第4話 御主人様の命令に逆らえない女

「皆様、大変お待たせ致しました。身を清めさせて時間が掛かりました──服は私からのサービスになります──また奴隷登録は既に完了しております」


 老紳士が奴隷の買い手に向かって大仰に頭を下げる。


 そして奴隷達が見える様に牢屋の扉を開けた。


「代金は先程頂戴致しましたので後は皆さんの物です」


──物だと……コイツ何言ってやがる。それに本気で奴隷として俺達は売られたのか?


「ふふふ、この娘は結構な上物ですな」


 そこにはでっぷりとした中年が身体を揺らして奴隷の女に近付く。


「い、いや……」


 奴隷の女性は男に近付きたく無いのか牢屋の中から出て来ない。


「ふふふ、怯えている姿が益々私の嗜好をくすぐりますね──」


 ニヤついた顔で男は一言呟いた。


「人間──出て来なさい」


 すると、先程まで怯えてて、絶対に牢屋から出ようとしなかった女性が何の抵抗もせずに出ていく。


「いいですね──この手触り……うーん最高です」


 男は女性の顔を何度も撫でたり摘んだりしている。しかし女性は一切抵抗せずに男にされるがままの状態であった。


──な、なんだ?


 先程までの態度と違う事にスクエは戸惑っている。


 女性を見ると抵抗はしていないが表情をとても歪めている──それはまるで気持ち悪い虫を触ったりした時の表情である。


──や、やめさせねぇーと


 態度では嫌がって無いが、顔を見れば女性がどれだけ嫌がっているか分かる──不思議なのは何故抵抗しないかだがスクエには分からない。


「あ……あぁ──」


 スクエは男に止める様に言おうと口を動かすがまともに声が出て来ない様だ。


──クソ、またかよ……


 どうやらヒーローを目指しているスクエは気持ちでは女性を助けたいと思っている様だが体が動かない様子である。


 そして、男に触られていた女性は何か糸が切れる様にまた抵抗を始めた。


「い、いや──」


 男の手を払い除けて再び元いた牢屋に入り身を守る様に扉を閉めた──これでは閉じ込められているのか、閉じこもっているのか分からない。


 女性に抵抗された男は気分を害したのか無言で老紳士に視線を向ける。


 そして老紳士も不味いと思ったのか直ぐに行動に移す。


「お、おい──出て来なさい」


 老紳士の言葉に首を左右に振る女性。


 それを見た男が重い体を揺らして牢屋の前まで行くと女性に話し掛ける。


「また、私が命令しないと言う事が聞けないのか?」


 男の表情は笑顔であるが、声色は明らかに怒っているのが見て取れる。その声に女性は更に身体を震わせる。


「私が優しく言っている間に出て来た方が身のためですよ?」


 最後の警告なのか男は牢屋の扉を開けて外に出る様にと女性を施す。


「さぁ、出て来なさい」


 男の言葉を聞いた少女は──首を振って牢屋内に座り込む。


「……」


 その様子を見た男の表情は、物凄い形相になっており顔を真っ赤になっていた。


「人間──そこから出なさい!」


 男が一言話すと少女は先程同様に立ち上がり素直に牢屋から出て来る。


──なんだ? また……


 あんなに嫌がっていた筈なのに男の一言で牢屋から出て来た少女をスクエは不思議そうに見る。


「何か私に言う事があるのでは?」


 物凄い形相で見て来る男に恐怖を覚えているのか女性は小刻みに震える。


 そして一言だけ男に対して呟く。


「ご、御免なさい……」


 声まで震わせながら女性は男に謝る──その瞬間男の表情は笑顔に戻った。


「分かれば良いんですよ」


──ふぅ……どうにか何事も無く終わりそうだな


 スクエは女性が何もされない事に一安心したが──安心するのは早過ぎた様だ。


「私は寛大ですが、反抗した奴隷には制裁──お仕置きが必要だと思っています」


 男は気持ち悪い笑みを浮かべて女性を見る。


「貴方は私の奴隷になったのですから、これからは私のルールに慣れて貰わないとなりません──分かりますね?」

「……はい」

「宜しい」


 男は笑顔で頷くと女性に向かって一言言葉を発した。


「人間──左手の小指を自分で折なさい」

「──い、いや!」


 言葉と表情とは逆に女性の右手は自身の左手にある小指を握り締めた。


「──た、助けて!!」


 少女は周りに助けを求めるが誰一人として止めようとする者など居なかった──いや、スクエだけは助けたいと……思ってはいた……


──た、助けねぇーと!!


 しかし、やはりスクエは動く事が出来ず、ただただ目の前で起きている光景を見ている事しか出来なかった。


 そして、小気味良い音が女性の指から聞こえたと思った次の瞬間──女性の叫び声が辺りに響き渡る。


「ふふふふふふ、良い音が鳴り、良い声で叫びますね──貴方最高ですよ」

「──うぅ……いたい……」


 空に笑い掛ける様に男は上を向いて盛大に笑うが、その傍らでは逆に地面に顔を向けて折れた指を押さえてうずくまる様に座り込む女性の姿があり、まるっきり正反対の構図になっていた。


──な、なんなんだよ……これが奴隷だって言うのかよ……


 先程までは必死に逃げ切る事しか考えて無かったスクエだったが目の前で繰り広げられた出来事を見て──ここに来て言い知れぬ恐怖を覚えた。


──なんであの女性は自分の指を折ったんだ……?


 

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