第6話 美人御主人様にお持ち帰りされる……

「家だと……?」

「あぁ──今日から君は私の奴隷になったからな。私と私の家で一緒に住むのは普通だろ?」


 ノラは周りを見てみろと言う様に視線を周囲に動かしてスクエに施す。


 スクエはノラの視線に誘導される様に周囲の様子を見ると……


「なんだか、興が冷めましたので私達も帰りますよ」

「……はい」


 先程の恰幅の良い男と奴隷になった女性は出入り口の様な場所に向かって歩いていく。


「それでは皆さん私は帰ります。店主よ今日は素晴らしい奴隷を売ってくれてありがとうございます」

「いえいえ、これからも質の良い奴隷をスラム街の方から探して捕まえて来ますので何かあればまたよろしくお願いしまます」


 競売で司会をしていた老紳士が頭を下げて男を見送る。

 帰る際にノラとスクエの横を通った男はノラの事を物凄い形相で睨んで居たが──当の本人はまるっきり気にした様子も無くスクエを観察し続けていた。


「クッ……まぁ、いいです」


 男は一度自身を落ち着かせる為に一呼吸してから視線を奴隷の方に向けて呟く。


「帰ったらタップリと可愛がってあげましょう」

「──あぁ……ぁぁ……」


 奴隷を見る男の視線はとても愉しそうな目をしていた。

 その言葉を聞き奴隷の女性は又もや震えて居たが、痛む小指を思い出したのか黙って男の後についていく事しか出来ない様だ。


──なんで他の奴らは素直に言う事を聞いているんだよ……?


 スクエ自身、既に此処が自分の住んでいた日本では無い事に気が付いてはいるが、なら此処はどこだ? と言われると見当も付かない様だ。


──これじゃ、まるでラノベやアニメの世界じゃねぇーかよ……


 他の方にも視線を向けるスクエだったが、どこも同じ感じで奴隷になった者は買い手に一切逆らう事はせずに、従順に言う事を聞いている。


 例えそれが理不尽であり、自分を傷つける事ですら迷いもせずに行う姿は普通の人間から見れば恐怖でしか無い筈なのに、買い手達は全員が楽しそうに笑っている。


──こんなの間違っている……


「これで分かっただろ? ──さぁ私達も帰るぞ」


 ノラの言葉にスクエは大きな声で否定をする。


「うるせぇーよ。俺はお前の奴隷になったつもりはねぇんだよ──命令すんな!」


 スクエの態度に近くに居た老紳士は慌てる。

 スクエの値段はノーブルメタル500であり、過去に無い程の金額である──ここで買い手であるノラの機嫌を損ねて返品などされては堪ったものではない。


 だが、老紳士の想像とは違いノラは機嫌を損ねる所か笑っていた。


「ほぅ……ますます面白いじゃ無いか」


 ニヤリと笑った表情はとても美しいがスクエからしたら、何を企んでいるか分からない為、尚更警戒心を高めてしまう。


──こ、こいつも何かするつもりか!?


 するとノラは警戒しいるスクエから視線を一度外して老紳士に対して話し掛ける。


「亭主よ、この人間を売ってくれて感謝する」

「い、いえいえ。こちらもまさかあんな大金になるとは思って居なかったので感謝しております」


 亭主は安堵のため息を吐く。


 今までスクエの様な人間は居なかったが、本来ならこの様に大きな態度を取る奴隷など直ぐに殺されるか返金を要求されるレベルである。


 だがノラは返金要求どころか喜んでいる様子でさえある。


「ノラ様には大金を頂きましたので一応お伝えしときます」

「なんだ?」

「この人間ですが、他の人間達とは明らかに違います──お気をつけください」

「ふふ。それが目的で買い取ったからな、気にするな」


 ノラは又もやスクエに視線を向けて不敵な笑みを浮かべる。


「は? ──はぁ……」


 ノラの言葉に老紳士は良くわかない様な表情をするが、頂く物は既にノラから貰っているのでそれ以上は特に追求する事はしなかった。


 そしてノラはスクエに近付き話し掛ける。


「よし、とりあえず此処で話し合うのもなんだし、二人でじっくりと話そうでは無いか──取り敢えず私の家に行こう」


 そうスクエに伝えたノラは入り口向かってどんどん歩いていく。


「では、亭主私達も帰るぞ」

「えぇ、またノラ様には上者を抑えときますので是非これからもご贔屓にお願いします」

「あぁ──もう奴隷は買わないと思うがその時は宜しく頼む」


──クソ、勝手に話を進めやがって。誰が行くかよ


 スクエは周りの人間達が少なくなった事を確認してから──今なら逃げられると考える。


「誰がお前の奴隷になんてなるかよ──」


 スクエは小さい声で呟き足を出口に向かって全力で動かすがノラは目にも見えない速さでスクエの目の前に移動して腹部に目掛けて拳を埋め込んだ。


「──カハッ……な、なんだ……?!」


 スクエの身体がくの字に曲がる。


「すまないな。君がいつまで経っても言う事を聞いてくれないからこうするしか無かった……」


──なにを言ってやがる……


 スクエは余りの痛みにどんどん気が遠くなるのを感じた。


「ノラ様、そんな事せずとも命令をして貰えれば良いだけですよ?」

「あぁ……この人間が余りにも聞き分けが無いからな。あの気に食わない者の真似をさせて貰っただけだ」


 ノラの言葉に老紳士は納得する様に頷く。


「成る程、確かにこの人間は他の奴隷達と違って少し反抗的な様な気がしましたからな、コレくらいはしないとダメかも知れませんな」

「そう言う事だ……」


 そして、スクエの意識はそこで途切れた……

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