第13夜 砂浜

小さい頃、家族で海水浴に行った時の話です。

母と5つ上の兄は海の中に入って遊んでいましたが、泳げなかった私は海に入るのが怖くて、パラソルの下で寝転ぶ父のそばで遊んでいました。

綺麗な貝を拾ったり、ヤドカリを捕まえたりと、海に入れないなりに1人で楽しんでいました。


砂浜をおもちゃのスコップで掘って遊んでいると、父が

「あんまり掘ってると死体が出てくるぞ〜」

とからかってきました。

父がそんな冗談を言ってくるのはいつものことだったので、私は適当に反応して砂を掘り続けました。

しばらく掘っていると、スコップの先がプニプニした何かに当たりました。

私は宝物を掘り当てたような気分になり、その周りの砂を手でよけていきました。

「ヒッ……!」

埋まっていたものが何か分かった時、私は小さく悲鳴をあげました。

埋まっていたのは、人間の腕でした。

慌てて父のいるパラソルのところまで走り、

「死体が出てきた!」

と半泣きで叫びました。

父は信じてくれなかったので、腕が出てきた場所まで引っ張っていきました。

すると、腕は消えていました。

腕があった場所は、腕の形に砂がくり抜かれたようにポッカリと空いてました。

「腕が消えた!」

と私は大騒ぎしましたが、家族の誰も信じてくれませんでした。


大人になってから知ったのですが、戦時中にその海水浴場の近くで空襲があり、砂浜にはたくさんの死体が埋められたそうです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る