第86話 シミュレーション
マリアの移民に対する厳しい意見を聞いた翌日。
一条たちを地球に運んだ軽巡洋艦クレインがとんぼ返りでアギラカナに戻って来た。
クレインにすぐに乗り込んで地球に向かおうと思ったが、それではあまりにブラックだと気付いた。マリアの
そして翌日。
そのクレインにマリアを伴い乗り込み、半日かけてハイパーレーンゲート経由で東京にあるアギラカナ大使館に到着したのは、午後九時を過ぎていた。
屋上に迎えに出て来たアインをはじめとした秘書室の連中は早々に解散させ、俺も大使館内の九階にある自室に直行して、シャワーを浴び、その日は休むことにした。一条は今日は会食で遅くなるそうだ。真面目にビジネス・ウーマンをしているようだ。ファービスの『世界で最も影響力のある人物』で毎年一桁に入っているだけはある。
翌朝。
日本はちょうど大型連休明けの木曜日、八階にある執務室に降りていき、朝のあいさつの後、
「……、アイン、こういったわけだから、可能なら、地球が二百数十年後には確実に破壊されるということを、各国に報せた場合、どういったことが起こるかをシミュレートしてくれるか?」
「そういった社会学的インパクトに対する応答については、モデルをすでに構築しており、実証的観測も行っていますので、十分な精度をもってシミュレート可能と思います。昼食後にはお持ちできると思います」
「それじゃあ、頼んだ」
なんだか、難しい言葉で説明されたが、かなりの精度で地球滅亡を発表した場合の影響を見積もることができるらしいということがわかった。
大使館に設置されている自動調理器はバラエティーに富んだ食材を簡単に入手可能なため、アギラカナ
休憩室でみんなで昼食をとったあと、執務室の自席で、淹れてもらったインスタントコーヒーを飲んでいたら、アインがやって来た。
「けさ艦長に指示されたシミュレーションの結果が出ましたので、小会議室までお越しください。マリア中佐も同席お願いします」
執務室から隣の小会議室に移り、アインの説明を聞くことになった。小会議室への移動途中八階に上がって来た一条に出会ったので簡単にあいさつを交わしてすぐ別れ、小会議室の席にマリアと並んで座り、アインからの説明を聞いた。
「これは、現時点でわれわれが日本政府を通じ各国政府に対して、二百三十年後地球が破滅すると通告を行った場合のシミュレーション結果です。通告内容には、ゼノに対する所見及びここ十数年間、アギラカナがゼノと戦った記録映像を添付したものとしています。
まず、注目すべきは、先進諸国の出生率の低下です。先進諸国の出生率はここ数年1.7前後で推移しており、ほとんどの先進国は移民規制を行っているため、人口は緩やかな減少傾向にあります。
この状況下において、先ほどの警告をわれわれが行った場合、この先二十年で、出生率が一気に0.2まで低下し、その後も徐々に低下を続け、五十年後の出生率は0.1を下回ると予測されました。
この状況下において、先進国以外の国々の出生率も低下を続けますが、こちらは、先進諸国と比べ、非常に緩やかに減少していき、2.0を下回るのは五十年後ですが出生率の減少は徐々に加速し、百年後には0.2を下回ります。
もちろんこの間、先進国の経済は破綻し、全産業の生産性も著しく低下します。食料自給率の低い国では早い段階で餓死者も大量に発生します。同時に、社会不安も増大し、略奪を中心とした重大犯罪が激増し、自殺者も急増します。また地域紛争の激化なども予想されています。
三十年後には、社会インフラの維持が困難となりはじめ五十年後には近現代整備された社会インフラはほぼ機能を失い、文明の退行が加速します。
そういったもろもろの要因により、警告後、百年経過時点の地球の人口は現在の八十五億から五億まで減少すると見積もられました。この五億の数字は、西暦1500年頃の地球の全人口の推定値と言われています。
なお、このシミュレーションは、地球各国に対してアギラカナが積極的な支援を行わなかった場合のものです。
艦長が、このシミュレーション結果からどのような結論を出されるのかはわかりませんが、現時点での地球の各国政府に対する警告は非常に危険であると私の段階では判断します」
まさに、ポスト・アポカリプス。地獄のような世界が予想された。ここまでひどい予想となるとは俺も想像できなかった。
それでは、どうする?
[あとがき]
八十五億から五億まで:八十五億は2035年あたりの推定人口を持ってきました。五億は特に複雑な計算をしたわけではなくアバウトな数字です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます