第二十七話 双六遊び<後編>

先攻がなぎ様たち、後攻がすばる様になる。

それぞれが順番にサイコロを振って駒を進めて陣地を広げていく。

皆様が熱心に双六すごろくに興じているのを見ていると、私も少しずつ遊び方がわかってきた。

そして、戦いが佳境に入ってくる。


「三と五ね・・。んーと・・、こうしてこうする、と・・。」


二つのサイコロを振った昴様が表に出た数字と盤をにらみながら駒を進めた。


「そう来るか・・。白丸、さいを振ってくれ!」


「かしこまりました!この場合は・・、小さい目、小さい目!」


白丸様がサイコロを振ると六と一が出る。


「うわぁ・・、微妙だ・・。」


「微妙ですね・・。若様、申し訳ありません・・。」


白丸様が謝ると黒丸様が続ける。


「・・いや、若様、まだ諦めないでください!」


三人が何やら作戦会議をしているのを昴様が眺める。


「ふふ・・、俺に双六で勝とうなんて何万年早いと思ってるんだ!!」


昴様が涼しい顔で相手を牽制けんせいした。

それでも、相手方陣営の皆様がぶつぶつと会議を続けている。

すると、凪様がこちらを見て叫ぶ。


「よし!!昴、これでどうだ!!!」


バチンという音を立てて駒が盤に配置された。


「なっ!!!・・あー!!何てこった!!」


「俺たちをみくびるなよ!」


皆様がそれぞれワアワア言いながらお互いの主張をする。


「うるさい!見てろ!!」


昴様が大きく振りかぶってサイコロを振った。

コロンコロンと二つのサイコロが転がっていくとそれぞれが止まる。


「あ・・・。」


出た目を確認した昴様が頭を抱える。


「うあー!どうしよー!!何でこんな時にこの目が出るんだーー!!」


私は手に持ったお饅頭を一口食べながら、盤に置かれた駒とサイコロの数字を眺める。


--・・このお饅頭、甘くて美味しいな。


そして、両陣営の守備範囲と駒の動きをそれぞれ確認して何度も頭の中で先を考えてみる。


--・・・あ。これって・・。


私は昴様のそでを少し引っ張る。


「・・・あの、昴様・・。」


「・・ん?なーに、おうちゃん?」


私は頭を抱えた昴様の耳元でささやいた。


「・・・うんうん・・、うん、・・そーか!うんうん!いーね!!それ!!!」


昴様の不適な笑みが凪様たちに向けられる。


「どうやら、うちには素晴らしい軍師がいたようだよ・・。ふふふ、お前たちに起死回生の一手を喰らわせてやろう!」


「え、何?何だよ!?」


「小僧どもっ!!返り討ちにしてくれる!!!」


駒を持った昴様の手が大きく振りかぶると、そのまま盤を目掛けて急降下する。


「必殺!!!地獄のはがね落とし!!!!」


勢いよく打ち付けられた駒が、バーンという大きな音とともに双六盤に布陣された。


「あ!!!!!!」


「これは!!」


「まずいっ!!」


今度は凪様たち三人が頭を抱えた。


「これが、桜姫の策略ですか・・。」


「俺たちが迂闊うかつだったな・・。」


昴様が勝利を確信した雄叫おたけびをあげる。


「お前ら!うちの軍師様を舐めるなよ!!!ね、桜ちゃん!」


嬉々として笑顔を向ける昴様に私は可笑おかしくなった。


「ふふ、・・ふふふ。昴様、大人気おとなげないですよ。ふふふ。」


「そんなことないよ!男の勝負はいつ何時も真剣勝負なんだ!!」


昴様が大真面目な顔で言ってくるので笑いが止まらなくなる。


「ふふ、ふふふ。」


やがて、勝敗の行方は昴様に軍配が上がった。


「よーし!!勝った!勝った!」


昴様が愉快そうに大笑いする。


「いやー、双六で勝つと気持ちがいいねえ!今日は良い一日になりそうだよ!!ね、桜ちゃん!」


「ふふ、そうですね。」


私は笑う。

すると、凪様たちが苦虫をみ潰したように口を開いた。


「昴・・、一回で勝負をつけようなんて誰が決めたんだ!」


「そうですよ!!私も若様に賛成です!だよな、黒丸!?」


「・・そうですね。同意はしますが、皆さんそろそろ--」


黒丸様の言葉を待たずに昴様が舌戦に対抗する。


「ふん、小僧ども!何度でもかかってくるがいい!俺は逃げも隠れもしないぞ!」


「じゃあ、もう一戦だ!」


「臨むところだ!」


再び振り出しに戻って双六盤に駒が並べられた。

小虎が大きくあくびをするとスヤスヤと丸くなって眠り出す。

そして、黒丸様が項垂うなだれながらなげく。


「若様と伯父上の性格上、こうなることはわかっていたのですが・・。それに兄上まで加わってしまった。もう誰も止められない・・。」


そんな黒丸様のお姿を横目に、遊び方を覚えた私が昴様にお願いをする。


「ふふ、面白い遊びですね。昴様、次は私も参加してよろしいですか?」


「うん、いいよ!軍師様の仰せのままに!!桜ちゃんも一緒に戦ってくれたら心強いこと、この上ないよ!一緒に遊ぼう!!」


昴様が嬉しそうに私を引き寄せて笑う。


「くっ・・、手強い姫が加勢したな・・。こっちも負けてられないぞ!」


「はっ!全力を尽くします!!だよな、黒丸!?」


「・・・。」


陽はまだ高い位置にあった。

それでも私たちの白熱した楽しい双六大会は続いていく・・。

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