あなたの作品はこんなところじゃなくダークカクヨム向き
ちびまるフォイ
ダークカクヨムの使い方
ダークカクヨムをご存知だろうか。
これが掲載されているのは「表」のカクヨム。
一般の人も閲覧できる表層のカクヨム。
だが、特別なソフトウェアと会員登録を行うことで
「https://dark_kakuyomu.jp/」へのアクセスが許可される。
そして今日、俺に認証コードが届いた。
ドキドキしながらアクセスする。
今まで「サイトにアクセスできません」だったはずのページが、
ダーク調のサイトへのログインに成功する。
>『よくわかる人体解剖の旅紀行』
>『30年後vsハッカー戦争』
>『麻薬先生の成績バトルロイヤル』
>『人気作家の脳分解とシナプス再結合』
>『カニバルライセンス教習所』
「うわぁ……」
ずらりと並ぶタイトルだけ見てもインモラルなものばかり。
表カクヨムでは「暴力」「性描写」まして薬物などはタブー。
けれど、ダークカクヨムではそれらの基準をあっさりと超えてしまっている。
どれも禁書や有害図書指定されても納得してしまう。
>『表作家のゴミクズ共に捧げる鎮魂詩』
「これは大丈夫そう、かな」
エッセイジャンルにあるひとつを読んでみる。
内容は憎悪と嫉妬、怒りがオブラートなしに書き殴られていた。
表カクヨムで掲載したならあまりの攻撃性に通報される。
ダークカクヨムでは歯に衣着せぬのが前提になっている。
読んだ人を楽しませたい。
もっとたくさん評価がほしい。
それらのポジティブなものは一切ない。
自分が書きたいことを見返りゼロで書き捨てるダークカクヨムはまさにカオスの様相。
けれど、この無秩序に惹かれ始めている自分も感じていた。
人気や流行り廃りを無視したこれこそ、創造のあるべき形なんじゃないか、と。
ダークカクヨムへのアクセス頻度が増えるうちに、
俺もついにダークカクヨムに魅せられ作品を投稿した。
>『地球はすべて球体関節でひとつ』
マネキンに魅せられた主人公が生きた人間をドールにする力でもって、
能力を隠しながら少しずつ人間を球体関節ドールにしていく内容。
かねてからひた隠しにしていた人形愛好の性癖を惜しみなく注ぎ込んだ。
随所に挟まれるドール化させられた人間の解体と合体によるキメラ化の描写。
誰得と同時に苦手な人にはトラウマを植え付けかねない。
「これでいいんだ。万人受けのものなんて、ダークカクヨムにはふさわしくない!」
100人に好かれる作品よりも、1人からカルト的に好かれる作品を。
ダークカクヨムの矜持に乗っ取り書き進めること10話。
ダークカクヨムでの人気ランキングで上位を獲得していた。
「うそだろ。こんな……完全に自分だけの作品のつもりだったのに。
しかし嬉しいものだなぁ。表のカクヨムじゃこんな栄光なかったし」
遠慮なく書いたことで自分の持ち味を生かせたのか、
そもそも書き続けたことで文才が磨かれたのか。
現在の「最盛期」であれば、表のカクヨムでも人気が取れるのではと久方ぶりに表へアクセスする。
ランキングの上位にはどこかでみた作品が並んでいた。
>『麻薬先生の成績バトルロイヤル』
「えっ!? これダークカクヨムの!?」
自宅で麻薬密売と栽培をしている麻薬先生が、
そのお金で教材を買い込み生徒と一緒に成績をあげていく話。
PTAが読んだら発狂するようなダーク小説が表で連載を開始していた。
作者を見てみると、ダークカクヨムで掲載していた人とは別の名義。
別名で始めたのかと思ったが、他の投稿小説もない。
作品もダークカクヨムで掲載されていたものよりはマイルドにされ文体にも違和感を感じた。
「……まるで別の人が書いたみたいだなぁ」
読めば読むほど別人だった。
それどころか、ダークカクヨムでの連載分よりも先を書いている。
「これ、もしかしてダークカクヨムの作品を読んだ人が
勝手に表で連載しているんじゃないか!」
ダークカクヨムへアクセスする人は限られている。
この作品が別作者の掲載をマイルド化したものだと気付ける人は少ない。
作者からのコメントでも「はじめてのオリジナル作品です!」と書いてある。
ランキング上位に食い込んだことで書籍化の話もあるそうだ。
「こ、この手があったか……!」
ダークカクヨムでどれだけ人気になっても書籍化はできないだろう。
けれど人気作を俺の手でマイルド編集してオリジナルとして出せば書籍化もできる。
後でダークカクヨムがバレても、知名度は表のほうが高いわけだし
「そっちこそ俺のパクリだ」などと言えば頭数で押し切れる。
すぐにダークカクヨムに戻って人気作をチェックする。
自分でも書きやすそうな作品をピックアップしてメモ帳にコピーする。
表のカクヨムにログインすると、
コピーを見ながら時折アレンジも加えたりして書き始める。
自分であれこれ展開を考えるよりもずっと楽な作業。
これをするだけで憧れの人気作家に仲間入りできるかと思うと顔がにやける。
「よし、1章ぶんは書き終えたな。保存しておこう」
保存ボタンを押してマイページに戻る。
今しがた書き終えた作品には見に覚えのない2章が挿入されていた。
「……あれ? 章の保存間違えたかな?」
最新話を開くと短い文章が書かれていた。
『私にはあなたが見えている』
ぞくり、と背筋が冷えた。
すぐに2章を消したがどういうわけかまた追加されている。
『私にはあなたが見えている』
『消しても無駄です。こちらで操作できます』
『〇〇▲▲ 住所は××-××-××』
書かれているのは俺の本名と住所だった。
「な、なんで……」
ページを更新するとまた文章が追加されていた。
『今もあなたを見ています。声も聞こえています』
歯がガチガチと音を立て始める。
『ダークカクヨムにアクセスしたことで、
あなたを見つけることが出来ました』
ダークカクヨムにはハッキングの方法はいくらでも書かれている。
もう俺の情報はすべて筒抜けに違いない。
『別アカウントにしても無駄ですよ』
みるみる逃げ場が失われてゆく。
震える手で執筆中小説を編集した。
>勝手にダークカクヨムの作品を書いたのは悪かった!
この作品は掲載しないし、今すぐ削除するから許してくれ!
返信編集はすぐだった。
『関係ありません。そんなことに興味はありません』
もうダメだ。交渉できる相手じゃなかった。
ダークカクヨムの深層に潜んでいる奴らに情で訴えても意味はなかった。
「それじゃいったい何が目的なんだ!
俺のアカウントを自由に操作して何がしたいんだ!
お前はいったい誰なんだよ!!」
『こちらの要求はただひとつです』
その先を見るのが怖い。
F5キーに伸びる手が震え始める。
臓器か、金か、わけのわからない実験に参加させられるのか。
犯罪の片棒を担がされるのか、それよりももっと……?
カチッ。
ページを更新する。
ダークカクヨムの向こう側で文章が追加されていた。
『あんた、ずっと連絡もよこさんでなに書いてるとよ。
次のお盆には実家に顔だしなさい。お父さんも心配してるでよ』
あなたの作品はこんなところじゃなくダークカクヨム向き ちびまるフォイ @firestorage
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