Reversible

えも池

1 とりあえず轢かれてみた

先に言わせて欲しい。

この物語では異世界トリップしない、決して。

どこかの国のどこかの姫に慕われたり、ましてや魔王を倒すことも無い。

いや、むしろそれならいっそ良かったのかもしれない―。



私、宇治原 茉知(うじはら まち)は、事故のショックでどうやら頭がおかしくなってしまったようだ。





遡る事、数時間前。

私はバイトを終え、誰かが待っている訳でもない家に帰ろうと自転車を漕いでいた。


ほんの少し前までは凍てつく様に冷たかったけれど、今はもう湿り気を帯び温い。そんな風がゆるりと頬を掠めていく。

葉桜の枝をぼんやりと視界の端に捉えながら、私は夕飯何にしようかな、なんて事を考えていた。



―その時だった。突如、体に衝撃が走る。

耳が劈く様なブレーキ音。そしてクラクション。


例えるなら、そう。

小さい頃に駄菓子屋で食べた棒状のゼリー。私の胴体が、四肢がそれに化したような。


それでいて、体はミシミシと。

ウエハースの様に伸縮性の限界を訴える。


私はまるで羽だったのではないか、と錯覚する程に。

軽く、軽く。私は飛んだのだ。


そんなくだらない事を思った気がする。

支離滅裂な思考が一度に私の中を駆け巡る。



そして、もう一度私の体にもう一度衝撃が走った。

ここで私の記憶は途絶えている。

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