第27話 罠作動

「おっと!」


 グロックはスクエが振り下ろした得物を片腕で防ぐ。


──か、硬てぇ!


 まるで、鉄の塊に向かって振り下ろした様な感触がスクエの腕に伝わり、グロックに対してダメージを与える所か逆に自分が受けた様である。


「はは、面白れぇ! 人間に攻撃された事なんて初めてだぜ」


 そう言って、グロックはスクエを蹴り飛ばす。


「ウッ……」


 これがリプレスと人間の差なのかと言わんばかりに、スクエは蹴り一発で2、3メートル程後ろに飛ばされる。


「やべぇ……なるべく傷付けない様にしねぇーとな──価値が下がっちまう」


 グロックなりに手加減して蹴ったつもりらしいが、人間であるスクエには大ダメージの様で、先程から息が出来ないくらい苦しそうである。


──か、勝てねぇ……


 ロメイの時もそうだったが、やはり素手でリプレスを倒すのは無理そうだ。


 だが、スクエは立ち上がる──そしてグロックにはバレない様にチラリと上を向く。


 そこには今にも倒れそうな山がある。


──俺がコイツに直接勝つ必要はねぇーんだ!


 すると、スクエは再び得物を持ってグロックに向かって攻撃をする──まるで、グロックをその場に釘付けにする様に──


「はは、お前人間の癖にガッツがあるな──ロメイよりよっぽど見所があるぜ」


 スクエは息を吸う暇も無く得物を振り回すがグロックは余裕を持って全て交わす。


「当たりやがれ!」

「あはは、オラオラもっと攻撃しねぇーと俺は倒せないぜ?」


 どうやら、グロックはこの状況を楽しんでいる様子だ──しかし、それはスクエに取っては好都合の為、ひたすら振り回す。


──どうにかして、もう少し強い衝撃をあの山に与えないと……


 考えながら攻撃をしているスクエだったが、そんな余裕が許される相手では無い──少しでも気を抜くとすかさずグロックの攻撃が身体にヒットする。


「クッ……いてぇ……」

「たりめぇーだよ。わざと痛くしてんだからよ!」


 ニヤリと笑うグロック。


「さてと、そろそら終わらすか」


 グロックは気絶させてスクエを運ぶつもりなのか少しだけ腰を落とした。


──来る?!


 スクエは何かが来ると思いガードを固めるが、その間を通すかの様にグロックの拳が突き刺さり吹き飛ばされる……


「ん? ──少し浅かったか?」


 スクエはなんとか自ら後ろに飛び威力を逃したが、それでも今まで食らったどの攻撃より苦しく重い一撃を貰った。


 しかし、意識はまだある様でグロックに五メートル程吹き飛ばされながらも視線はグロックでは無く山を向いており、地面に着地した瞬間──自身の持っていた得物を思いっきり投げる。


「当たれ!」


 スクエの投げた得物はグロックには当たらずあらぬ方向に向かっていく。


「あはは、お前どこ投げてんだよ──ノーコン過ぎんだろ」


 ゲラゲラと笑うグロックを見てスクエも笑う。


「あん? ──お前がなんで笑う?」


 スクエの表情が気に喰わないのか、グロックは直ぐに表情を鋭くしてスクエに問い掛ける。


 そして、睨まれたスクエだが一向にビビる様子も無く笑いながら──人差し指を上に向けるのであった。


「あん?」


 スクエの指の先を追う様にグロックは上を向く──


「──なっ!?」


 そして、グロックが逃げる暇も無く上から大きなローラが落ちて来てグロックに直撃した。


「──よっしゃ!」


 どうやら、先程投げた獲物が山に当たり、その衝撃でローラが落ちてきた様だ。

 当初と違った形であったが、なんとかグロックにローラを当てる事に成功したスクエは先程から動かないグロックに近づく。


「さ、流石にぶっ壊れたよな……?」


 恐る恐るグロックに近づくと右半身がローラにて潰れていた。


「て、てめぇ……」

「──?!」


 壊れていたと思ったグロックだが顔だけ動きスクエを睨む。


「良くも……やりや……がったな……」


 しかし、やはり右半身が潰されていたからだろう、直ぐに目の光が消えて電池の切れたロボットの様に動かなくなる。


「さ、流石に壊れたか?」


 スクエは確認する意味も込めて少し離れた位置から足だけを伸ばしてグロックの頭を突く。


「……よし……動かないな」


 グロックが完全に停止したのを確認していると、後ろから声が聞こえた。


「う、嘘だろ……グロックさんを壊しちまったのか……?」


 ロメイは一部始終見ていたのか驚いた様子でスクエとローラの下敷きになっているグロックを見る。


「に、人間如きがリプレスを……?」


 ロメイはスクエを見るが、ロメイの視線が以前までと違う事にスクエは気がつく──しかしどう変わったかまでは分からずスクエはどうするか考える。


──グロックを倒す為の罠は使っちまったからな……どうする……


 スクエは取り敢えず、先程投げた得物が近くに落ちていたので防衛の為慌てて拾い上げる。


「──ヒィ!?」


 すると、何故かロメイが小さい悲鳴を上げながら後退りする様子が見える。


──な、なんだ?


 スクエはロメイがいつ来ても良い様に得物を構える。


「お、俺が悪かった──壊さないでくれ!」


 どうやら、ロメイはグロックがスクエに壊された事を見て、自分も壊されるとビビった様だ。


「グ、グロックさんを倒す相手なんて、じょ冗談じゃねぇ!」


 そう言い残しロメイはスクエに背を向けて一目さんに逃げていく。


 その後ろ姿を見ながらスクエも困惑する。


「な、なんだアイツ?」


 ロメイの心情を知る由も無いスクエはラッキーと思い地面に座り込む。


「あー、死ぬかと思ったー」


 グロックとの戦いで相当体力と神経を使った様だ。


「アイツに向かって来られたら逃げきれなかったな──危ねぇ……」


 珍しく、今回はスクエに取って良い方に進んだ様だ…… 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る