*入学
4月。私立英秀学園。ここは創設10年目の中高大学一貫の超エリート学園だ。
ここの学園の創設者は、元総理大臣で改革を大きく進め、今の日本を作り替えたとされる、その名を知らない者はいない「神藤義彦」である。
この学園は基本的に中高大学一貫だが、毎年高校と大学で外部特待生制度を導入しており、全寮制の学園である。
特待生は学費は免除で、寮費も免除だが中学生レベルでは解けないような難関試験に平均97点の点数でなくては合格できない。
しかし、たった10年の創設でありながら、様々な業界でのエリートを輩出しており、倍率は250倍程度である。基本的に10人の特待生枠に2500人が受験する。
それに加えてこの学園の大きな特徴は「クラス分け」である。
基本的に3クラスありそれぞれAクラス、Bクラス、Cクラスの三つでありそれぞれが大きく異なる性質のクラスである。
Aクラスは「神藤義彦」が導入した、小学6年生を対象にしたIQテストで高得点を出した者。
Bクラスは一芸、例えばピアノの才能などに秀でた者。
Cクラスはいわば大手企業、財閥などの御曹司や令嬢の集まりと言ったところだ。
その学園の入学式に俺は参加する。俺は校門前でため息をつきながら言った。
「来るんじゃなかった・・・・・・・」
すると後ろから見知った少女の声がした。
「独り言、気持ち悪いわよ121」
「いい加減IQで呼ぶのやめてくれないかな?いい加減俺も不愉快なんだが・・・・・・」
「良いじゃない別に、特段低いわけでもないんだし、まあ、私よりは低いけど」
と少女は笑いながらからかうように言った。
この少女の名前は式守圭子、小学校が同じで実家もご近所、いわば幼なじみというやつだ。
小学6年のIQテストでIQ147のスコアを出し、中学からここへ通っている。つやつやの黒髪のセミロングヘアーで顔立ち昔から綺麗だったがより一層綺麗になっている、お胸もご立派になられて、、、しかしまあ女性とはこんなにも会わないうちに綺麗になる思いつつ。
「あんた良く受かったわね、ここの高校入試持ち出し禁止で過去問もまともにない割に超難問って聞くけど、どんな問題だったの?」
「国立の大学入試と大して変わらないよ、高校範囲の勉強ができれば受かる」
「そんな嘘バレバレよ、まっ、優也のことだから話してくれなさそうだし早く行きましょう」
まるでお前のことは何でも分かるわよみたいな口ぶりで圭子は校舎へと向かい始めたので俺も一緒について行く。すると
「ついてくんなし!」
と意地悪な感じで言ってきた。この女「早く行きましょう」とか一緒に行くみたいな口ぶりで言って来たのに何なんだ?さては最近流行のツンデレちゃんだな。
と思っていると圭子が
「全部声に出てる、、、てかツンデレじゃないし!!ツンデレなんて流行遅れも良いとこよ!!」
「ツンデレは永久に流行だよ」
とまあ冗談を言いながら一緒に校舎に入って行った。
「じゃあ私のクラスはこっちだから」
「ああじゃあな、俺は理事長室に呼ばれているからそっちに行かないと」
圭子と別れ理事長室へと向かう。
そして、理事長室の前に来てノックしながら
と言いい、「どうぞ~」と言う声がしたのでそのまま理事長室へと入り
「失礼します」
と言い一礼した。
そして、理事長「神藤義彦」が上機嫌で言った。
「やあやあ、待っていたよ!君が最後だね!いやあ新学期も楽しくなりそうだ!それじゃあ全員集まったと言うことでクラス分けと新入生挨拶の説明をするねー。」
俺は、テレビなどで見ていたよりも気さくな人だなと思いながらも、この人「ノンバーバル行動」に隙がないと思いながら話を聞いていた。
そして、秘書らしき男から10枚ほどの紙が配られた。
まず一番最初の紙は新入生全員のクラス分けと入試スコア。
Aクラス
新開司 IQ142 テスト平均97点
松原大吾 IQ139 テスト平均97点
鷺宮静華 IQ135 テスト平均97点
秋本優子 IQ134 テスト平均97点
斉藤健 IQ132 テスト平均97点
Cクラス
佐藤美和 IQ130 テスト平均97点
坂田悠人 IQ130 テスト平均97点
漆原麻衣 IQ130 テスト平均97点
阿部清春 IQ130 テスト平均97点
瀧峰優也 IQ121 テスト平均97.8点
と書かれていた。そして理事長が
