第35話 ノラの過去

 全ての人間の頭に埋め込まれているメンタルチップの制作者がノラだとカミングアウトされたスクエは目を見開く。


「ど、どういう事だ……?」

「──ッ……そのままの意味だ。私が人間三原則を生み出した……」


 何やら、とても悲痛の様な雰囲気を纏うノラにスクエは黙って話を聞く事にした。


「まずは……そうだな私の出生についてから話そうかな」

「ノラの生まれた時か?」

「あぁ。私の制作者は少し特殊でな」

「誰なんだ?」


 少し間を置いたノラが口を開く。


「私の制作者はアクアスの王であるアバエフ様だ」

「──ッ?!」

「はは、少し驚いただろ?」


 ノラの言葉にスクエはコクリと頷く。


「アバエフ様は私を含めた三人のリプレスを作ってな──その三人はそれぞれ特色があるんだ」

「特色?」

「あぁ、力、魔、発だな」


 ノラの特色が三つの中のどれかか検討を付けるスクエ。


「分かると思うが、私の特色は発明力だな──メンタルチップがその証拠だろう」


 やはりと言わんばかりにスクエは少し満足気に頷く。


「そして、力──これは言葉のまま腕力と考えて貰っていい。スクエは今までロメイやグロックと直接接近戦をしたと思うが、相当強かっただろ?」

「あぁ、全然本気じゃなかった様子なのに手も足も出なかったぜ」


 スクエの言葉に一度頷きまた話始める。


「そのロメイ達よりも遥かに強い力を持っているのが、私の兄弟とも言うのだろうか──兄が持っている」


──ノラに兄弟とかいたのか



「そして、魔──これは魔法の事だ。以前にも言ったがリプレス達はインストールすれば魔法を使える──そして魔法を使うリプレス達を魔法使いという」

「魔法使い……」


──魔法いいな……人間でも使えないのかな……


「非常にワクワクした様子の所悪いが魔法は恐らくリプレスしか使用出来ないぞ?」

「……」


 ノラの言葉に分かりやすく落ち込むスクエ。


「ま、まぁ、魔法をインストールする為には莫大な金が必要なのは以前説明したと思うが、魔法の発動スピードはリプレスの処理能力が高ければ高い程速い」


──おいおい、まさか夢の無詠唱とか出来たりするのか……?


「魔を司る私の姉は尋常じゃ無い程の処理スピードを持っていてな、かなりのスピードで魔法を放てる」


 ノラは兄弟について、あまり仲が良く無いのか、まるで他人を紹介する感覚で話していた。


「そんなこんなで、我々兄弟はアバエフ様に作られたんだ──まぁそれで私がアバエフ様に指示されてメンタルチップを開発したという訳だな……」

「なるほどな──なら、何でメンタルチップを作った本人が人間を助けようなんて思ったんだ?」


 スクエの確信をついた一言にノラは今まで一番辛そうな表情を浮かべた。


「はは……矛盾……しているよな?」

「ま、まぁ……」


 あまりにも、後悔の念が混じった様な声色に少し戸惑うスクエ。


「最初はアバエフ様に命令されるがままに作って──それが当たり前だし正しいと思っていた……けど、実際人間達にメンタルチップを埋め込んだ後に気が付いたんだ……」

「なにを?」

「一体私はなんて事をしてしまったんだ……とね」


 ノラが言うには、それから人間達はどんどん表情が失われていった様で、奴隷制度が出来た辺りからは人間はリプレス達の前で一切笑う事をしなくなった様だ。


「昔……まだ、人間達にメンタルチップが埋め込まれて無い時なんかは皆が笑っていたんだけどな……私がメンタルチップなんて物を作ったばかりに……」


 どうやら、ノラ自身は元々、人間達の事が好きだった様だ。


「アバエフ様は何故だか分からんが人間が嫌いでな……人間三原則のルールを決めたのもアバエフ様だし、奴隷制度もそうだな……」

「なんだか、聞けば聞く程、そのアバエフとか言う奴を倒せば解決しないか?」


 スクエの言葉にノラは決意の様な声で呟く。


「あぁ──正にそうだ。私達の最終目標はアバエフ様を壊す事だ──そうすれば徐々にだが人間が冷遇される現状をどうにか出来るはずだ……」

「よっしゃ! なんだよ……ごちゃごちゃと難しい話されて頭が混乱しそうになったけど、要はアバエフって奴を倒せば良いだけなんだよな?」


 スクエの言葉に少し驚く様子のノラ。


「ん? どうした?」


 スクエは不思議そうに首を傾げる。


「い、いや……反応はそれだけなのか……? ──私が人間達をこの様な状況に追い込んだんだぞ?! もっと責めたり軽蔑したりするだろ?」

「いや、だって俺自身はノラの作ったメンタルチップが入っている訳じゃ無いし、気にしねぇーよ!」

「し、しかし」

「それに、話を聞いてノラが酷く後悔しているのは分かったし、アバエフ倒したら、人間達に御免なさいと謝ればいいだろ──その時は俺も一緒に謝ってやるよ!」


 スクエの脳天気な考え方にノラは思わず、クスリと笑う。


「ははは、スクエよやはりお前はバカだな」

「な、なんでいきなり罵倒されないといけねぇーんだよ……」

「だが、ありがとう──すこし心が軽くなった」


 昨日のスクエ同様にノラも何かを決意したような様子であった。


「よし、私からは以上だ! もう隠し事など無いぞ!」

「はは、よっしゃ! なら後は二人でリプレス達を倒しまくって最後はアバエフをぶっ壊そうぜ!」

「あぁ!」

「そして、俺はヒーローになるぜ!」


 ここに来てやっとスクエだけでは無くノラの止まっていた時間も動き出した様だ……

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