第三話 ビッグイベントの登場


 ケーキも食事も済ませた一同は、雨梨先輩が持ってきたボードゲームで遊ぶ流れとなった。


 数字が書かれた星型のコマを星座ボードに伏せて置き、置いたコマの個数で点数を競い合う単純なゲームだった。


 六人でもプレイ出来る上、星座の知識も不要。単純なルールなので、大盛り上がりだった。


 ブラックホールの存在が勝負の決め手になるので、オレはゲイザーへ集中してブラックホールを置いた。向こうも同じことをしてきたので、オレとゲイザーはお互いの足を引っ張り合って最下位争いとなる。


 四回戦現在での戦績は、先ほどまでドンケツだったゲイザーが数ポイント差でオレを追い抜いた。ケツになってしまったが、次の戦いで奴の息の根を止めてやろう。五回戦目の準備をしていると、家のチャイムが鳴った。


 折角の五回戦に水を差す奴は誰だと、玄関へ応対に行ったゲイザーが意外な人物を連れて戻ってきた。


 オレのクラスメイトで、野郎二人の友達のジャッカスだった。奴は直接、さつきちゃんとの面識はない。何しに来やがったと問うと、貸りていたCDを返しに来たとのことだった。


「初めまして、ジャッカスです」とジャッカスは馬鹿だから、あだ名で自己紹介をしやがった。


「大野さつきです」とジャッカスの馬鹿を気にせずに、恭しくさつきちゃんは言った。


「何でも、誕生日だそうで。おめっとさん」とジャッカスはいつもの適当な口調で言った。


「あ、ありがとうございます」とさつきちゃんは頭を下げた。


「それじゃ」とジャッカスがリビングを後にする。何しに来たんだとゲイザーに問うと、誕生日会やってるなら、挨拶はしておこうとのこと。本当に挨拶しただけじゃねーか。


「あ、そうだ」


 ジャッカスに会ったら、聞きたい事があったのを思い出した。五回戦目は不参加と、オレは雨梨先輩に言ってから廊下へと出る。玄関でスリッパを脱いでいるジャッカスの背中に声を掛ける。


「おい、ジャッカス」


「なんだ?」とオレの声にジャッカスは見上げるように振り向いた。


「お前さ、多摩雄さんの奥さんが誰か知っていた?」


 もしジャッカスがそれを知っているならば、オレと多摩雄さんが親戚だったのも把握している筈だ。もしかしたら、タマちゃんが従妹だというのも、既に知っているかもしれない。だとしたら何故に黙っていたのか、問いただす必要があった。


「お前の亡き母親、ユキさんの妹だろ。境……じゃなかった、今は南か。南マキさん」と立ち上がりながらジャッカスは言った。


「知ってたのか、お前」


「ああ。娘に関して聞かれたとき、親父に話を聞いてみた」


 この間、多摩雄さんの娘の話を振った日の晩、ジャッカスは自分の父親に電話して聞いてくれていたみたいだ。こいつの父は自衛官をやっており、多摩雄さんとは筋肉仲間である。


「タマちゃんが多摩雄さんの娘だってのも、知ってたのか?」


 知っていたのなら、黙っていたのは何故だ。


 自分も秘密を多く抱えている身として、ジャッカスにも何か事情があったのは察することは出来る。だけど、オレはタマちゃんの従兄だから、その辺りはハッキリ把握しておかなければならない。


 緊張した面持ちでジャッカスを見ると、目の前のイケメンは衝撃の一言を繰り出した。


「タマちゃんって、誰だ?」


「うちの部員の、南タマキちゃんだよ」


 ふざけているのかと思い、オレは少し苛立った口調で返した。だけど、ジャッカスは決して、ふざけてなんかいなかったんだ。


「南ちゃんって……え、あの子タマキって名前なのか!」


「知らなかったのか、お前」


「当たり前だ! じゃあ南ちゃんって、お前の従妹じゃん!」


 ジャッカスは驚いた声でそう言った。イケメンの間抜け面を見て、オレはようやく理解した。


 義妹も従妹もジャッカスの本名を知らなかったように、この馬鹿もタマちゃんの本名を知らなかったのだ。


 そういえば、コイツは何度か部室に顔を出してはいるが、後輩二人の紹介をきちんとした事は無かった。


 もしかしたら、オレがちゃんとタマちゃんを紹介していたら、こんなことにはならなかったのかもしれない。


「それって……どういうこと?」


 振り向くと、ゲイザーと雨梨先輩が立っていた。その後ろには青い顔したタマちゃんと、みのりのしかめた顔があった。


 不覚にもジャッカスの大声は、リビングに居た部員達の耳に入ってしまったようだ。何かが音を立てて、崩れるような錯覚に陥った。


 この場に居る全員の記憶を消せればと思ったが、そんな芸当が出来るわけがなかった。ビッグイベントは昨日だけでなく、今日も起こってしまうのだった。


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