大胆な告白は親友の特権

「よお、シラン。もしかして待ったか……?」

「ううん、今来たとこ」


 あのとき約束した通り、ボクとアイリスは第二校舎の裏庭で合流を果たした。

 第二校舎自体があまり使われていないこともあって、庭と呼ぶには少々荒れ気味だが、ひっそりとサボタージュするにはちょうど良い空間だ。寮でサボるという案は、誰かが探しに来たらすぐ見つかってしまいそうなので却下した。


 約束したときにアイリスの様子が少し変だったから、もしここへ来てくれなかったらどうしようかと、若干心配になっていたけれど……どうやら杞憂だったらしい。

 

「今のやり取り、何だか恋人みたい、だったね」

「うへっ!? そそそそんなことはないって。普通だと思うぜ」


 軽い冗談のつもりで言ってみたら、思いのほか全力で否定されてしまった。むぅ、それはそれでちょっとだけ腹が立つ。

 たしかにアイリスの言っていることは正しいけれど、だからってそんなに嫌がることないだろう。


「ボクの身体、隅々までまさぐった癖に……」

「言い方っ!! いやまあ、実際その通りなんだけども」


 言うだけ言ったら少しすっきりした。嘘は言ってないし、このくらいは許されるよね?




 さて、このままやり過ごせば、舞踏会をサボるという目的は達成されそうなので……もうひとつの目的を果たすために動くとしよう。

 そう、アイリスとの関係を回復するために、ボクからアプローチを仕掛けるのだ。

 意を決して、ボクはアイリスに問いかけた。


「あのさ、アイリス。最近ボクから距離、取ってる……よね?」


 ボクは回りくどいことが苦手だ。というか、そんな器用なことはできない。だから、言いたいことがあるならストレートにぶつけるしかない。

 さあ、アイリスはどう返してくるのか……心臓の音がやけに煩い。この期に及んで誤魔化そうとするなら、ボクにだって考えはある。そう身構えてみたものの、回りくどいことが苦手なのはボクだけじゃないらしい。


「うぐっ。いや、その……悪かった。シランに不快な想い、させちまったよな」


 本当だよ、まったく。悪友だと思っていたのに、わけも分からずよそよそしい態度を取られたら……傷つくじゃないか。そう思った途端、ボクの内から何かが込み上げてくる。


「ボクの相手するの、嫌になったのなら……もっと上手く、バレないよう、距離取ってよ。へたくそ」

「……っ。違うんだ、そうじゃない。シランは何も悪くない。ただ、あたしが馬鹿だっただけなんだ」

「アイリスが言っていること、わかんない。ボクは……ボクは寂しかった」


 あれれ? 何だかおかしい。ボクってこんなに女々しい奴だったっけ。そんな面倒臭いことを言うつもり、これっぽっちもなかったんだ。こんなボク、知らない。

 ……知らないはずなのに、それは何故かどうしようもなく懐かしい感覚に思えた。例えるなら、昔フタを閉じた箱の中から何かが漏れ出すような、そんな感覚。


「聞いてくれ、シランっ。あたしはただ、シランの信頼を二度と裏切りたくないと、そう思っただけなんだ。だけど、ほら……あんなこと仕出かしちまっただろ? だからさ、変に意識して距離感が分からなくなっちまったんだよ。本当の本当に、それだけのことなんだ」


 様子のおかしいボクを目にしたアイリスが、慌てた様子で捲くし立てるように釈明した。


「じゃあ、ボクのこと……嫌いになったり、してないの?」

「するわけないだろっ。シランはあたしの大切な幼馴染で、唯一無二の親友だ。それこそ、思わず襲っちまったくらいには好いているさ」


 それを聞いたボクの内で、急速に緊張がほぐれていく。ちらりと顔を出したボクの知らないボクも、箱の中へと戻っていく。


「何それ。変な親友アピール、だね」

「あぁ、まったくだな」

「……んひひひ」

「……あはははは」


 ボクとアイリスは、顔を見合わせて笑った。

 これだよこれ、これが悪友ってやつだよ。久しぶりにくだらないことで笑った気がする。やっぱり良いなぁ、こういう関係。


「お詫びと言っては何だけどさ……仲直りの印として、あたしと一曲踊ってくれないか?」

「そりゃ、もちろ……ん!?」


 いやいやいや。どうしてそうなるんだ、我が悪友ともよ。詫びようとしてくれる気持ちは嬉しいけど……そうじゃない、そうじゃないだろう? 何のために舞踏会をサボったと思ってるんだ。

 そう言い返そうとアイリスに視線を向けたが、当の悪友はすっかりその気らしい。正面に立ったまま目を瞑り、静かに左手を差し出している。


 えぇい、もういいや、どうにでもなれ。周りに人はいないんだ。少なくとも、大勢の前で赤っ恥を晒す心配はない。

 ただし、ボクに社交ダンスの経験なんて、ひとつもないんだ。だから、アイリスの足を踏みまくってしまったとしても知らないからね。

 開き直ったボクは、アイリスが差し出した左手に、自分の右手を添えた。直後、アイリスが優しく握り返してきた感覚が伝わってきた。


 じっと耳を澄ませば、ホールの方向からピアノの音色が聞こえてくる。その音色に身を任せ、最初のワンステップを踏み出す。

 ワン、ツー。ワン、ツー。今夜は月は、満月だ。月明かりのみが静かに降り注ぐ中、ボクたちは軽快にステップを刻む。


 多少のぎこちなさはあるものの、不思議とボクは違和感を覚えることなく踊ることができていた。

 アイリスのリードが上手いということは間違いない。しかし、それだけで説明をつけるには無理があるだろう。なんというか、あまりにも自然なのだ。まるで、身体が覚えているとでも言うような。


 なるほど……実際、この身体が覚えているのかもしれない。たしかにボクは、この世界で数カ月しか過ごしていない。だけど、この身体自体はまぎれもなく、シランというキャラクターのものだ。この世界に生れ落ち、様々な経験を積んできたはずで、踊りのひとつやふたつ、覚えていてもおかしくない。


 ピアノの音色が鳴り止んで、ボクとアイリスは足を止める。


 今日はアイリスを誘って良かった。

 たぶんだけど、これを機にボクたちは以前のような悪友の関係に戻れるような気がする。だからこそ想う。この関係はずっと大切にしたいと。

 ボクの想い、ちゃんと伝えておかないとな。手を繋いだ状態のまま、ボクはアイリスに話しかける。


「ボクは、アイリスと出会えて、良かった」

「ああ、あたしもだ」


「ボクは、アイリスのこと、大好き」

「ああ、あたしも……だ? ん、んん?」


「できれば、ずっと一緒にいたい、と思ってる」

「お……う、ずっと一緒」


「アイリスと、あんなことやこんなこと、たくさんしたい」

「あんなことやこんなこと……それってつまり」


 ボクは、自分の想いを赤裸々に告白する。正直ここまで伝えたことはなかったので、恥ずかしさで顔が火照る。だけど、これは大切なことだから。

 聞いていたアイリスも恥ずかしそうに顔を赤らめているが、どうやらちゃんと伝わっているらしい。アイリスの言葉にボクは答える。


「うん。だからずっとでいて、ね!」

「……あぐぃううああああkbん¥fじょtえf」


 アイリスが盛大にズッコケた。

 ……えっ、何? 大丈夫?




ーーーーーーーーーーー




いろいろと詰め込んだ回でした。


一点だけ、ここで触れておきます。

踊れた理由をシランは都合の良い解釈で納得しましたが、もうひとりの転生者であるはずのリリーは、猛特訓の末に踊れるようになっているんですよね。



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