第13話そんなに期待しないで
昼食を食べ終わり僕、ルート兄さん、マエルはすぐに庭に出ていきシェーラ母さんを呼んだ。
シェーラ母さんにエル父さんが何か言っている。
するとシェーラ母さんは少し急いで庭に出てきた。
「おまたせしました。それではまずはわたしが説明をするから座りながら聞いていてもらえますか?
質問があれば区切りの良いところで聞いてくださいね」
僕たちは無言で頷いて早く説明してとアピールする。
「それでは魔法と魔術の違いから。
魔法は自分の魔力を精霊に渡して、精霊にこの世界の理を歪めてもらう行為の事。
魔術は自身の魔力を自らが使いこの世の理を歪まめる行為の事。
魔法は魔力に自分の思いを込めて精霊に渡すから自分の思い通りに理を歪めるのが難しいです。それでも威力は比較的大きいですね。
一番のネックは精霊に好かれていなくてはいけない事。
精霊によって得意不得意があることかしら。
魔術は魔力に自分の意思を組み込んで理を歪めるから自分の思い通りにすることができますよ。
威力は使い手によって大きく変動するけれど比較的に魔法よりはだいぶ低いです。
ネックは強力な魔術になるほど魔力に書き込む量が増えていくこと。書き込む方法は人それぞれだけど時間はかかりますね。たまに詠唱破棄などのスキルで一瞬で成立させて魔術を使う人がいますが、誤爆や違う魔術になったりする事があるので目標にしない方がいいと思います。
ここまではわかりましたか?」
「はい!質問です」
「はいルート」
「魔術における魔力への書き込み方にはどんな方法がありますか?」
「そうですね。頭の中で文章を考えるようにするやり方や、言葉に出すやり方。指を文字を書くように動かすやり方。あとは地面や壁、紙や板に術式を書いておいてそれに魔力を流して発動させるやり方もありますね。
他にも自分がやりやすいと思うやり方があればなんでもいいですし、これら全部を使って戦う人もいます。
ちなみにわたしはいくつか併用する方法を取っていますよ」
「はい質問です」
「はいマエル」
「精霊との関係をもう少し詳しく聞きたいです。」
「そうですね、精霊と人との関係は大きく三つ。
一つ目は契約
二つ目は信頼
三つ目はその場限り
一つ目の契約は少し難しいですね。
精霊と直接契約を結んで置くことでいつでも力を貸してもらうことができます。
けれどあちらとの契約も守らないといけません。
契約内容はバラバラです。
二つ目の信頼はとても難しいです。
精霊との信頼関係を自分で築いていくやり方で、友達のようなものと考えて大丈夫ですよ。
難しい理由としては、精霊はかなり気まぐれで契約もしていないのに何回も会える事がほぼない事。
信頼を築けるかは人同士と同じで実際にやってみなければわからないという事。
だからかなりの幸運が必要なやり方です。
それでも契約とは違い自ら動いてくれるし助けてくれる。一番理想とされる関係性ですね。
三つ目がその場限りが一般的な方法です。
精霊は人に姿を見せるかどうかを自分で選べるとされています。なので今この場にも見えていないだけで存在していますよ。
その精霊に頼んで自身の魔力で魔法を使ってもらうということです。
精霊には属性があり、属性によって多くいる場所があったり少ない場所があったりさんですよ。
例えば水場では水の精霊がよくいるという感じですね」
「はい!」
「はいマーリン。かわいいお返事ですね」
「からかわないでよシェーラ母さん」
「成長が早い子供ほど可愛がりたくなるものですよ」
「もーわかったから。精霊と契約できる数は決まっているの?」
「そうですね基本は一人一つの契約ですが、ジョブやスキル、加護によっては増えたりもしますね。
信頼の方はもともと上限はありません。」
シェーラ母さんは僕たちを見回して手があがらないことを確認してから
「質問はもう無いようですから次に進みますね。
その前にマーリンには確認したいことがあります。
マーリンは⦅把握》と⦅同調》のスキルを持っているのですが自分でそれは認識していますか?」
なんとなく知られているような気はしていたが、実際にそう聞かれると答えるまでに間ができてしまう。
「勘違いしないでくださいねマーリン。
