第2話 奴隷競売で競り落とされる!?

 スクエの意思とは逆に牢屋は自動でステージの方に向かっていく。


「では、皆様本日1つ目の注目奴隷になります」


 司会役の老紳士は実に楽しそうな表情を浮かべている。


──奴隷なんかにされてたまるかよ!


 心でいくら叫ぼうが──この状況を変える力があるわけも無く牢屋が自動で止まった。


「それでは皆様ご覧下さい」


 そう言って老紳士は牢屋に被さっていた布を勢いよく取り払う。するとスクエの姿を視認した客達は一斉に叫び声を上げる様に盛り上がる。


「お、おい──あれ黒髪か!?」

「あぁ。あんなレアな奴隷初めて見ましたな……」

「私、絶対買い取るわ!」


 どうやら反応を見る限りスクエは客達に人気がある様だ。


「おい、そこからさっさと出ろ」


 客から見えない位置で老紳士がスクエに対して声を掛ける。


「なんで俺はこんな場所にいる? ──どうやって連れてきたんだよ?!」


 その言葉に老紳士は訝しくスクエを見る。

 しかしこの盛り上がりを逃すのは惜しいと思ったのか直ぐにスクエの腕を取り牢屋から連れ出した。


「や、やめろ! 離せよ!」


 必死に抵抗するスクエを見て客席にいる者達は驚いている様子である。


「あいつ──今抵抗したか?」

「い、いや気のせいだろ?」

「そうよ。人間にはメンタルチップが埋め込まれているんだから私達リプレスに逆らえないはずよ」


 訳の分からない単語がスクエの耳には入るが、それどころでは無いスクエは必死に老紳士の腕を振り解こうとする。


──この爺さん力が強ぇーぞ?!


 全力で腕から逃れようと捻ったりするがビクともしない。


「皆さん、見てお分かりでしょうがとても健康であり──また珍しい黒髪、黒目でございます」


 スクエは抵抗しても無駄だと思い一度暴れるのをやめる。


──力尽くじゃ無理そうだな……何か他に逃げる手段見つけねぇーと


 キョロキャロと周りを観察するスクエに対して客の何人かが声を掛ける。


「おい、よく見えないからこっちを向け」

「俺も、もっとよく見たいこちらを向け」


 だが、スクエは気にせず目線をあちこちに動かす。


「あいつ、また……」

「もしかして、耳が悪いのか?」

「それくらいしか、考えられないわね」


 客の言葉を無視した事により、ますます興味を惹かれた様だ。

 その光景を見ていた老紳士はニヤリと表情を崩し、直ぐに戻す。


「それでは皆様──この珍しい奴隷はノーブルメタル50個から始めたいと思います」



──50個だと? 一番初めの奴より最初の段階から高いじゃねぇーかよ?


「では、競売を始めます──どなたかこの奴隷を買いたい方はおりませんか?」


 老紳士の開始の合図と共に客席の7割程が席を立ち上がりスクエを買い取ろうとする。


「ノーブルメタル60個よ!」

「他の奴隷なんて要らねぇーよ──ノーブルメタル70個だ!」

「お前達の様な者にあの奴隷は勿体ない──ノーブルメタル100個だ」


 髪をオールバックにした金髪の中年が更に桁を上げた。


 100という数字を聞いた老紳士は表情を緩みそうな所を必死に耐えている様に見える。


「ノーブルメタル100個が出ました。他にいませんか?」


 更に値段が跳ね上がる事が分かっているのか、終始笑顔である。


「ノーブルメタル120個」


 すると、一人の女性が立ち上がった。その女性の目は真っ赤であり腰まで伸ばした髪が風でなびく姿はとても綺麗である。


──綺麗だ……


 スクエは素直に彼女の姿を心中で呟いた。


──それに綺麗な目だな


 彼女の燃えるような赤い目を見ていると、急に彼女と視線が合うに気が付く。


 そして彼女はスクエを見ながらニヤリと笑いウィンクをした。


──か、可愛いじゃねぇーかよ……


 女性に慣れていないスクエは直ぐに目を逸らしてしまう。


 そして、先程の金髪オールバックの男が更に釣り上げて来た。


「ノーブルメタル150個だ」


 男は彼女を見て余裕の表情を浮かべるが──それは彼女も同じの様だ。


「ノーブルメタル200個」


 男の提示した個数を更に上回る数を提示した彼女に驚きの視線が集まる。


「200個が出ました──他にどなたかいらっしゃっいますでしょうか?」


 スクエ一人で今回、予測していた儲け以上のものが出ているのか老紳士は、もはや声を出して笑っていた。


「ノーブルメタル230個だ──女よ、破産するぞ?」

「ノーブルメタル250個──果たして破産するのはどっちかな?」


 威圧する様に男が彼女に話し掛けるが、彼女も負けじと余裕の笑みを浮かべる。


「250個出ました。どうでしょうか、流石にいらっしゃいませんでしょうか?」


 もはや、老紳士は金髪オールバックに向かってしか話し掛けていない状況だ。


──ノーブルメタルっていうのがどんなものか知らねぇーけど250個ってすげぇーんじゃないか?


 その後もお互いが値段を上げて行き、とうとう勝者が決まった。


「ノーブルメタル500個」


 その言葉を聞いた瞬間に金髪オールバックは崩れる様にして席に座った。


「他にはいらっしゃいませんね?」


 老紳士がハンマーで木の机を叩く。


「それでは今回の奴隷はノーブルメタル500個で買取が決まりました」


 老紳士の言葉を待たずして盛大な拍手が響き渡った。


──金髪じゃ無くて、あの綺麗な人が俺の買い手で良かったけどこれから俺はどうすればいいんだ……?

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