第78話 代表会談
アルゼ帝国の中心星系であるハミラピラトラ星系の指定座標にアギラカナがジャンプアウトすると、これまで無反応を貫いてきたアルゼ側から連絡が入った。当方と平和的対話を望むそうだ。
マリアと先方の担当者の間で交渉を行った結果、三六時間後、ジャンプアウト位置より2AUアーゼーン方向に移動した座標でアギラカナにおいての会見が決まった。こちらの代表、つまり俺と先方からはマルコ提督がアルゼ側全権として会談を行うことになった。
マルコ提督は拘束を解かれたようで何よりである。マルコ提督の階級も中将から俺と同じ大将に昇進しているようだ。
アギラカナの艦長公室にある普段用の小さな食堂でマリアと昼食を摂りながら世間話のように今度の会談のことについて話をしている。
「マリア、アルゼ側との交渉ありがとうな。それで会談の場所以外先方は何も言ってこなかったのか?」
「はい。先方からは何もありません。アルゼとは戦争はしていませんが、状況から考えて先方から見れば降伏使節団の派遣のようなものですから、あえて先方からの要求などないと思います」
「そうか。使節団は宇宙船でこちらに来るわけだから、途中までエスコート艦をこちらから出した方が良いかな?」
「艦長、こちらの駆逐艦といえども、アルゼ側の大型艦を超えた大きさがありますから過度に威圧することになりかねませんが」
「アギラカナに来るんだ、いまさら威圧もないんじゃないか? ぽつんと一隻で来られても何だか寂しくないか?」
「そうなんですか? そのような考え方は分かりませんが、十隻で来ようが、百隻で来ようが所詮アルゼの宇宙船ですから同じことではないでしょうか?」
「撃破するわけじゃないんだから。今回の会談についても良い
「わかりました」
「この、マスのマリネはなかなかうまいな。マリアが作ったのか?」
「ありがとうございます。少しずつ料理の勉強をしています。艦長に喜んでいただき嬉しいです」
「こちらこそ、ありがとう」
……
「探査機からの情報です。アーゼーンからアギラカナに向け、艦艇が五隻発進したようです。中型艦一、小型艦四の編成です。既にアギラカナからも特定しています。二個雷撃戦隊を発進させ、やや遠方から五隻をエスコートする形でよろしいですか?」
「そうしてくれ」
「艦長命令として、ただいま航宙軍に対し発令しました。会談は、明日の午後でよろしいですね?」
「そうだな。受け入れ準備はしっかりできてるんだろ?」
「はい。前回アルゼ艦隊を収容した施設を使用しますが、内装等のグレードは高めています」
「そこらへんは任せた」
「了解しました」
アルゼ側の艦艇がアギラカナに到着するまで、特にすることもないので、久しぶりに小説でも書くかと思い立ち、執務室でモニターを見ながらキーを叩いている。無駄に超空間通信を使いリアルタイムで地球のNETに接続しているので、たまに手を休めてNETニュースを見たりしている。ちょくちょく一条のやっているニチアグループの話題などもニュースにあがっており、グループ内のどの企業も順調に成果を出しているようだ。地球の政治関連のニュースは全く興味がないのでニュースに上がらないような設定にしている。
そうこうしているうちに良い時間が経ったようで、やって来たマリアにアルゼの使節団の到着を告げられた。
「艦長、間もなくアルゼの使節艦隊が到着します。モニターに出しましょうか?」
「頼む」
机の上のモニターに、アルゼの宇宙船五隻が映った。小型艦二隻の後に中型艦、その後に小型艦二隻の縦列である。
紡錘型の艦首から艦尾にかけて艦中央を貫く軸線砲を主砲とするアルゼ艦が一糸乱れず単縦陣で航行するのは、戦意を持たない事を相手側に示す意味合いがあるそうだ。こちらの雷撃戦隊はかなり遠方のようで白く小さく見える。この光景はもう一方の雷撃戦隊のいずれかの艦からの撮影なのだろうが、アルゼの五隻に焦点を合わせている関係で、遠方の恒星の光を浴びて淡く白く見えるアギラカナが圧倒的な存在感で画面の半分を占めている。
ゆっくりとアギラカナに接近したアルゼ艦隊は、宇宙港に通じるシャフトの中に吸い込まれていった。
「アルゼ艦隊が、第2宇宙港に着艦しました。エリス少将と陸戦隊員が出迎えに桟橋まで出向いており、明日の会談までの接待役を務めます。明日の会談場所ですが、中央典礼広場を開催場所とする予定です」
「中央典礼広場? たしか俺が艦長に就任した時一度行ったことが有るあそこか?」
「私は、まだ生まれていませんでしたが、そのはずです」
「またえらく広々としたところでの会談なんだな」
「アルゼ側にも映像を流しますから、それなりにインパクトがある方が宜しいかと思い中央典礼広場としました」
「まあ、雨が降るわけでもないし、特に問題はないからそれでいいか。明日まで時間が空いたがアギラカナ側としてアルゼ側への要望は、アルゼ領内での自由な航行くらいか? 対価としてはゼノの探知情報の提供だな。こちらとしてはほとんど善意での提案だから拒否されるとは思わないが。マリア、他に何かあるかな?」
「アルゼへの連絡のため、大使館的なものをアーゼーンに置いておくのはどうでしょうか? いきなり超空間通信で直接アルゼ政府にゼノ情報を送り付けるのは体裁が悪そうですし、先方から何かとこちらへの接触もし易くなりますから。それに今後アルゼとの交易といったことを行っていくにも便利だと思います」
「それもそうだな。その件も特に問題なさそうだし相手側は了承するだろうな。だとすると、大使館要員の準備が必要になるか」
「陸戦隊特殊作戦部から人員を見繕いましょう」
「日本に置いた大使館での日本人スタッフも結構役に立っているし、アルゼ人も雇用した方が良いんじゃないか? アルゼ政府との繋ぎだけとしてもいた方が良いだろう?」
「そうですね」
「ハイパーレーンゲートもあれば便利だろうが、そっちは交易が具体化してからでいいな。今は工作艦もすぐに派遣できるから、そんなに建設に時間がかからないからな。だいたいこんなところか。マリアは今言ったようなところを纏めて先方と事前交渉をしておいてくれ」
「了解しました。折衝相手はマルコ提督ですので、すんなり受け入れていただけると思います」
「明日は、簡単な会談になるようよろしく頼む」
翌日午後、会談に臨むべくマリアと連れ立ち、中央典礼広場に向かった。
典礼広場の奥で一段高くなった典礼場の真ん中に
マリアから、既に当方の要望について先方の了承を得ているので、記録映像を取るためだけのパフォーマンスだが、こういったものも必要な手続きなのだろう。
吹奏楽団などアギラカナにはいないので当然音楽の伴奏はないが、バイオノイドのみんなもそれぞれ趣味を持ち始めたようだし、楽器を嗜む者もいると聞く。有志を募って楽団でも作ってもいいかもしれないな。
そんなことを考えながら、俺も立ち上がってマルコ提督たちが壇上に上ってくるのを待ち受けていると、エリス少将に先導されたマルコ提督たちが階段を上り、我々が待つ壇上に現れた。そこでお互い軽く会釈して席につき会談が始まった。
……
「マルコ提督、大将に昇進されたようで、おめでとうございます。ゼノを探知した場合の情報ですが、ゼノを発見しそのゼノがアルゼ領内の星系に到達する場合、到着の十年前には情報を提供できるよう我々の探査機を配備する予定です。見つけ次第ゼノを殲滅するつもりですが、万が一殲滅できず取り逃がした場合でも十年あれば疎開も可能でしょう。皆さんを送り返した後、アギラカナは太陽系に帰還します。後日大使館の開設のための人員を送りますのでよろしくお願いします」
「ありがとうございます。大使館については、適当な施設を提供できると思います」
事前協議で既にお互いの要望等は了承しあっているため、最後に俺とマルコ提督が我々の作法に合わせ握手することで会談は終了した。
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