「その最初の一枚目は今日の新入生挨拶で発表しまーす!そしてその上で自己紹介をして貰いまーす!で、クラス分けは書いてある通りだから、そして後の紙は時間あるときに呼んどいてねー!説明は以上!質問がある人は?」
そして俺は手を上げた。
そして、理事長が
「はい!瀧峰君!どうぞ!」
「この入試問題は理事長がお作りになったんですか?」
「そうですよー!」
「そうですか、ありがとうございます」
と言いながら一礼した。そして一杯食わされたと自分のしくじりを後悔するのであった。
そして理事長が
「他に質問はーー?・・・・・・無いようなのでちょっと廊下に出て待っててねーちょっと準備してから講堂に一緒に行くからー!」
と言われ俺たちは理事長室の前の廊下で待たされた。
「はぁ~疲れた」
「お疲れ様です神藤さん」
「西郷、お前どうだった新入生?」
「一人を除けば例年通りかと」
「その心は?」
「あの瀧峰という少年、IQがなんと言いますか・・・・・・はっきり言って他と比べると低いです、他の97点代でIQが129の人もいたのになぜ彼を選んだんですか?」
と、西郷は考え込みながら疑問を投げかけた、すると神藤は淡々と
「私が作った問題で、これだけIQが高いのになぜ97点しか出せなかったと思う西郷?」
その問いに
「それは神藤さんが捻くれているから・・・・・・あえて満点を取らせず、むしろ97点が満点と言うことでは?」
と西郷は少しはばかりながら答えた。そして
「半分正解だ。私が捻くれているのは正解、でも絶対に100点が取れない問題にしたわけでは無い」
と苦笑しながら答える。しかし西郷は更に疑問が増える。
「確かにあの瀧峰という少年は平均点が97.4、理数系では100点、しかし国語、社会では97点、英語に関しては95点でしたよ」
「彼は計算してそれを行ったんだよ、本気でやれば全教科満点だったろうね」
「どうしてそんなわざわざ?」
「西郷はテストの方式覚えているか?」
「はい、もちろん、最初に告知されていない、まぁだいぶ世間ではバレてるとは思いますがIQテストを行い、その後国数英理社の中から自分の好きな順番で科目を受験する、カンニング防止にもなりますからね」
「そこでまず彼はいつも通りIQテストを行い、わざと121になるようにした」
「わざと?なぜそんなことを?」
「理由はどうでも良い、それよりこの後が彼にとって予想外の事があった」
「予想外の事?」
そして神藤は急に真面目になり話した。
「彼は一番配点の大きい3点の問題を見たときにこれはIQが300以上無いと答えられない問題だと気づいた」
西郷はようやく疑問の解決の糸口にたどり着始めていた。
「と言うことは神藤さんは各科目にその問題を『IQが300以上無いと答えられない問題』を3点配点で準備したと言うことですか?」
「そういうことだ」
そして西郷は最後の疑問を投げかけた。
「ではなぜ彼は全て97点にしなかったのですか?IQをわざと偽るようなら気づいた時点でそうするべきでは無かったのですか?」
すると、神藤は少し考え込み答える。
「これは予想だが、彼は理数系、つまりは科学に関して絶対の興味、こだわり、そして自分が行ってきた今までの科学への学びについて絶対のプライドを持っていた。だから、問題を見たときにIQの事よりも、こだわりやプライドが勝ってしまった、だからあの点数になったんだね、だから『あんな質問』をしてきた」
「なるほど、つまりは彼も神藤さん同様にIQ300以上だということですか?」
「ま、結果を見ればそうなるね」
「それに彼は私と西郷のノンバーバル行動をずっと見ていた、そして自分も自分の行動に気を配りながら」
ノンバーバル行動とは簡単に言えば、相手の微細な表情の変化、体の身振り手振り、姿勢や距離と言った非言語的コミュニケーションの一種であり、FBIのベテラン捜査官でも会得するのに相当な時間と労力を要する。それを15歳の少年が会得している事実に西郷は驚きながら
「一度に2人の視線や体の動きを見て、相手がどういう状態か判断していたと?」
「そういうことだね、彼は科学分野に特別な関心があるようだね」
「ノンバーバル行動は行動心理学ですよ」
「いいや、あれは脳科学だ、それに心理学も科学だからね」
そして、少しの沈黙が訪れた後西郷が神藤に尋ねる。
「彼を王座に座らせるおつもりですか?」
「それはまだ判断できないよ、『彼女』もいることだし、でも適正で言ったら彼かな、彼のプロフィール見てみ」
と神藤は西郷に瀧峰のプロフィールを渡す。すると西郷は驚き声を上げた
「なっ!!」
『瀧峰優也 親はごく平凡な一般家庭、息子のやりたいことは全てさせてあげる両親、5歳から7歳までの間に劇団に所属していたが子役のスカウトを断り退団、7歳から10歳までの間にフェンシング、剣道、柔道、合気道を習い、どの大会でもわずか3年で全国大会出場もどの大会も優勝候補を倒した後様々な理由を付けて棄権し、辞める。その後11歳から14歳までムエタイ、ボクシングを始めるも、これも同様に全国大会を棄権し辞める。14歳から15歳までの間に約4ヶ月アメリカに短期留学、クラヴ・マガを習得、その後ロシアに短期留学し、システマを習得、現在はキックボクシングと総合格闘技を嗜む。日課はジョギングで毎日朝5時に起きて柔軟を行い、その後2時間走り続けること、これを7年間欠かず続けている。さらに5歳から読書を始め、漫画から学術書までジャンルを問わず一日5冊以上読み、部屋はあっという間に本で埋め尽くされ、場所的にも金銭的にも困り果てた両親が優也が7歳の誕生日プレゼントとしてタブレットを買い与え、電子書籍で本を読むようになる。同時に株式投資も始め、スイスに母親名義の口座が作り、更に母親名義で不動産を持っており、書庫として利用。この時から両親には読書は飽きたのだと思われているため、あまり気にされていない。留学の際も株式投資で得たお金で行ったが、両親には外国にいる友達の家に泊まるという名目で誤魔化している。9歳を越える頃には読書は一日40冊に及ぶこともあり、彼の推定睡眠時間は1時間半から3時間。しかし、大きな功績も無いため有名では無い。』
そして、意味深に神藤が呟く
「だから彼をCに入れたのさ」
神藤と西郷が理事長室から出てくる。そして神藤が
「ごめんごめんお待たせーーじゃあ講堂に行こっか!」
と陽気な感じで皆に説明を始める。
「さっき言った通り、皆の入試スコア発表させていただきまーす!そう上で自己紹介をして貰いまーす!時間は無制限、何でも好きなことを話して良いよ!」
と神藤が説明説明している間、西郷はこちらを目を見開きながら凝視し、瞳孔は開いている。これは俺に対しての興味への表れか、しかし腕を組んでいる、これは警戒心、敵対心の表れだ、だが足はこちらを向いている、と言うことは概ね俺に興味があるが警戒している、とすると俺たちが待たされていた間、学園長室で話していたことは概ね予想ができる。すると、その西郷に気づいたのか、神藤が表情も動きも変えずに、自分の肩を三回ポンポンポンと軽く叩いた。すると西郷は唇をなめながら俺に対する行動を止めた。これはジェスチャーか?概ね、『落ち着け』か『止めろ』のジェスチャーであろう。そして神藤が
「それじゃあ、行こっか!」
そのまま講堂へ行き、新年度会+新入生挨拶が始まる。
まずは、学園長の挨拶。
「今年度も皆さんの顔が見られて、本当に嬉しいです。これからも君たちの活躍に期待しています。それでは新入生の挨拶を始めます。」
あくまで淡々と学園長の挨拶を終え、プロジェクターに新入生のスコアとそのクラス分けが表示され、順々に自己紹介をしていく。順番はクラス分けの紙と同じ、つまり俺の順番は最後と言うことになる。
Aクラスに振り分けられた5人は当たり障りの無い挨拶をし、他の1、2、3年のA、B、Cクラスは全く興味を持たず、話をしている者、考え事をメモしている者、スマホをいじり出す者と様々いた。しかし6人目「坂田悠人」のスピーチが始まった途端、全学年のAクラスの全員、Cクラスの大部分、Bクラスの一部が話を聞き始めた。坂田は元気よく
「みなさーーん、おはようございまーーーーす!!僕の名前は坂田悠人でーーす!!」
そして急に声のトーンを落とし、
「自己紹介と言うことなので僕の身の上話をします、僕は8歳まで父から虐待を受けており、母が父と離婚し母子家庭で今まで育って来ました。そこで僕は今まで育ててくれた母への恩返しにこの学園に入って、しっかりとした職に就き、母に親孝行したいと思い猛勉強ををして特待生枠でこの学園に入ることができました。」
そしてまた声のトーンを上げ、元気よく
「なのでーー、今まで友達がいたことがないのでこの学園でたくさん友達ができたら良いなーと思ってます!!どうか仲良くしてください!!」
