第三話 やきざかな・なっとうおしんこ・のりたまご


 混浴したのをバレないように、タイミングをずらして風呂を出た。


 部屋に戻ると、既に布団は畳まれていた。多摩雄さんに余計な仕事をさせてしまったのを詫びると、どちらかといえば風呂に行くなら誘って欲しかったとのこと。


 確かに多摩雄さんを起こせば、タマちゃんの不在を確かめられたに違いない。


 しばらくするとタマちゃんも戻ってきたので、部屋の撤収に取り掛かる。


 と言っても着替えと、荷物の片づけだけだ。従妹は既に私服に着替えていたので、荷物を持って先に出て貰った。


 オレはと言えば、何故か知らんけど、顔をまともに見れなかった。残った野郎二人は手早く着替えを済ませ、部屋に礼を言って後にした。


 稲瀬親子と親父と合流し、食堂へと足を運ぶ。焼き魚、納豆、お新香、海苔、タマゴ。朝食は至ってシンプルというか、旅館と言えばコレという内容だ。


 やきざかな、なっとうおしんこ、のりたまご。読み上げてみると、見事に五七五となるのに気が付いた。


 オレは苦手な納豆を親父に押し付けると、従妹も納豆を多摩雄さんに譲っていたのに気づく。聞けばオレの亡き母も、タマちゃんの母も納豆が苦手らしい。可愛いし、妙なところで血の繋がりを感じる。


 聞けばタマちゃんは他にオクラやトロロが苦手という、分かり易い嗜好を持っていた。


 オレはネバ系が駄目なわけじゃないので、オクラやトロロは嫌いじゃない。麦飯とトロロとか、最高に旨いと思うくらいだ。


 納豆は匂いの問題である。最近では匂わない納豆もあるというが、それでも駄目なものは駄目だった。


「好き嫌いなんて子供っぽい」とみのりが言った。


「んだよ、お前は無いのかよ」とオレが言うと、みのりは自慢げな顔で頷いた。


 一緒に暮らし始めて一か月も経たないが、確かに思い返してみれば、みのりが食べ物を残すのは見たことが無かった。


 オレも納豆以外なら出されたものは食べるけど、あれが駄目とか苦手とか聞いたこともない。そういう面を鑑みると、やはり出来た娘なのだ。


「梨花ちゃんだ」


 ぼそりとタマちゃんが呟いたのを見ると、彼女の目線はテレビに向いていた。


 画面を見ると、いつもタマちゃんが飲んでいる乳酸菌飲料のテレビコマーシャルだった。オレらと同じくらいの年齢のアイドル三人が、美味しそうにジュースを飲んでいた。


「ほたるちゃんも可愛くなったなぁ」


 親父がテレビを見て言った。知らぬ名前に、オレの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。


「知り合い?」


 オレの問いに、親父が馬鹿を見るような目でこっちを見た。大げさな態度が、少しオレの癪に障る。


「ほたるちゃんも覚えてないのか、ミナユキ」


 親父がテレビを指して言った。画面には髪を両サイドに結った女の子と、ロングヘアの女の子と、タマちゃんより少し短くてフワフワの髪の女の子が映っていた。


「あの髪の短い子、俺の兄貴の娘だ」


「……ふーん。オヤジの親戚か」


 テレビに映っているアイドルの子が、どうやら親父の親戚らしい。アイドルなんざ全く興味の無いオレは、再び茶碗を持って食事を再開した。


「いや、お前の従妹って事だからな?」


「は?」


 顔を上げると親父は呆れた表情で、みのりとタマちゃんが驚きで目を丸くしていた。


「オレ、タマちゃん以外に従妹居んの?」


「逆に何でタマキしか居ないと思った」と多摩雄さんは噴き出した。


「それを言ったら、マキの妹にも娘が居るからな。それも従妹だぞ」


 面倒くせえとオレは思った。ただでさえ、みのりとタマちゃんで一杯一杯なのに、これ以上家族なんて要らねえよ。とオレは辟易しそうになった。


「ちょ、ちょっと待って、パパ。ということは、ホイップの"ほたっち"が、兄さんの従妹ってこと?」


「そうだな。今はみのりの従妹でもあるのか」と親父は笑った。


「あたしとタマキ、ホイップの"ダテリカ"と友達なんだけど……」


「そうは凄い偶然だな!」と親父はワザとらしく驚いていた。


 アイドルなんて心からどうでもいいオレは、無視して魚の身をほぐしていた。


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