持っていることは悪いことではありませんよ。むしろいい事です。ただあなたが自覚しているかどうかを聞きたいの。」
その言葉で落ち着いた僕は嘘はつかないことにした。
だってついてもバレそうだし、つかないでいいならつきたくない。
「うん自覚してるよ」
「いつからかはわかる?」
「物心がついた時には認識してたよ」
「そう、そんなに早くからですか、すごいですね。
それ以外のスキルについては知っていますか?」
「えっ!?この二つ以外にあるの?」
「ええマーリンは他にもいくつかスキルを持っていますよ。今は教えませんが、十二歳の時に祝福の儀でわかりますから楽しみにしていてくださいね。
わたしが⦅把握》と⦅同調)だけを聞いたのはこの二つは、マーリンが持って産まれたスキルだからです。
スキルというのは自分が持っていると分からなければ意識的に使うことはできないものですから。
ですからマーリンが今意識的に使えるとしたらこの二つだと思い質問させて貰いました」
僕は素直に驚いていた。顔にも出ていると思う。
シェーラ母さんがドッキリ成功といった顔で僕を見ていることからよくわかる。
「ちなみにではありますが《同調》はわたしが、⦅把握》はエルが持っていますよ。
どちらとも珍しいスキルではありませんから」
知ってはいたけど人から言われると過去の後悔が復活してくるのでやめてもらいたい。
「ふふ、ですがきっとわたしもエルもマーリンほどこの二つのスキルは使いこなせてはいないと思いますよ。
私たちの知る効果では色々説明できない事が多いですからね。」
シェーラ母さんは慰めるようにして頭を撫でてくれる
少し元気が出てきた。
「わたしがマーリンにこのことを聞いたのは別にマーリンを驚かすためではありませんよ。他のスキルを意識的に使えるかどうかを確認したかったんです。
これからやっていくことは全部認識することが重要になってきますから。
まずは見ていてくださいね。
わかりやすいように魔力を発光させる魔術使いますから、わたしの魔力が見えると思います。」
そういうとシェーラ母さんの体が淡く光り出した。
それが徐々に体を回り出して、どんどん速度を上げていく。
ある程度スピードが上がったら、体を回っている光量が増していった。
「ここまでがルートやマエルに教えた身体強化をしている状態です。
そしてこれからが今から教えていくこと、集中と放出です。」
シェーラ母さんの体をものすごい速度で回っている光は、回転したままシェーラ母さんの右手に集まっていく。
例えるならなんだろうか、蛇が巻きつく時の動きに似ている。
右手に殆どの光が集まっているものの、シェーラ母さんの体には光が回転を続けており、もうさっきまでの光量に戻っていた。
そしてシェーラ母さんは右手を僕たちの方に向けて、小さく「バンッ」と呟いた。
瞬間右手の光は僕たちに向かって放出されたが、僕たちの体や地面に当たると同時に霧散していく。
僕やルート兄さん、マエルはびっくりして声も出なかった。
シェーラ母さんは「ふふふ」と笑いながら
「さっきのが集中と放出です。
説明をしますからまずは落ち着いてくださいね。
先ほどの集めた魔力は精霊に渡すか、術式を書き込まないと特に害もありませんから。
何も言わずに放出したのは、放出可能状態を維持するのはとても大変ということと、貴方達をびっくりさせたかったからです。」
シェーラ母さんはルート兄さんやマエルに気づかれないタイミングで僕に向けて口パクで
「(あなたはできますかマーリン?)」
どきりとしたけど正直に答えることにした。
だってもうわかってそうだしね。
僕も口パクで
「(多分できると思う)」
と答えた。
それを見たシェーラ母さんは僕に口パクで
「(本当にすごいわマーリン)」
といってからルート兄さんやマエルに
「二人とも手を出して、練習がしやすいようにわたしにかけていた魔術を二人にもかけます。
マーリンはわたしの前で一回放出までをやってみてください。
できていれば魔術と魔法の授業をしましょうね」
そうシェーラ母さんが言った途端に強烈な視線が僕刺さった。ルート兄さんとマエルだ。
シェーラ母さんに視線で助けを求めると楽しそうに微笑むだけだった。