坂田のスピーチが終わり、初めて拍手が起きた。しかし主にそれは全学年のBクラスの一部とCクラスの大半である。
全学年のAクラスはこの話が嘘か本当か考えている。
そう、この坂田の話には矛盾がある、父親に8歳まで虐待を受けていて、友達もおらず、こんな性格になるのか?母親がよほど良い人なのだろうか?しかし、この明るい性格であれば友達を作るのにも苦労は無いはず、それに、9歳から母子家庭で育ちそこから猛勉強してこの学園に入れるのか?公立の図書館を利用すれば大抵の勉強はできるがそれだけでこの学園の試験を突破するのは容易ではない。家庭環境が整っている大部分の人が落ちているからである。しかもIQテストでもそこまで大したスコアを出しているわけでも無い。
つまり坂田の話には整合性が取れていないが、それに気づいたのはIQの高い者で知識がある者。坂田は典型的な『サイコパス』である可能性が高い。だが、この話が嘘だと見抜くことは不可能である。なぜならどんな心理学者でも脳科学者でもベテラン捜査官であっても嘘を見抜ける確率は50%程度、コイントスと同じ、つまり人間は嘘を見抜くことができない。こいつは要注意人物だ。多分全学年のAクラスの大半が俺と同じ事を思っているであろう。
そんな事を考えながら、また退屈なスピーチが始まる。1人また1人と当たり障りの無い挨拶を済ませる。
そして、俺の番が来た。この状況は俺にとってはアウェイである。なぜならプロジェクターに俺のIQの低さが表示されているからである。人間には『初頭効果』といって第一印象がその後も大きな影響を与え続ける、つまり、今の俺はこの学園からしたらIQの低い、勉強だけしてきた『ガリ勉君』というのがここの生徒全員の共通認識であるだろう。
そして俺は壇上に立った。周りはざわついている、AクラスはIQの低さを馬鹿にしている者、俺に全く関心の無い者。Bクラスもほとんどが俺に感心を持っていない、Cクラスの大半は俺を小馬鹿にしている。ざわついている。
なので黙った、最初の1、2分は「おいおいどうしたー、緊張で声も出ないのか?」などとヤジが飛んでくる、だがひたすら黙る、4、5分位して静寂が訪れた、だが黙る。Bクラスの連中にも興味を引かせるため、そして8分ほど経過したとき、この静寂に違和感を覚えたBクラスのこちらを見た。そして俺は話し始めた。
「初めまして、僕の名前は瀧峰優也です。僕は幼い頃から、フェンシング、剣道、柔道、合気道、ムエタイ、ボクシングなど様々な競技の大会で全国大会まで行きました!」
すると全員がスマホを取り出し検索し始め、ざわつき始めた。そして、またこちらに興味が移った事を悟ると少し語気を強め
「更に去年、一昨年にかけてアメリカではクラヴ・マガの、ロシアにはシステマの格闘技の短期留学しておりました、そして今はキックボクシングと総合格闘技を嗜んでいます。なので格闘技に関してはかなりの自信を持っています!」
そして淡々と
「日課は毎日の柔軟と2時間のジョギングです、なので体力にも自信があります」
「そして趣味は読書で毎日30~40冊の本を読んでいます、なので色々な知識があると自負しています」
「最後に、僕はとても飽き性で色々なことに良く目移りしちゃいます、それに色々なことにに夢中で時間を守ることができません!こんなIQも低く欠点だらけの僕ですが皆さん仲良くしてください!」
最後は語気を強めて言った。
拍手こそ起こらなかったものの、記憶には残せた。これは、ハロー効果と大衆扇動の合わせ技である。
最初の沈黙は注目を集めるため、最初の一文は自分の社会的証明、つまりは他人の行為や大々的に報じられた情報などによって、その後の自分たちの行動や判断が影響を受けてしまう事、今回に限っては皆が同じく『スマホで検索する行動』を取った、そして俺に張られた『ガリ勉君』というレッテルは剥がされ、新たなレッテルに張り替えられた。
そして、残り二つは自分の強みを言い、最後に欠点を言って聞き手に親近感を持たせる。
まあ多少強引なやり方ではあったがこれで少しは居心地も良くなるであろう。
GRORIOUS REVOLUTION(仮) @k-pum
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