第8夜 不思議なおばさん
僕が高校時代の話です。
僕の高校には、下校時に正門に現れる不思議なおばさんがいました。
50代後半くらいのそのおばさんは、毎日正門の前に立ち、下校する生徒を無表情で眺めていました。
噂では、学校で死んだ生徒の母親で、ずっと我が子を待ち続けていると言われていました。
最初は気味が悪いなーと思っていたのですが、毎日顔を見ていると慣れてくるもので、先輩の中にはふざけて「こんにちはー!」と挨拶する人もいて、入学して数ヶ月経つ頃には気にも留めなくなっていました。
高校2年の6月、土砂降りの雨の日でした。
授業が全て終わり、教室で帰り支度をしていると、大きなブレーキ音とドーンという音が外から聞こえてきました。
近くで事故でも起きたのかと窓から外を見ると、正門にワゴン車が突っ込んでいるのが見えました。
クラス中がざわざわと騒ぐ中、窓から身を乗り出して見ていた生徒が言いました。
「おい、あれ、血じゃないか?」
目を凝らして見ると、正門の白い石柱の一部が赤く染まっているのがわかりました。
おばさんは即死でした。
いつものように正門の前に立っていたおばさんは、正門の石柱とワゴン車の間で押しつぶされて亡くなっていたそうです。
正門は使用禁止になり、生徒は裏門を使うようになりました。
すると、それと同時に奇妙な事が起こるようになりました。
校内であのおばさんを見たという人が現れ始めたのです。
ある人はグラウンドの隅、ある人は体育館裏、ある人は図書館などと場所は様々で、歩いている廊下の先にいるのを見つけて逃げ出した人もいました。
それから数ヶ月後、あの事故の日と同じような雨の強い日に事件は起こりました。
1日の授業が終わるチャイムの音が鳴った後、全ての教室のスピーカーから奇妙な音が響きました。
……キキィィィ!
ドンッ!!!
……ギギ……ゴッ……ギギ……
それは金属の何かが擦れるような音でした。
放送ミスか?と思っていると
ギギ……ドコニ……イルノ……ギギ……カエシテ……アノコ……ヲ……ギギギ……カエ……セ……ギギ……
それは年配の女性の声でした。
車に潰されながら発したであろうあのおばさんの断末魔の声だとすぐにわかりました。
カバンも持たず逃げ出す生徒。
泣き叫ぶ生徒。
耳を塞いでうずくまる生徒。
みんなそれぞれにパニックに陥っていました。
僕は、ただ呆然とその場に立ち尽くしていました。
その日はどうやって帰ったのかもよく覚えていません。
翌日の朝、生徒たちは体育館に集められ、亡くなったおばさんに黙祷が捧げられました。
それから校内でおばさんを見たという生徒はいなくなりました。
おばさんの過去に何があったのか、どの先生に聞いても教えてもらえませんでした。
でも、何か悲しいことがあの学校で起きたのではないかと思っています。
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