念導戦記
水室二人
第1話念導使い その1
「スティックです。ギフトは念導力です」
簡単な自己紹介をする。ここは、城塞都市ファイエルにある初等学校。
ギール王国の国民は、10歳になるとこの初等学校に通う事になる。10歳からと言うのには理由がある。この世界の人間は、10歳になるとギフトと言うものが身に宿る。
ある程度、血筋などで宿るギフトは決まるみたいだけど、私みたいに誰も聞いたことの無いギフトが宿る者もいる。
私のギフトは、念導力。それを聞いた大人は、どんな力か理解できなかった。幸いな事に、私には前世の記憶と言うのが少しある。
日本という国での記憶。とりわけ目立つ功績も無く、優れた知識も無い。今となっては、ネットで簡単に知識が得られた事が懐かしい。
5歳ぐらいの時に、前世の記憶と言うのが目覚めた。じっくりと、今の私と統合された。
転生特典と言うのは、今のこところ無かった。子供時代から、魔力を鍛えるというのは、残念ながら出来なかった。
ギール王国辺境の、小さな村。子供は俺1人だったので、幼馴染と一緒に冒険者になるとか、英雄になった幼馴染を、陥れると言う展開も無い。
魔物が徘徊する地域で、何度か村は壊滅した。その結果、生きのびられたのが私1人と言う最悪の状況なのだ。
この初等学校に行くために、村を離れていたのが、生きのびられた原因だ。昨日、私のいた村を含めて、その地方のほとんどが、魔物に滅ぼされたと聞いた。生存者の確認は絶望的らしい。
両親は、記憶が混ざる前に死んでいた。魔物に殺されたと聞く。
孤児院で過ごしていたけど、同年代の子供はいなかった。年上の子供はいたけど、孤児院を出た後どうなったのかは知らない。初等学校へ行ったと思うので、もしかしたらこの都市にいるのかもしれない。
ここに来るまでは、魔物に怯えながら、畑仕事を手伝う日々を過ごした。それ自体は、体力づくりになったので良かったと思う。勉強は、孤児院で簡単な学習をした。
基本的に、文字を覚えた時点で前世の知識が働き、学ぶべき事がほとんど無くなった。魔法がある事に喜びを感じたけど、ギフトを得るまでは使えないと知り愕然とした。
ギフト次第では、魔法は使えない。どんなギフトを得られるかは。それまでわからないので、仕方なく体を鍛える事にした。
この世界、強くなるにはトレーニングよりも実戦したほうが確実に強くなれる。
子供でも倒せる魔物に、牙鼠と言うのがいる。牙のある鼠で、村の良く出没していた。
小さな槍を作ってもらい、中距離から確実に仕留めていく。これを、ずっと続けていた。
異世界お約束の、ステータスの存在する世界なので、私もその恩恵を受けている、
スティック レベル 12
種族 人間
体力 D
魔力 F
基礎 C
幸運 F
ギフト 念導力 レベル 1
スキル 移動 レベル 1
わかるのは、これだけだった。
体力、魔力と言うのは、ありふれた数値だが、基礎というのが最初わからなかった。
色々と、考察を重ねた結果、総合的な強さを意味するらしい。
孤児院の先生の話だと、A~Fまでのランクがある。Aが一番上で、Fが最低。
平均的な成人男性は、幸運を除き、ほとんどの数値がCになるらしい。
幸運だけは、普通に過ごしていても上下はしない。何か行動することで変化するらしい。
今までの人生を振り返ると、Fなのに納得、ただ、その状況でも生きのびられたのでもっと上でも良い気がする。
レベルは、総合的な強さの数字で、これが高いほど基本的な能力は高い。
この教室を見渡すと、同じレベルの子供は数人いる。突き抜けた強さを持った子供はこの教室にはいない。
隣の教室は、化け物と思えるくらい、強い子供が集まっている。
気配と言うか、およその強さは、レベル10を超えるとわかるようになるらしい。強さを隠す存在もいるからあてにならないけど、目安としては重要だった。
隣のクラスに、化け物が多いのは、ギフトの影響だと思う。
強く優れたギフトを持った存在を、集めたのが隣の特別クラスだった。
この国は貴族制で、存在しているけど、貴族の子供は城塞都市ではなく、王都の学園に集められる。
子供の頃から、魔物を強い装備を使って倒しているので、ここにいる化け物よりも、もっと恐ろしい存在になっていると聞く。
近年、魔物との戦闘が激しくなっているので、戦力の確保にどこの国も鎬を削っている。
「私のギフトは、1キロ以下の物を1つ、私を中心に1メートル以内移動させられます」
これが、念導力で得たスキル。
ギフトのレベルが上がれば、新しいスキルが得られる。スキルのレベルが上がれば、出来ることが増える。
先日ギフトに目覚めたばかりなので、色々と確認したいことだらけだ。
この先、どうなるかわからないけど、生き残るためには、ギフトを生かす必要がある。
この教室には、まだギフトに目覚めていない者もいる。それ次第では、クラスが変わる必要もある。
暫定的に20人。それが今のクラスメイト。
初等学校は3年間。その間に、戦闘訓練や一般教養を学び、それぞれの道へ進む。
今のところ、目指す道は無い。異世界に転生したと言う喜びは、この5年間で薄れてしまった。
生き残るだけで手一杯だった日々。
城塞都市に来て、守られていることに、物凄く安心した。心が安らいだ。
安心して眠れる事が、これほど素晴らしいとは、今更気づいた。
だらだらと、眠って過ごしたいけど、それは無理だと承知している。
少しでも、良い生活をしたいと言う思いはある。そのためには、力が必要だ。残念ながら、俺には知識系のチートは無い。
料理で大成功とか、科学知識で凄い発明も無理。となれば、念導力を鍛えるしか道は無い。
クラスメイトの自己紹介を聞きながら、これからの事を考えるのだった。
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