説得
「死ぬというのは、目が見え無いからということですよね」
タリサは自分の肩を掴んだでがあまりに温かいものだから、内心少し驚いた。
「そうだ。片目が見えないことがどれだけ危険かお前はわかって無い!」
「不利な体ということは理解しています」
「不利じゃない。無理なんだ」
「おい、ゾグルそこまでにしておけ」
ハンザが力ない声で制す。
「親父もわかっているだろう。竜は俺たちが思うよりもずっと賢い。侮っていい相手じゃないんだよ。歴戦の猛者が最善の注意を払っても命を落とす。俺たちがいるのはそういう世界だ」
タリサを見つめるゾグルの瞳に鋭さはない。
「すでに一流の実力を持ったやつでも、片目を失えば竜は狩らない。お前みたいな、半人前は力をつける前に死ぬ。
お前は何のために竜を狩るんだ。恩か? 憧れか? 名誉か?」
「……」
「俺の従兄弟が都で竜素材を扱う店をやっている。それなりの規模と歴史があるから、子ども1人雇うくらいは出来るはずだ」
タリサは何も言えなくなってしまった。
「まぁ、考えておいてくれ。俺たちは明日から
◯
自宅に帰ってもハンザは無口なままだった。タリサはハンザに引き取られた2年前から、彼の家で暮している。町外れの小さな煙突がたった煉瓦造りの小屋が2人の住処である。タリサもハンザも元来無口なほうではあるが、これほど家が静まっているのは初めてだ。タリサには裏山の木々が風で揺れる音がいつもより大きく聞こえた。
その日の夕食は湿ったファコ(大麦のような穀物で作った硬いパン)を軽く炙ったものと、少しの干し肉、野菜を塩汁にした。
食前の祈りをすまし、暖かい汁物に口をつけるとようやくハンザは口を開いた。
「……昼間はすまなかったな」
「いえ、大丈夫です」
木製の小さな食卓で面と向かっているにも関わらず2人は目も合わさず話す。
「ゾグルには息子がいてな、それがお前と同じ年頃だから、重なっちまったんだろうな」
「そうだったんですね」
ハンザが次にしようとしている問いかけにタリサはまだ答えを持ち合わせていない。
タリサは顔を持ち上げ、わざとらしいほど明るい声で聞く。
「
「
ハンザは葡萄酒をあおるといつになく饒舌に続ける。
「あいつは冬越しをしないんだよ。冬越しは知ってるよな?」
「竜は冬の間、巣穴でじっとしているんですよね。熊とかの冬眠と違って、餌を食べなくなるとかでしたっけ」
タリサは安堵の表情を見せる。
「当たりだ。
◯
この夜、遂にハンザがタリサに答えを求めることは無かった。
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