第7話 ヒーローを諦めた日

 スクエは夢を見ていた。


 その夢はスクエが小さい時の頃だろう──顔付きは今とそこまで変わらないが、子供特有の純真さが出ている。


 しかし、やはりスクエなのか小生意気そうな表情は変わらない。


「かっけー。大きくなったらヒーローになるぞー!」


 スクエはテレビに映っているヒーローアニメや海外のヒーロー映画が大好きな様だ。テレビに映っているヒーロー達が敵と戦う度に立ち上がって真似をしている。


「とぅ! やぁ! はっ!」


 小さな身体を動かす度にスクエは自分で声を出して戦闘時の臨場感を出している様だ。


「スクエー、パルムの散歩行ってきてー」


 母親がスクエに対して飼っている犬の散歩をする様に言って来る。


「えー、これからヒーロー見るから無理!」


 母親のお願いを断固拒否したスクエは新しいヒーロー映画を見る為にせっせと用意をする──だが母親がスクエの元に来る。


「スクエー散歩はー?」

「ヒーロー見るから無理なの!」

「そんな事言っていいのかしらー?」

「?」


 母親の言葉が何かを含んだ言い方だっだ為スクエは首を傾げる。

 そんなスクエを見て母親はニンマリしながら話し始める。


「パルムの散歩も出来ない子が大きくなってからヒーローなんてなれるかしら?」

「!?──散歩行ってきます!」

「はいはい──気をつけて行くのよー」


 母親はしてやったりと言う様な表情でスクエを見送った。


「ヒーローは人を助けるのが仕事だ! ──パルム散歩行くよ!」


 外に出たスクエは家で飼っている大型犬に話し掛ける。


 するとパルムという犬も散歩に行くと分かるのか尻尾をブンブンと振り回し喜んでいる様だ。


「よしよし、少し待ってくれな」

「ワン! ワン!」


 スクエはパルムの首にリードを付ける。


「リードよし!」


 しっかり繋いだのを確認してスクエとパルムは家の外に出た。


「今日は公園の所まで行く?」

「ワン!」


 幼いスクエに自身より大きいパルムの散歩は難しいのでは無いかと思うが、どうやらパルムがスクエに気を使い同じ速度で歩いてあげている様だ。

 しかもスクエを常に道路の内側にして自身を外側になる様に歩いている所を見るとパルムという犬は相当賢い事が伺える。


「車とか来たら危ないから気をつけるんだぞ?」

「ワン!」

「あ! ──蝶々が飛んでいるぞ!」


 ひらひらと舞う様に飛ぶ蝶々を見つけたスクエが横断歩道に向かって走り出すが、直ぐに止まってしまう。


「む! パルムこっちに来い」


 すると、今──正にスクエが飛び出そうとした所に車が通ったが当の本人は気付いておらず、パルムに怒っている様だ。


「あーぁ──パルムのせいで蝶々見失っちゃったじゃん……」

「ワン!」

「もう……行くぞ!」

「ワン! ワン!」


 スクエが再びパルムの散歩を始めたが、これだとどちらが散歩して貰っているか分からない状況である。


「いいかパルム? ──ヒーローは困った人を助けるんだからな?」

「ワン!」

「ここで大事な事は自分の身に危険があったとしてもヒーローは困っている人を助ける事なんだぞ!」

「ワン!」


 パルムはスクエの言葉を真摯に受け止めているのかお座り状態で話を聞いている。


「自分の命よりも人の命! ──分かったか?」

「ワン!」

「よし! なら今日も街のパトロールに行くぞ!」

「ワン!」


 最初の目的がパルムの散歩だった筈だが、いつの間にかヒーローとしてのパトロールに目的が変わっている事にスクエは気が付いて無いが、どうやらこの流れがいつものパターンの様だ。


