第四話 ミナユキを探せ
朝食を済ませると、一同は売店へと足を運んだ。
温泉土産といえば、饅頭が定番だ。ただ、雨梨先輩も旅行に行っていると考えると、被らないようなものがいいか。
これが沖縄だったら、ちんすこお。
福岡だったら、めんたいこ。
そういった土地柄の定番土産があればいいのだが、関東の温泉の定番なんてものはない。
長野だったら蕎麦に逃げられるか、いや高校生の土産に蕎麦はどうなのだろう。こうなったら、旅館の屋号が印字してあるタオルでも買ってやろうか。
親父や多摩雄さんはどうするのだろう。見ると日本酒や焼酎に手を伸ばしていた。
大人はそういう逃げ道があるから、ズルいよな。何の参考にもなりゃしない、オレはみのり達の方へと足を伸ばした。
二人は何故か、キーホルダーに目をやっていた。
お土産屋にありがちな、人の名前のキーホルダーだ。子供っぽいのはお前の方じゃないか、とオレはみのりに茶々を入れた。
「違います、ミナユキを探してるんです」
あるわけがない。
こういったものでミナユキはおろか、ミナトやミナオも見たことがない。次いでに言うと、ミから始まる男の名前自体がレアだ。あったとしても、ミナちゃんかユキちゃんだろう。
「ありました」と言ったのはタマちゃんだった。
嘘だろ、とオレとみのりが顔を合わせてタマちゃんに近づく。ミナユキではなく、ミユキだった。みのりとタマちゃんは残念そうな顔をしたが、本当に残念なのはオレの名前の方である。
これでタマユキがあったらどうしようと思い、タ行に目をやる。タマユキは無かったが、タマキはあった。まぁ、普通にタマキはあって当然だろう。
マ行に目をやり、みのりを探してみる。ミオ、ミカ、ミク、と女の子の定番の名前を読み上げていくと、ミナミの次がヤエだった。マ行の女の子の名前は、ミナミで終わりかよ。
「みのりもあったこと、無いんですよね。実は……」とみのりは何故か嬉しそうに言った。
そんな珍しい名前じゃないと思ったが、考えてみると芸能人やクラスメイトにも見たことは無かった。
自分があまりにも珍しすぎる名前だから、他の人の名前がどれだけの希少具合なのかが良く分からない。
知名度との兼ね合いもあるのだろうが、もしかしたら多摩雄さんもそれなりに珍しい名前かもしれない。
「いや、土産どうするよ」
名前が云々は、どうでもいいだろう。今は部員みんなの土産を選ぶ時間だ。
「あたし達も買った方がいい?」とみのりが言った。
「どういうことだ?」
「あの、わたし達も買うと、一緒に旅行したってバレません?」とタマちゃんが言った。
本当、オレはどれだけ馬鹿なんだ。全くもって二人の言う通りだった。
タマちゃんはまだしも、みのりまでお土産を買ったら、どういう事態になるのか火を見るより明らかだった。
そして、部員への土産はオレが手配する流れになった。
二人のアドバイスを貰って、オレが選んだのはどら焼きだった。これなら、先輩と被るのは避けられるだろう。
二人もクラスの友達用に、同じようなものを選んだ。この二人って、部員以外で友達いるのかと思ってしまった。失礼にも程があるだろう。
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