第19話 ショッピングモール ②


「はい?」


 颯太は顔をしかめて聞き返す。


「だから、映画見よ」


 七海は再度繰り返す。


「なんでですか?」


 颯太は率直に感じた理由を聞く。


「颯君と映画が見たいから」


 理由をストレートに伝えてくる七海。


「お断りします」


 颯太は丁重に誘いを断る。


「なんでー」


 七海は小さい子供が大人に聞くように理由を聞く。


「この荷物どうするんですか?」


 颯太は両手に持っている買い物袋に視線を向け七海に質問を投げかける。


「さすがに持って入らないでしょ」


「それは大丈夫。あそこ」


 七海は映画館のカウンターを指さす。


 カウンターの近くには"荷物お預かり可"と書かれた立て看板が置い

てあった。


「ねっ。大丈夫でしょ」


 七海は颯太が看板を視認したのを確信して得意気に胸を張る。そのとき、七海の破壊力のある胸が制服でも抑えられないくらいに強調される。


「・・そうですね・・」


 颯太は七海の態度に少しイラッとしたが表には出さない。いつも通り無表情のままで言葉を返した。


 結局、颯太は七海と映画を見ることにした。チケットを買い七海がポップコーンが

欲しいというので映画館のロビーにあるイスに座って待つ。


「お待たせー」


 七海がポップコーンの入った容器を両手に持って颯太の座っているイスの近くまで歩み寄ってくる。


「そのポップコーン1人で食べるんですか?」


 颯太は七海が持っているポップコーンを見てそう問いかける。


 なぜ颯太がそんなことをしたか?


 それは七海の持っているポップコーンの容器のサイズがMサイズだったからだ。


 Mサイズは男性ならば1人で完食するのは簡単かもしれないが女性でMサイズを1人で完食するのなら中々厳しいところがあるだろう。


 実際に、Mサイズの容器には溢れそうなくらいギッシリポップコーンが入っている。


「これ、私と颯君の分。2人で分けて食べよ!」


 七海はまた想定外の言葉を放ってくる。


 颯太は言葉を返さずに黙ってしまう。


「今、嫌だと思ってるでしょ」 


 七海は心の内を当てるように言う。


「・・そんなこと思ってませんよ」


 颯太が言葉を発する前に少しの間が生まれる。図星だったのだ。


「さっきの間が怪しいーなー。颯君案外こういうとき態度に出るのよね」


 七海は意地悪な笑みで颯太の態度を指摘

する。


「確かにそのようなことを思いましたよ」


 颯太は七海の言い分を認める。


「まあ、いいじゃん颯君。昔みたいに一緒にシェアしよ」


 七海は容器に入っているポップコーンを1

かけら食べて颯太を説得しようとする。


「昔って幼稚園の時でしょ。もう俺達、ガキ

じゃないんですから」


 颯太は不満顔で不満を口にする。


「あっ、颯君。小学生の時もしてたから」


 そこは"間違えないでね"という圧が颯太に

伝わる。


「は、はい。すいません」


 颯太はその圧を受けて咄嗟に七海に謝ってしまった。


 映画館のシアターに入ると、チケットに記されている座席番号がある席に座る。颯太と七海は隣同士だ。


「本当に久しぶりだね」


 七海は笑顔を向けて颯太に微笑む。その表情をしている七海からは嬉しいという感情が醸し出されている。


「そうですね」


 颯太はシアターにあるスクリーンに視線を向けている。だが、その表情は昔を懐かしむようなものであるように見え、それが少し 出ている。颯太のことを知らない人が見ればわからないだろう。


 しかし、七海は颯太のその表情を見るや笑顔のまま颯太から視線を外す。


 そして、スクリーンに視線を向ける。


 映画の注意事項の説明が終わり映画が始まる。


「はい、颯君」


 ポップコーンの入った容器を颯太に差し出してくる七海。


「・・ありがとうございます」


 颯太はスクリーンに視線を向けたまま七海にお礼を言うとポップコーンを何個か手に取って口に運ぶ。


 それを視認した七海はふふっと微笑むと自分の手にポップコーンを何個か取って口に運ぶのだった。


「おもしろかったねー」


 七海は「んんっ」と言いながら両手を掲げて伸びをする。


 颯太と七海は映画を見終わった後にすぐにショッピングモールを出て今現在、住宅地を並んで歩いている。


 ちなみに映画の内容は陰キャの主人公が勇気を出してヒロインになる女の子を助けて最終的にその女の子と結ばれるというありきたりな内容だった。


「勇気ってやっぱり大事なんだね」


 七海の映画を見た後の感想である。


「そうですね」


 颯太は言葉を返す。


「颯君は勇気あるもんね」


「俺にですか?俺にはないですよ。昔からね」


 颯太は七海の言い分を否定する。


「それに当てはまるのは朝比奈先輩の方で

しょ。中学校のときは生徒会に入ってなかったのに、今では生徒会に入っていてしかも副会長になっているんですからね」


 颯太は「中々できないでしょ」と付けくわえながら言う。


「私は!」


 七海は突如足を止めると普段絶対に出さない声のボリュームで大きな声を出す。


 その声はなにかを訴えているように見える。


 颯太はその声に反応して足を止めて立ち止まっている七海に振り返って視線を向ける。


「私は颯君・・」


 七海はそこで言葉を止めた。そして、ちょっとの時間を沈黙が支配する。


「やっぱりなんでもない。ごめんね。立ち止まっちゃって」


 七海は申し訳ないように笑顔を作ると颯太のもとまで歩いてくる。


「いえ」 


 颯太は「大丈夫です」と意思表示するようにそう言葉を返す。


 その後、2人は何気ない会話を交わし、帰路が違う場所にたどり着くと別れの挨拶をしてそれぞれ帰路についた。


   ・・・


 颯太は七海と別れて自宅に帰ると、いつも通り心寧と夕食をとった。


 その後、学校で出された課題に取り組んでいたのだが、途中でシャーペンの芯がなくなってしまったのだ。


 そのため、近くのコンビニに足を運ぶことになる。


「まさかの今日きれるとは」


 颯太は夜の住宅地を歩きながら独り言をつぶやく。


 しばらく歩いていると、コンビニが見えてくる。


 颯太は開いた自動ドアを通ってコンビニの中に入店する。


 入店するとシャーペンの芯を買うために

レジの前を横切る。


「横川君」


 レジの方から颯太の名前をよぶ声がする。


 颯太は疑問に思い振り返ってレジの方に視線を向ける。


 そこにあったのはコンビニの制服を身に纏った沙奈の姿であった。







 









 


 





 


 




 



 




 


 


 





 










 













 










 

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学校が嫌いな俺の学園生活 白金豪 @shirogane4869

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