第16話 奴隷を痛ぶるリプレスその2
「ふぁ……」
スクエはまだ日が昇りきったばかりの時間に目が覚める。
「はぁ──俺、これから奴隷として生きていくのかね……」
元に世界に戻る方法など分かる筈も無く、ノラに聞くがやはり分からないと言われてしまったスクエはこれからどうするか考える。
「ノラに誘われた人間を救うのは──俺には無理だな……」
スクエは自嘲気味に笑いノラの提案を受け入れる事は出来ないと改めて考える。
「さてと、飯でも買い行くかな!」
勢いを付けてベットから起き上がり真っ白な服に身を包む。
「おはよう──これから朝ご飯を買いに行くのかね?」
居間に向かうとノラがノーブルメタルを片手に新聞を読んでいた。
「気をつけて行ってくるんだよ」
「俺は、子供か!」
「ふふ、私から見れば君なんて子供だよ」
「ノラは何歳なんだよ?」
新聞を下に動かして目線だけ覗かせてスクエを見ていたノラだが、沈黙のまま新聞を上に戻して自身の顔を隠す。
「なぁ──」
「──早く行ってきたらどうだ?」
質問する暇すら与えずスクエを追い出そうとするノラにスクエは何かを察してスコスコと家を出る。
「い、行ってきまーす」
外に出ると今日も快晴であり、スクエは自然と笑みを溢す。
「昨日は結局あの店員のご飯買えなかったから、今日は買うかな」
とてもたかい建物を見ながらスクエ暫く歩き、いつもの露店が建ち並ぶ道に向かう。
そして、いつもの出店に近付くと何やら声が聞こえる。
「──お前、もっと稼げって昨日も言っただろ?!」
「すみません──すみません!」
何やら昨日も聴いたような声が耳に入りスクエの身体が一瞬で強張る。
──まさか……
スクエは昨日同様に顔だけ覗かせると、これまた昨日と同じ二人が同じ構図で同じ事をしていた。
「オラ! まだ蹴り足りねーらしいな!」
ドスドスと執拗に倒れている店員の腹部目掛けて蹴りを繰り出す男の顔は口角が上がっており笑っていた。
「ロメイ様……お辞め下さい」
「うるせぇ──この俺に指図するつもりか?! ──どいつもコイツも馬鹿にしやがって!」
ロメイと言う男は何かを思い出した様に表情が険しくなり、店員に対しての暴行も過激になっていく。
──た、助けねぇと……でも……
スクエはいつもの様に動けない。
──ノラが来れば!?
昨日はスクエが心配になり追い掛けて来たノラだったが、今日は現れないであろうとスクエ自身も分かっている。
「アイツが──あの子を! クソ、アイツの何処がいいんだよ!」
「ロメイ様、私死んじゃいます……お辞め下さい……」
「あ? ──オメェがどうなろうと関係ねぇーんだよ!」
店員の男が少しずつ反応が薄くなって来るのがスクエの目に映る。
必死になり周りを見渡すが止めようとする人間は誰も居らず、周りには人間しか居ない。
だが、人間三原則の効力がある為、誰一人助けようとする者はいない。
「お、俺が助けないとな……」
スクエは無意識に腕に巻いている腕輪を触る──その腕輪はパルムの首輪を加工した物である。
「俺は出来る──俺は出来る──パルム俺に力を……」
意気込みはあるが、手足などは震えており、顔から冷や汗が流れ、呼吸も荒くなっている。
「やるぞ! いくぞ! 頑張れ俺!」
スクエは気合を入れて二人が居る道に勢い良く出て叫ぶ。
「おい、その辺にしとけよ!」
スクエの言葉にロメイと呼ばれていたリプレスがスクエに顔を向ける。
「あ? オメェ誰だ?」
「だ、誰でも良いだろうが! それよりその人から離れろ」
スクエの言葉にロメイの頭から青筋が一本浮き出る。
「おい……まさか人間の癖して俺に指図しているのか?」
先程まで店員に向けられて居た怒りがスクエに移り変わったのが分かる。
「もう一度言う──その人から離れろクソチビが!」
スクエのその言葉に怒りを露わにしたロメイはスクエ目掛けて走り出す。
「早ぇ!?」
ノラ程では無いにしても人間では到底考えられ無い程の速さでロメイはスクエの事を殴り飛ばす。
「──ウッ!?」
とんでもない衝撃を受けてスクエは壁に激突する。
「おい、人間! あんまり調子乗って?じゃねぇーぞ!」
ロメイはスクエの腹を先程、自身の奴隷にした様に執拗に蹴り続ける。
「あはは、さっきまでの威勢はどうしたよ!」
「う、うるせぇ……クソチビが……」
スクエの放った言葉はロメイに取って琴線に触れるものだったのか、一際大きく足を持ち上げてスクエをボール様に飛ばす。
──クッ……た、たたないと……
飛ばされ、痛む腹を抑えながらスクエはすぐに立ち上がる。
「あはは、お前は何者だ? ──リプレスに逆らうなんて、メンタルチップが壊れているのか?」
先程のスクエの言葉が許せないのか言葉では笑っているが表情は既にスクエを殺す気満々の様だ。
──ど、どうすればいい!?
「おい、人間! 人間三原則の三条を忘れた訳じゃねぇーよな?!」
人間三原則── 第三条人間はロボットを常に敬わなければならない──
「うるせぇ……」
ロメイに蹴られた衝撃が未だに残っている為か掠れた声で呟く。
「あぁ──よーく分かった……お前は此処で殺す」
怒りが既に頂点まで行き、振り切れたのか笑顔のロメイが何やら腰を沈めて腕を解す様に回す。
「ロメイ様、お辞め下さい!」
「オメェは黙っとけ!」
「だ、だめですよ──その人間は──」
「人間──黙れ」
「あぁ……ぁぁ……」
ロメイが奴隷である店員を命令で黙らせる。
「さぁ……オメェを痛ぶってやるよ」
ニヤリと笑うとロメイは両手の拳を握り閉める。
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