悪友は誰よりも近くにいたい

もうひとりの取り巻き少女、アイリスのターンです。途中、怒涛の独白があります。


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「最近、シランと一緒にいられる時間が少ないと思うんだよ。物足りねぇよぉ」

「いきなり何をおっしゃいますのかしら……大体、今日も朝から、お二人で何かよろしくないことなさってたんじゃなくて?」

「それはそうなんだけどさ……でも違うんだよぉ、あたしとシランはもっとこう! 唯一無二の親友みたいなもんなんだからさぁ」

「どちらかと言えば、悪友って表現の方が合っている気がいたしますけれど」


 寮でルームメイトのキャメリアを相手に、あたしは最近もやもやしている感情を吐き出した。

 あたしの訴えに呆れた表情を浮かべるキャメリアとは、入学式の日からかれこれ一カ月以上の付き合いになる。


 初等部の頃には特に交流がなかったキャメリアだが、中等部に進みルームメイトになってからは、日常的につるむようになった。

 正直、出会った当初は内心でいけ好かないご令嬢だと思っていたところがある。けれど、しばらく付き合っていく中で、不器用なくせに正面から向き合おうとする性格を理解し、何だかんだで好感を抱くようになっていった。結果として、親友のシランも当然のように混じり、今ではすっかり三人で過ごすことが日常になっている。

 

 ちなみに、シランは事あるごとに自分自身とあたしを「取り巻き」だと表現するが、そんなものになった覚えはない。あたしが誰かの下に付くわけないっての。それだけはあり得ない。




 そして、今のあたしをもやもやさせているのが、幼い頃からの親友であるシランだ。


 シランのルニャール家とあたしのグレンデス家は、古くから非常に親しい関係にある。そのため、あたしとシランは幼い頃からよく遊んだ。シランは昔から表情が乏しく、言葉数も少ない少女だったが、人形のように整った顔立ちをしていて、まさに美少女だった。

 そして、あたしにだけ時折見せる笑顔は、まだ幼いあたしをときめかせた。いやホント、あの笑顔は反則級だから。


 マンジュリカ女学院の初等部に入ってからは、学院内で毎日一緒に過ごすようになる。触れば壊れてしまいそうな可愛らしさと、何を考えているのか分かりにくい表情のせいで、シランに近づく女生徒は少なかった。だから、あたしはシランをある意味で独り占めできていたように思う。あたしはシランにとって一番の理解者であるつもりだったし、シランもまた、何かと不真面目で自由なあたしを理解してくれていた。




 ……そのはずだったんだ。だけど、中等部に進んだ辺りからシランの雰囲気と交友関係が変化していく。

 これまでもあたしの不真面目な行動に付き合ってくれていたシランだが、この辺りからシラン自身が不真面目な行動をとるようになる。それも、割とセクシャルな方向で。

 何か情操に良くない知識でも見聞きしてしまったのだろうか……お母さん、心配です。なんちゃって。


 でもまあ、以前と比べてかなり表情が豊かになったように思う。まあ、あたしくらいしか気がつかない程度の変化なんだけど。

 そんなシランを見ていると、最近は不思議と胸を締め付けられるような感覚を覚えることが多い。それは不快などではなく、寧ろ心地良いものだ。


 それと、あたし自身がキャメリアと関わるようになった分、シランもキャメリアと過ごすようになった。これは当然だと思う。シランはキャメリアに対して悪い感情を抱いていないようだし、キャメリアもシランを理解して真っすぐに向き合ってくれているから、特に問題もない。何よりキャメリアは生真面目だ。少なくとも現状、シランに害を加えることもないだろう。


 だけど!!!!

 シランのルームメイト、あの女はダメだ。絶対にダメ。あいつはマジで危険だ。

 どうしてあんな猛獣がシランとルームメイトになったのか。考えるだけで頭が痛くなる……


 シランからリリーを紹介されたときは、美しくて聖女のような少女だと思ったんだ。あの時のあたしの目は、きっと腐っていたに違いない。

 シランと同室と知って若干の嫉妬こそ感じてしまったものの、特に不安はなかった。


 しかし、リリーの本性はシランを食らわんとする猛獣だった。もともとシランに対して距離が近いな、くらいは感じていたんだ。それが、徐々にシランに対する欲望を隠さなくなっていき……挙句、シランを見つめながら涎を垂らす姿を目撃したときには、本気でドン引きしたものだ。あれはヤバい。


 そんなこんなで、リリーがルームメイトであることを利用し、度々シランを攫っていくものだから、あたしとつるむ時間は以前より減ってしまっていた。

 しかも、最近のシランは女生徒の下着を見て喜ぶような性格だ。そのうちリリーに篭絡されかねない。あれでいてシランは自分の可愛らしさに気づいていない節があるから、尚更心配だ。


 だからこそ、何としても親友のあたしがシランを守らなければならない。今朝はキャメリアに先を越されてしまったけど……

 そして、最後には親友以上の関係に発展させて、あたしがシランのことを……ゲフンゲフン。



「えぇっと……アイリスさん? 表情が何だか気持ち悪いのですけど、大丈夫かしら?」


 おっと、少し考え事が過ぎてしまったようだ。キャメリアに引かれてしまうのは、さすがに避けたい。

 若干手遅れな気がしないでもないが、スッといつもの表情に戻す。

 それを見たキャメリアが、漏らすように呟く。


「アイリスさんから、最近のリリーさんと似た気配を感じましたけど……気のせいですわよね」


 聞こえてるぞ、キャメリア。それだけはない。絶対の絶対に気のせいだ。

 大体、あたしはリリーみたいにシランを舐め回したりしない。あたしたちは幼い頃からの親友なんだ。舐め回すなんて、そんなこと、そんなこと……


「あたしはシランを撫で回したいな、くらいしか考えてないぜ?」

「…………そうですか」


 あたしの反論を聞いたキャメリアが、突然シランみたいなジト目になったけど……

 何か変なこと言っただろうか?




ーーーーーーーーーーー




アイリスについては、あくまでもシランの悪友という立ち位置で、もう少し静かに親友以上の感情を膨らませていってもらうつもりでした。

……なのにどうしてこうなった。

マズいです、シランの周りがヤバいやつばかりになってきました。これでは悪役令嬢の胃にも穴が開きかねません。どうしよう(ゲスい顔)



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