白虎竜①
コージョーが秘蔵の手鏡で薄くなってきた頭頂部をじいっと眺めているとゾグルが声をかけてきた。
「偵察が戻ってきた。会議を始めるぞ」
コージョーは鏡を隠すように素早くしまうと天幕へ向かうゾグルを追いかけた。
「コージョー、また禿げたのか?」
「いや、禿げたというか髪が細くなってきてなぁ」
「それを禿げたというんだ」
コージョーはこの失礼な男を歳の離れた弟のように思っていた。
長らく頭を務めていたハンザが少女と共に去って10年。若くして狩猟団〈水車〉の団長となったゾグルの苦労は言うまでも無い。数年前まではハンザと共に〈水車〉を創設した面々がまだ現役であったが寄る年波には勝てず皆、狩り人を引退してしまった。そうして、コージョーは〈水車〉の最年長となった。
コージョーはハンザほど大きな背中を見たことはなかった。ゾグルの体躯はハンザよりも一回り大きい。また、熟練の狩り人から見てもゾグルの腕は超がつくほどの一流であった。それで
もゾグルが父を超えることはできない。
コージョーだけはその
それ故、今でも〈水車〉にハンザ宛の依頼書が届いてしまうことがあるのだ。
ゾグルの優しさは彼の長所であり、弱さであった。
◯
天幕に近づくにつれて中から漏れる声が聞こえるようになる。既に喧々轟々の様であることは外からでもよくわかった。
「厄介なところにいますね」
「火薬は油紙で包んでいかねぇと湿気っちまうな」
「聞いていた話より少し小さくないか?」
「
「槍は何本下すかなぁ」
ゾグルとコージョーは天幕の戸布を持ち上げ中に入る。二人が奥の席にどさっと座ると一転して静寂が訪れた。
ゾグルが手を打つと作戦会議が始まった。
「トンイ改めて報告を頼む」
トンイと呼ばれた青年は狩猟団の中でも若く小柄で身のこなしも軽い為、もっぱら偵察を担当している。
「
続いて、
トンイが席に着くと皆、ゾグルを見つめるだけであった。これだけ十分な情報が有れば、団長が判断を誤ることは無いこと信じているからであった。
「では、俺の意見から言わせてもらおう」
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