Ⅱ 逢魔時

千景は、日も暮れようとする頃、意味もなく外を歩いていた。



ここ、ローマの治安はご存知、あまり良いとは言えない。


日も落ちる頃に女ひとりで、しかも20歳そこらの東洋人が出歩くなんてもってのほかだ。


だがローマに移り住んで半年経とうとする専門学校生の千景は、中途半端にこの街に慣れてしまっていた。




いや、それもあるが、本当の原因はこれだろう。



日暮れ前から彼女は強くもないのに酒を飲んでいたのだ。



日本とは違う文化、人間関係でのストレス、所詮カルチャーショックで参っていて、酒を浴びるほど飲んでいた。




覚束無い足取りで、缶ビールを片手にあてもなく通りを歩いていた。






何も考えたくなかった。



場所が変わっても、結局、私は変わらない。


無鉄砲な人間とは、勇気があるとか臨機応変だとかではなく、ただ単に計画性がないだけなのだ。



勢い余って自国から飛び出して、今更先が見えない不安で鬱になりかけているなんて。




「あぁあ。誰か、金持ちでハンサムなイタリアーノが私を養ってくれないかなあ」




切実に。



やってられないとビールを流し込んだ。





頭がクラクラする。日も完全に落ちてしまった。流石にもう帰ろうか…






ふと、道の向こうに人影があるのに気がついた。

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