「お! ──パルム武器見つけた!」


 道に落ちている木の棒を見つけてスクエは剣に見立てて腰にさす。


「コイツで悪い奴らをやっつけるんだ!」


 ニカっと笑いながら再び歩き出すスクエ達は少しすると目的の公園に到着した。


 しかし、到着した瞬間スクエの表情が変わる。


「あ?! ──アイツらまた!」


 公園ではスクエより少し大きいくらいの子供二人が自分達より小さい子供を虐めていた為スクエは直ぐ様駆け寄る。


「おい、弱い者虐めはやめろ!」

「あ? ──おう、また来たな偽物ヒーロー!」

「はは、お前も懲りないねぇ。この前もやられて今日もやられに来たのか?」


 苛めっ子二人がスクエの方に向き合う。


「お前らみたいな悪者に俺はやられたつもりはねぇ!」

「はは、コイツ馬鹿だ」

「あぁ、この前なんて泣いてたのにな」

「泣いてない!」


 二人の苛めっ子は先程まで虐めていた子供から助けに入ったスクエに標的を切り替えた様だ。


「また、泣かせてやるよ」

「痛い目に合わせてやる」

「俺はヒーローだ! お前らなんかに負けるか!」

「あはは、またそれかよ」

「ヒーローなんてこの世にいねぇーよ」


 そう言って二人はスクエに向かって走り出し、一人は後ろからスクエを羽交い締めにして、もう一人がスクエの事を叩いたり、蹴ったりする。


「オラ、早く泣けよ!」

「ヒーローは泣かない! 君、早く逃げるんだ!」


 スクエに言われ、先程まで虐められていた少年が立ち上がり走り去って行く。


「人の心配してていいのかヒーロー!」


 苛めっ子の一人がニヤリと笑い足を踏みつけたり顔を抓ったりしていた。


 それから暫くの間スクエは二人にいい様に弄ばれたが、近くを通った大人が怒鳴りながら近付いて来るのを見て、慌てて逃げて行く。


「コラ! 何をしている!?」

「ヤベェ、大人が来た!」

「逃げようぜ!」


 苛めっ子二人は最後にスクエを突き飛ばし一目散に逃げて行った。


「君、大丈夫かい?! ──うちの子供に言われて慌てて来たけど」


 どうやら、この大人は先程スクエが助けた父親らしい。


「大丈夫だよ! だって俺はヒーローだもん!」


 スクエは直ぐに立ち上がり男性に向かってニカっと笑い掛ける。


 そんなスクエを見て大人は感心した様に呟く。


「君は子供なのに立派だな。そしてウチの子を助けてくれてありがとう」


 スクエは虐められていた少年を見て言葉を掛ける。


「怪我は無かったか?」

「う、うん……助けてくれてありがとう」

「あぁ! また困った事があったらいつでも呼んでくれ──ヒーローである俺が助けてやるよ!」


 スクエの言葉に少年も嬉しそうに頷く。

 それからは大人はスクエの怪我の手当てをして最後にもう一度お礼を言い、別れた。


「ふぅ……今日はヒーローとして人助けが出来たな!」


 スクエは鉄柱にパルムを縛っていた為パルムの方に戻る。


「パルム見たか? ──これがヒーローなんだぞ?」

「ワン!」

「この様にヒーローは自分の危険を省みないんだ!」

「ワン! ワン!」


 スクエの勇姿に感動したのか、パルムはスクエの周りをぐるぐると走り回る。


 そして、一人と一匹は家に帰宅する為に行きと同じ道を通って帰っている。


「ふぅ……お腹減ったー」

「ワン!」

「あ! ──コンビニがある!」


 フラフラとコンビニに向かって歩くスクエ──だが横から車が猛スピードで走って来ており、車の運転手はスクエ達に気が付いてない様だ。


「ワン! ワン! ワン!」


 パルムは必死にスクエに対して警告するがスクエはコンビニに夢中で気が付いておらず──スクエ自身パルムのリードを離している為、先程の様にスクエを止める事も出来ない。


「肉まん食べたい……」

「ワン! ワン! ワン!」


 猛スピードで近付く車に気が付かないスクエは既に道路に出ている状態である──そしてパルムは何を考えたのかいきなり車に向かって走り出す。


 パルムの頭の中である言葉が再生される──


「いいか、パルム──ヒーローと言うのは自分の危険を省み無いで人を助けるんだぞ!」


 スクエは横からとんでもない音が鳴ったのに気がつく。


「え? え? なに?!」


 直ぐに横を向くとそこにはパルムが車に轢かれて横たわっていた……


「え……パルム?」


 慌てて車から降りて来た運転手だが自分が轢いたのが子供じゃ無くて犬である事に安堵している様だ。


「君! 大丈夫かい? 良かった……轢いたのが犬で……」


 運転手はスクエの様子を見るが反応無い事に焦り、直ぐにスマホを取り出して救急車を呼ぶ。


「俺のせい……?」


 スクエが呟く。


「俺が余所見してたから……?」


 スクエがパルムに近付く。


「パルム……俺を助けてくれたのか……?」


 スクエはパルムに触るがまだ暖かい。


「ヒーローになる筈の俺が……パルムを……」


 幼いスクエは極度の精神的ショックにより気を失う──そして、この事件をキッカケにスクエはヒーロになると周りに公言する事が無くなった……


 

 

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