどかかると言われているから、確かに破格の好待遇だと言えるだろう。その代わり、ギルドマスターの管理下に置かれるから、自由はある程度制限されるけど。


「そろそろ休憩を終わるぞ! 森の奥にある川で水浴びでもしてこい!」

「よっし。この時を待っていたんだ!」


 隣にいた冒険者が、ガッツポーズをしながら森の奥へと消えていく。みんな戦いで汗をかいているからな。さぞかし気持ちいいだろう。


 俺も川に向かおうとして体の向きを変えると、今まで作業をしていたハンルさんがこちらを視認したのか声を張り上げた。


 チッ、そのまま気づかずにいればいいものを。どうせ、また面倒事を押し付けようとしているんだろう。


 そんな俺の予感は的中し、ハンルさんはバッグ一杯に詰まったドラゴンの鱗を示す。あれ、絶対に重いだろうな。


「ティッセはすぐに戻ってこい。お前にはこれを運ぶという役割を与える」

「はいはい、分かりましたー」


 俺はぞんざいに返事をすると、転ばないように注意しながら川に向かう。喉が渇きすぎて、それと疲れすぎて辛い。


 川面に顔を映して見ると、汗で湿った赤い髪と徹夜続きで疲れ切った黄色の瞳が映った。


 ああ……俺はこんなに疲れていたんだな。


 そう思っても、途中で離脱することが出来ようはずもなかった。ドラゴンにとどめを刺した俺は、もれなく戦勝パレードへ参加しなければいけないからだ。王都に戻るなり、豪華絢爛な馬車に乗せられて、ゆっくりと街の中を周っていく。


「見て……ギルドで二番目に強いと言われるSランクの魔剣士、ティッセ様よ!」

「やっぱりカッコいいわね。特にあの真っ赤な髪が凛々しいわ」


 俺が道筋に並ぶ女性たちに微笑むと、黄色い歓声がパレード用の絢爛な馬車を包む。正直、疲れているからさっさと休ませてほしいが、当然のように上手く事は運ばない。パレードが終われば、今度は皇帝への謁見が行われるのである。


「Sランク冒険者、ティッセ=レッバロン。面を上げよ」

「はっ。失礼いたします」


 顔を上げると、目の前にリ―デン帝国の皇帝、オルーマン=リ―デンがいる。先ほど討伐したドラゴンの鱗のような、水色の髪を後ろでまとめている偉丈夫で、三十代前半のような外見をしているが、すでに五十歳を超えているらしい。


 ――それにしても、やけにご機嫌そうな顔をしているな。


 今までで一番ワガママな皇帝って言われているし、彼の考えはよく分からない。


「今回の活躍を認めて、褒美の金貨五百枚を与えよう」


 皇帝がそう宣言すると、脇に控えていたダイマス=イエール宰相が大きな袋を持って近寄ってきた。


 彼は十三歳という若さで宰相に就任し、各国との関係を瞬く間に改善した敏腕宰相だ。短く切り揃えられた淡い蒼色の髪に同色の瞳を持ち、恐ろしく整った顔立ちをしている。同じ男として非常に羨ましい。


「これが褒美だ。遠慮なく受け取るがよい。今回の働きは実に見事であった」

「ははっ、ありがたき幸せ。謹んでお受け取りいたします」


 いけない……ダイマス宰相に気を取られ過ぎていた。皇帝の気分を害した者はすぐに処刑されてしまうため、慎重に慎重を重ねていくしかない。


 全く……皇帝への謁見だけは何度やっても慣れないぜ。


「三日後にドラゴン討伐記念のパーティーを行う。我とともに勝利の美酒に酔おうぞ!」

「はい。お言葉に甘えて楽しませていただきます」


 礼をしながらも、俺はどこか釈然としない思いを抱えていた。


 ちょっと……大げさ過ぎないか?


 しかし皇帝主催のパーティーを断れるわけもない。

 俺は曖昧な笑みを浮かべつつ、早くギルドに帰って仮眠を取りたいと思っていた。

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