第一章

第一話 巡り逢う

--そんな、一体この人はどうしてここへ?

--結界だって幾重にも張ってあるはずなのに・・。


唖然あぜんとしてしまった私を他所よそに、突然入ってきた男は続ける。


「・・・急に入ってきたりしてすまない。だけど、こんな場所に屋敷があるなんて聞いたことがないし、不審な人物がいれば報告する義務があったから。」


「あ、あの・・。」


「俺はなぎ。君は・・・。まず君の名前を教えてほしい。」


「・・・。」


「急に女性の部屋に入ってきて名前を教えろとか図々しいのは承知している。俺もこんな場所があるなんて知らなかったし、正直、どういうことなのかまだ頭が追いついていない。」


凪様がそう言いながらつかにかけた手を離したのを見て私は安堵あんどした。

ただ、女性への非礼をびつつも職務として私が何者なのかを確かめようとしていることはわかった。


「・・桜。サクラと書いてオウ。」


「桜・・。君はここで何をしているの?」


そう言うと凪様は私から少し離れたところへ腰を下ろした。


「あ、えと、笛を少し。」


「一人で?」


私はぎこちなくうなずく。


「ふぅん・・。」


凪様は溜め息混じりに少し疑った視線を私に送った。


--どうしよう、まさかここにすばる様以外の人が訪れるなんて思ってもいなかったから、何て言えば・・。


「・・まぁいいか。ここの敷地は広いし、こんな外れた場所まで来たことは今までなかったから。それに、見たところそんなに怪しい人物でもなさそうだ。」


凪様がちらりと私の方を見やって悪戯いたずらっぽく笑う。

だけど、どうしてなのかそれ以上私を追及することをやめたようだった。


「そうだ。桜、よければ君の持っている笛と一曲お手合わせ願えないかな?」


「え?」


「俺も雅楽ががくが趣味でね。だけど今日はあいにく楽器の持ち合わせはないからうたでよければ。」


突然やってきてしかも突然音合わせがしたいとか、強引すぎるけれど・・・。

久しく人と会うこともなく一人で過ごしてきた私にとってすごく嬉しい提案だった。


「私でよければ、是非。」


私はうなずきながら凪様へ笑顔を返す。

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