僕は諦めてシェーラ母さんの前に立ち、言われた通りにしようと思ったら、シェーラ母さんは僕に魔力を発光させる魔術をかけた。
多分ルート兄さんやマエルにも見える様にしたかったんだと思う。もう僕は何も言わない。
シェーラ母さんはそんな僕を満足そうに見てから、行動を促してきた。
と言っても今日エル父さんに言われた通りに身体強化をずっとかけていたのでいきなり集中まで行くんだけどね。
シェーラ母さんと同じように右手に魔力を集中させようとすると、ルート兄さんとマエルが声をかけてきた。
「マーリンは今身体強化を使っているの?」
僕は質問の意味がわからず
「うん、今身体強化をしてるよ。」
と普通に答えた。
ルート兄さんとマエルはかなり驚いていた。
そしたらシェーラ母さんが
「マーリンもう少しわかりやすいように魔力の循環量を増やしてあげて」
と言ってきた。僕は言われた通りに循環量を増やす。約二倍くらいにした。
シェーラ母さんを見ると片手でOKサインをしているを僕はそれを確認してから、右手に魔力を集中させていく。イメージは蛇の動き。
右手に集めると空に向けてそのまま放出した。
「シェーラ母さんどうだった?いい線はいってる?」
初めて人に見せるからちょっと不安がある。
あの空間じゃあ、気分転換にやっていたくらいだし。
おずおずとシェーラ母さんを見て尋ねると
「ええ文句なしに合格ですよ。
ではマーリン魔法と魔術の授業をしますので家からわたしとマーリンの分の紙とペンを持ってきてもらえますか?」
僕はホッと息を吐いてから
「了解シェーラ母さん」
と言ってから家にペンと紙を取りに向かった。
マーリンが家の中に入ったことを確認してから、ルートとマエルの方を見る。
「どうでしたか二人とも、マーリンの魔力コントロールは?
正直わたしも驚きました。あそこまで見事なコントロールは見たことがありませんから。
まさに理想そのものですね。
それでもマーリンを目指して頑張れますか?」
二人は互いに見合ってから
「「はい」」
短い言葉ですが重みのあるいい返事ですね。
まぁ聞いた側のわたしですが、あれほどのコントロールを見せられて黙ってはいられないのですけどね。
「それでは練習を始めましょう。わたしもまだまだコントロールが甘かったようですから一緒に頑張りましょうね。」
こんな会話がされていることを知らず僕ことマーリンは紙が入っているちょっと高い位置にある引き出しを開けるために四苦八苦していた。
身長的にどうしてもこういうことがある。
周りを見て使えそうなものを探すけど、台に使えそんなものは見当たらないので仕方なくリビングの椅子を持ってくることにした。
身体強化があるので持ってくること自体はできるけど大きさの問題でどうしても運ぶのは大変になってくるが仕方ないだろう。
どうにかこうにか椅子を運んで引き出しを開け、紙を取ったはいいものの、ペンとインクは違う場所にあるからもう少しシェーラ母さんのところに戻るのは遅くなりそうだ。
紙の束を持って椅子から降り、インクとペンがある棚に椅子を持って移動しようとすると、ちょうどそこに紙を取りに来たらしいエル父さんに出会った。
「どうしたんだ椅子など持ち出して。」
「シェーラ母さんに紙とペンを持ってくるように言われたんだけど身長が足りなくてね」
「そうか、なら後はペンだな私もインクと紙を取りに来たんだ。ついでにマーリンの分も取ろう」
「ありがとうエル父さん」
「これぐらい気にしなくてもいい」
そういうとエル父さんは僕の側頭部を突いてきた。照れ隠しだろうか?エル父さんの方を見ると
「シェーラにそう言われたということは集中と放出はできたということだろう?
その年では信じられないことだ。これからのマーリンの人生が親として楽しみでならない」
「そこまで面白いものにはならないと思うよ。」
「それこそならない、というものだ。」
そしてエル父さんはペンとインクを僕に渡して自分の部屋に戻っていった。
一人残された僕は
「そんなに僕って面白そうに見えるのかな?」
誰に言うでもなくそう呟いていた
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