乗り物がくれた時間

ゆきだるま

キャンディーレッドのNS-1

 僕は高校生の時に原付免許を取った。


 本当は中型の免許が欲しかった。


 それはもう、欲しくて欲しくてたまらなかった。


 小学校の頃から、高校生になったら絶対すぐ単車の免許を取って400に乗るんだ! ってワクワクと待ち望んでいた。


 その為に僕はお年玉でゲームなどを買わずに貯金していたし、中学校の時に急に流行りだす無免許運転も一切しなかった。


 けれど諸事情によりまずは原付免許を取得した。


 とはいえその時はうれしかった。それはもう舞い上がって舞い上がって、しばらく友達にバイクの話しかしなくなるくらいには嬉しかった。


 そしてそれはトラックに乗せられて僕の家にやってきた。


 ホンダNS-1。


 原付なのにスクーターではなく、大きな17インチのタイヤを履いたレーサーが乗るようなスポーツバイク。


 買うまでは「原チャかぁ……」なんて少しため息交じりだったけど、実際に自分の愛車になったそのバイクは、どんな高級車よりもかっこよく見えた。


 NS-1 に跨って駆け抜ける景色は、激しく、けれど優しく僕の心を高揚させてくれた。


 初めてのスピードに酔いしれながら、僕はそれと共にある高校生活や友達をもっともっと好きになった。


 だから僕は毎日をウキウキのノリノリで、NS-1と一緒に過ごした。


 友達と公園で下らない話をするときも、


 笑顔の素敵な優等生の女の子に一目ぼれしたときも、


 ややこしいやつに呼び出されて殴られたときも、


 いつも一緒だった。


 三人乗りでエンジンに悲鳴をあげさせながらはしゃいだり、


 山道のきついカーブを猛スピードで曲がる練習をしだり、


 住宅地で友達とレースしたりした。


 そんな危険な行為は不器用で、危険で、怠惰で意味なんてない。


 けれど熱くて、優しくて、キラキラとした宝物のような日々を僕にくれた。


 僕は今でもバイクが大好きだ。


 

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